探検家・角幡唯介さんインタビュー(1)太陽のない世界 残っている

 チベット奥地の峡谷にある人跡未踏の地を探検したノンフィクション作家の角幡唯介さん(36)が2度目の北極に旅だった。太陽が昇らない冬の極地を通信手段やGPS(全地球測位システム)機器を持たずに、数百キロにわたり単独で歩く計画だ。なぜ探検家は厳しい自然のなかに身を投じるのか。出発前に話を聞いた。

 ――北極行きの計画はどのようなものですか。

 「太陽が昇らない世界を、六分儀で星の位置を観測し、自分の位置を割り出して旅をしたいと思っています。まず、カナダ北部に住む民族であるイヌイットの村で、六分儀が実際使えるか確かめたり、氷雪のブロックを積み上げた家のイグルー作りを練習したりします。後は現地の状況を見て、行程を決めようと思います」

 ――何日くらいの旅になりそうですか。

 「12月初めから、2か月くらいです」

 ――GPSも、衛星携帯電話も持たないそうですね。

 「探検の魅力は、深く自然のなかに入り込むことです。そこで、自然の横暴さや、人間の力でどうしようもない力を体験し、危機を乗り越えていくところに、引きつけられます。GPSや携帯は、その探検の重要な側面をそいでしまう。GPSがないと、この先進めるのか、戻ったほうがいいのか葛藤があるはず。でも、それが極地を旅する事の意義じゃないかと思います」

 ――自然に深く入り込むことで見えてくるものは何ですか。自分の内面ですか。

 「内面ではないですね。外の世界との関係性だと思います。自然の中の苦難や危険に直面する事で、外の世界における自分の居場所みたいなものが、感覚的に確固たるものになっていく。会社勤めでは、得られない感覚だと思います」

 ――北極の自然に期待するものはありますか。

 「冬のイヌイットは、太陽の明かりがないところで暮らしていました。太陽がない、しかも極寒というのは、イヌイットの世界観に大きな影響を及ぼしていたわけです。獲物が捕れず、バタバタと餓死する世界でもありました。いまは流通が発達して、餓死する人はいなくなりましたが、太陽のない世界は残っています。そこで暮らしてきた人間の生活を見てみたいと思います」

 ――北極を歩いている時は何を考えているのですか。

 「あまり特別なことは考えないですね。ふだん町中を考え事しながら歩くじゃないですか。それとあまり変わりませんよ」

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
 1976年、北海道生まれ。早大卒。同大探検部OB。元朝日新聞記者。2011年に「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」で大宅壮一ノンフィクション賞など受賞。最新作は、北極で19世紀の英国探検隊の行方を追った「アグルーカの行方」。

2012年11月29日 読売新聞)

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