第三十五回(平成二十五年度)講談社ノンフィクション賞は、高野秀行氏の『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)と角幡唯介氏の『アグルーカの行方』(集英社)の二作品が同時受賞した。高野氏と角幡氏は、早稲田大学探検部の先輩・後輩にあたる間柄だ。二人にとって、探検とは、冒険とは何か? 縦横無尽に語った受賞記念対談をお届けする。
能と狂言
著:角幡唯介
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高野 講談社ノンフィクション賞の選考会では、僕と角幡の作品は「能と狂言」とか「文学と三枚目」とか、対照的な評価だったようだけど、角幡の『アグルーカの行方』を読んで、すごく近い部分というのも感じた。
たとえば本音の部分をどんどん出していくところ。食い物の話で、チョコレート嫌いだったけど、だんだん旨くなっていくみたいな話を書いていたでしょう。ああいう話は従来の冒険物にはあまり出てこなかったことだと思うんだよね。そういうことは書かないほうが緊張感が保てるんだけど、角幡はあえて出してくる。
それで緊張感が下がるかというとそんなことはなくて、現実の厳しさと自分の切実で滑稽な部分のギャップを見せることで、むしろリアリティが増している。僕もまったく同じことをやっているから、角幡のやろうとしていることはすごくよくわかった。
角幡 そういう部分は、お互い探検部出身らしいところですね。
高野 でも、おれはやりすぎるところがあるので、角幡を見習ってユーモアは寸止めぐらいにしたほうが賞を獲りやすくなるんじゃないかと、いろいろ学ぶところがありました(笑)。もうひとつ、角幡は、自分の探検紀行と過去の探検記録を重ね合わせて重層的に物語を作っていくのがすごくうまくて、毎回この手法を取っているけれど、やるごとにうまくなっているよね。『アグルーカ』は前の二作と比べるとまた格段にうまくなっていた。
角幡 選考会では、高野さんのほうが僕より年下だと思っていた選考委員もいたみたいですね。
高野 おれ、処女作『幻の怪獣ムベンベを追え』(PHP研究所)を出したのが一九八九年だから、実は(選考委員の)髙村薫さんとか重松清さんよりデビューが早いんだよ。キャリアが無駄に長い(笑)。
著:高野秀行
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角幡 僕は高野さんの『西南シルクロードは密林に消える』(講談社)を読んでこういう探検ノンフィクションを志すようになったんですが、今回の『謎の独立国家ソマリランド』は『西南シルクロード』以来の渾身作だと思いました。高野さんの取材のやり方というか旅のしかたというか、これまででいちばん高いレベルで行なわれていると感じましたね。
高野さんの作風の特徴というと、ものすごく対象に近いところに身を置いて書くというところだと思っているんです。その手法として、行動をすべて相手に委ねてしまう。それによって相手の中に深く入り込んで、内部的な視線を獲得してるんだなというのが、『ソマリランド』を読んで初めてわかったんです。そのあと、『西南シルクロード』を読み返して、昔から同じことをやっていたんだということにあらためて気づきました。
高野 うん、やり方は変わっていないね。
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