探検家・角幡唯介さんインタビュー(2)給料よかったけど、焦燥感ない
――困難にあたると集中力が高まるという事はありますか。それが旅の理由になっていませんか。
「北極では、単調な日常が続くことが多く、そのようなことはないですね。北極は、そこが不快な環境だというのが旅に向かわせる大きな理由ではないかな」
――北極は不快なんですね。
「寒いし、風は強いし、足は冷たいし、不快な点を挙げれば切りがない。行っている間は嫌なんです。早く帰りたいと思う。でも都会暮らしは、物足りなくてまた行きたくなる。深い自然に、自分の中の原始的な部分を刺激されたいのではないかと思います」
――探検と日常生活は1年を通じて、どんな感じですか。
「いまは、国内の山にも全然行けていません、仕事で。だから欲求不満がたまってしまっています」
――東京の生活は鈍感になりますか。
「鈍感になるとかいうよりも、動くのがおっくうになってきてしまって。ずっと仕事をしていると、これはこれで、楽でいいや、と思ってしまう。だから今回、無理して準備して北極行きを決めました」
――楽で流されることは多いと思います。
「僕は、新聞記者をなぜ辞めたかというと、生きている感覚が乏しくなってしまったんですね。給料もよかったし、将来の不安もない。毎日飲んで遊んでいたし、楽しいんですけど、ヒリヒリした焦燥感みたいなものがなくなってしまったというのが一つの要因としてありました」
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ) |
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1976年、北海道生まれ。早大卒。同大探検部OB。元朝日新聞記者。2011年に「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」で大宅壮一ノンフィクション賞など受賞。最新作は、北極で19世紀の英国探検隊の行方を追った「アグルーカの行方」。 |
(2012年11月30日 読売新聞)
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