世界の金融・証券市場で神経質な動きが続く。

 米国の異例の金融緩和に依存した世界経済の回復は、国際的にも、各国の経済にもゆがみをもたらした。市場の混迷は、緩和依存では安定した成長の持続が難しいという警鐘だ。

 各国が成長と格差是正を調和させる政策努力を尽くすべきなのはいうまでもない。一方、米国では、株価の引き上げに固執して賃金や雇用を圧迫する企業経営のあり方も見直すべき時を迎えている。

 足元の動揺の震源は米国だ。強気の景気見通しを基に米連邦準備制度理事会(FRB)が2カ月連続で量的緩和(QE3)の縮小を決めた。直後に景気減速を疑わせる統計が出た。強烈な寒波の影響もあるが、株式市場は浮足立った。

 米国の株高には、かねて懸念がある。自社株買いや雇用削減による業績底上げにいそしむ経営者も多く、株主におもねった人為的な株高という批判が根強い。増える雇用もパートなど低賃金が多い。物価が上がらないことは、景気回復の果実が国民に行き渡らず、格差が拡大していることを暗示する。

 問題から目をそらさせてきたのがQE3の威光であり、緩和に前向きなイエレンFRB新議長への期待の膨張だった。

 市場は経済指標に一喜一憂しており、一時は楽観されていた連邦債務の上限問題も改めて懸念材料になりかねない。

 米国の矛盾は、緩和マネーの膨張と収縮による新興国の変調へと波及した。しかも米国の回復が確かなほど、マネーは収縮に向かい、新興国が圧迫されるジレンマにある。

 歯止めになるのは中国景気の安定だが、ここに来て減速を示唆する指標が目立っており、市場に気をもませている。

 余波は日本も直撃した。国内景気は財政出動や消費増税前の駆け込み需要で回復しているものの、株価は海外の投機筋に振り回され、為替相場や米国株価との連動が鮮明になっている。

 ここは一喜一憂こそ禁物だ。今の日本は、格差と賃金デフレを克服する正念場にある。これは米国が直面しつつある矛盾の先行例ともいえる。

 本番を迎えた春闘では、長年蓄積してきた所得分配のゆがみを是正する一歩として、ベアや時給の底上げが不可欠だ。

 過去の春闘では、景気や相場の不透明さを理由に経営側が賃上げを渋ってきた。だが、今回の市場の変調は、そのような問題先送りの姿勢にこそ、警鐘を鳴らしているといえよう。