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出井さんは「VAIOは壊れやすい」と語った SONYのPC事業撤退劇

Macintoshが30周年を迎えた。ほぼ同じタイミングでSONYがPC事業を売却することを発表した。偶然のような必然である気がしてならない。

かつてVAIOは希望だった。紫色の薄いノートPC(PCG-505)が出たのは1997年の11月だった。私は社会人1年目で、右も左も分からないまま、営業活動に没頭していた頃だ。当時、IT業界を担当する営業グループが、商談の際にプレゼンをする必要があり、薄くて軽いノートPCが必要とされ、VAIOが導入された。クールな端末を持ち歩いているだけで、そのグループの人たちが羨ましく感じた。

しかし、それはすぐに絶望に変わった。数ヶ月して、熱で端末が反ってきたのだという。あり得ない。ただ、品質面には大きく問題があるわけだが、前向きに捉えるとしたならば、いち早くクールなWindowsのモバイルノートを投入したかったということなのだろう。

その後、さらに絶望的な話を聞く。あれは2003年の秋だったか。当時、リクルートの出資先の企業で広報担当者をしていた私は、普段からジャーナリストと接することが多かった。ある経済ジャーナリストで、経営者をよく取材している方がこう言った。「VAIOは壊れやすいって、出井さんが自ら言っていたよ。彼はThinkPadを使っているはず」耳を疑ったが、お会いするたびに、出井さんから直接聞いた話として、そのエピソードを紹介していた。SONY勤務の友人も業務用端末は実はThinkPadだと言っていたような。VAIOはもともと家庭用なので、業務用の端末を分けることはまだわかるのだが。壊れやすいなら、なんとかしろと言いたくなった。

VAIOはたしかに、クールなデザインだった時期があったし、最近のデスクトップ用ではフルハイビジョンのディスプレイを導入しており、画面は相当綺麗だった。SONYらしく、メモリースティックを採用し続けていたのも特徴だ。自分自身がユーザーだった。最近まで自宅で使用していたVAIOのType Jは震災の前の日に届いたものだ。家族や自宅はもちろん心配だったけど、同時にこのPCが倒れていないか心配だったっけ。

こう見えて、『MacPeople』というマック雑誌の連載を持っていることと、もともと電気製品が好きなので、PC売り場にはよく行く。以前は、それこそ当初の紫のVAIOのように、変わった色を使うことで売り場で目立っていたVAIOなのだが、現在は他のメーカーのものと並んでもクールだと思えなかった。それだけ他社が頑張ったということなのだろうが。

以前は、メモリースティックというエコシステムがあり、VAIOを買う意味があったのだが、現在ではSDメモリカードも採用しており、あまり意味がなくなった。

もともとPC事業というのは、市場の成長性も疑問視されており、特に家庭用に特化しているSONYなら撤退も当然だと言えるだろう。

さて、ちょうどMacintoshは30周年だ。記念サイト映像も話題となった。

MacPeople 2014年3月号 [雑誌] (マックピープル)


MacPeople 2014年3月号 [雑誌] (マックピープル) [Kindle版]
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス2014-01-29

「常見陽平の年収の上がらないマックの使い方」を連載している『MacPeople』では、30周年記念特集が組まれていた。

胸が熱くなった。

Macは世界を変えたとか、革命を起こしたとか、ジョブズすごいとか、いかにもIT系記事をソーシャルメディアでシェアしまくる、意識高い系みたいなことを言うつもりはまったくない。

何がすごいかというと、失敗っぷり、試行錯誤っぷりがすごいのだ。

Podcast「陽平天国の乱」の最新号でも、この特集の面白さについて語り倒したが、わかりやすい成功だけでなく、振り切ったトライを行っているのが興味深い。ジョブズバンザイ、Apple最高というものでは決してなく、たくさんの失敗をしているのである。

約80万もしたという、Appleとして初の液晶ディスプレイ搭載型だった、20周年記念Mac(のちに、25万円くらいで叩き売りになったらしいが)、美しさを追求したものの、拡張性が低かったPower Mac G4 Cubeなどなど、振り切った失敗を多数している。

受け入れられ定着したものの、MacBook AirなどをWi-Fi専用端末にしてしまったこと、最近ではMacBook Pro Retinaモデルから内蔵型SuperDriveを取り除いてしまったことなど、これまた思い切ったことをしている。

SONYのVAIO事業というのは、振り切ったトライをしていそうで、実は色使いとデザインの工夫、ちょっとした機能の違い、メモリースティックというエコシステムが特徴だったわけで、無難なものを作り続けていたのではないかと思ったりする。

ここで少しフォローしておくと、よくこういう話をすると「最近のSONYは、SONYらしくない」話が出るわけだが、これもちょっと違う。こういうことを言う人は、ちゃんとSONY製品の売り場、カタログを見たのかと問いただしたい。イノベーティブでクールな商品を出すのがSONYらしさだとするならば、各領域で(特に、デジタルガジェット系や、意外にもオーディオ系で)そんな商品は出ている。例えば、キッチンから子供を監視するカメラや、ヘッドホンアンプ、ハイレゾオーディオ、わかりづらかったが家庭用ネットワーク・サーバーなどは面白い実験だと思った次第だ。そもそも、WALKMANに代表されるSONYらしさは、世の中がまだ画一的な生き方をしている時代に先行して目立っていたというわけで。

そして、ではAppleはどうだというと、それもクエスチョンである。iOS、Mac OSというエコシステムは偉大だが、PCにしろスマートフォンにしろタブレットにしろ、最近の進化は、サプライヤーが提供するパーツの進化をそのまま導入した、想定の範囲内の進化だと言える(それを導入するのも進化なのだけど)。

例えるならば、見た目から、言動から何もかもとんがっていて、最近、更生した不良少年がMacで、派手そうだけど、オキシドールで脱色したレベルの似非ヤンキーがVAIOということだ。どちらも道を誤っていそうで、振り切れ方が違う。

VAIOは売却先で継続するそうなのだが、さて、今後、私たちはVAIOでドキドキすることはあるのだろうか。激しく傍観することにしたい。新しい仕掛けは期待できないかもしれないが、ここでこそ、真のヤンキー魂を期待したい。

常見陽平
若き老害、社畜を超えた家畜、平成の大島渚

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