(平成11年5月17日)

則定、検察 No2スキャンダルの波紋


 則定 衛・前東京高検検事長の女性スキャンダルの 「深層」 をえぐるものになるのか。
 「スキャンダルの波紋」 と題する文書が (1)、(2) と “連弾” で流れている。
 以下その全文-----。



  検察No2スキャンダルの波紋 (上)  

※ 「噂の真相」が口火

 則定衛 前東京高検検事長を巡る “女性スキャンダル” は、同氏の辞任で一応表面上は “一件落着” の様相だが、余塵はくすぶり続けており、今後一波乱有りそうな雲行きである。
 それは検察内の 主流派 VS 反主流派 といった図式だけでなく、今回の登場人物の絡んだ “汚染” も “根が深い” と言えそうだからだ。

 つまり、マスコミ報道を総合すると、「五えんや」 の 中岡(垣端)信栄氏 を初め、「泉井石油商会」 の 泉井純一、「コスモワールド」 グループの 熊取谷稔 といった “お馴染み” の人物が登場してくるからでもある。
 加えて、熊取谷氏配下のパチンコ業者S 及び大阪・和泉市の老舗の肥料業者 「日本肥料」 のオーナー一族M氏といった具合である。

 口火を切った 「噂の真相」(則定衛高検検事長のスキャンダル劇 P.26) によると─。

『「S」とは、本誌98年12月号の特集でも登場したいわくつきのパチンコ業者である。

 リクルート事件で NTT元会長・真藤恒の 「陰の政界工作仕掛け人」 として登場し、金丸信 や 小沢一郎 との関係も取り沙汰された政界フィクサー・熊取谷稔 の懐刀と言われたSは、熊取谷が仕掛けたパチンコ・プリペイドカード導入の際に、警察官僚の意を受けて「日本レジャーカードシステム」の設立に暗躍。

 警察官僚出身のコワモテ代議士の資金作りにも貢献し、カード導入の際、熊取谷の会社コスモ・イーシーから5千万円の裏金を捻出して、この代議士の下に自ら運んだと言われる何ともウサン臭い人物だ。

 一方の「M」 も、大阪・和泉市に本社を持つ肥料メーカーの老舗 「日本肥料」 の経営者一族で前出の 「花月会」 の主要メンバー。
 Mは則定のために新たに 「若富士会」 という集まりを作り、則定は同会を通じて、あの通産官僚のタニマチと言われた大阪の石油卸商、泉井純一と知り合ったと言われている。』と。

 そこで、新たに 「若富士会」 を作ったMの周辺を探ってみると─、JR天王寺駅から関西国際空港行きの快速に乗ると、3つ目が和泉府中である。 ここに 「日本肥料」 の工場と発祥の地 (登記上の所在地) がある。
 駅から数分以内のところで、木造2階立ての1階には玄関窓に、松田佐泰商店のペンキ跡が残っている。
 その隣接地は、監査役を務め、内科などの医院を経営するオーナー一族の屋敷である。


※ 環境関係の情報誌オーナー説

 関係者によると、「日本肥料」のオーナー一族は兄弟が多く、渦中のMは、これまで緑化関係の事業をやってきたが、倒産、その後新たに環境関係の月刊情報誌をやっていて、そこで今回の人脈との接点ができた…」という。


※ 過去に大阪で緑化関係の企業を経営

 その該当の企業は、大阪・中央区所在の 「日本総合緑化」 と、「ワセン物産」 である。

 前者は、昭和48年12月17日に設立され造園関係を主目的にしているが、平成4年7月13日に大阪地裁で破産宣告を受け、平成11年3月23日に破産終結している。

 後者は、設立が昭和53年3月3日で、肥料の販売を第一目的とするが同じく平成4年7月10日に大阪地裁で破産宣告を受け、平成9年10月1日に破産終結している。

 いずれも、平成元年にゴルフ会員権販売・仲介を目的に付け加えている。

 ところで、M氏や則定氏がメンバーだった 「花月会」 とは-----。

『大阪・花月会とは毎年春、大相撲大阪場所の終わった翌日の月曜日、ミナミの料亭 「花月」 で検察庁、国税庁などのキャリア組が集まって開かれていた。

 さらに翌火曜日は大阪府警など警察関係者。いずれもキャリア組がズラリ。そしてメンバーは住友系ゴルフ場でまた親睦コンペが開かれるという。 元力士、千代の山の夫人がタニマチ。 会員は 住友銀行、アサヒビールの役員、「五えんや」 の 中岡信栄氏 も会員だと言われる。…

「噂の真相」 に出てくる花月会も大阪が本拠。 伊藤作之進という人物の娘さんがタニマチになっている』(大阪日々、4月23日付け)という次第。


※ 取引先に噂の企業グループも

 ただ、日本肥料の取引先に倉商(泉佐野)という企業が挙げられていることだ。
 この倉商は関西空港絡みで強いコネを持つと噂されたリバー産業(岸和田市) グループに属する。 同グループは、シャチ(西区)、岸煉(岸和田市)、サンドリー(堺市)、大撰魚(西区)、レンボー(西区) などから成る。

 一説によると、関西空港の出展関係は リバー産業に、また、工事関係は サイガ運輸機工(高石市) に頼めば何とか成る、と噂されたほどの存在。

 クラボウ株の山口組系の 天正興業の株買い占めの時期に、そのクラボウが筆頭株主 (171万2千株、発行済み株式の 5.3%)の藤井(株)にシャチ名義 (113万株、3.6%) が出されていたことがあった。

 大阪・西区の倉商のビルには、一時、青嵐会の 藤尾正行元文相 の大阪事務所や サラ金 「レイク」 関連の株買い占めで名前が挙がった 葉山敏夫氏 などの大阪事務所が置かれていた時期もある。

 一方、サイガ運輸機工の場合は、大阪府漁連の 田中忠明会長 の娘婿で 共和商事専務と組んで空港関連に強い影響力を持っている。 空港の清掃工事の下請け6社の中に共和商事が入っていることでも知られる。

 一時元防衛庁長官で 和歌山選出の自由党代議士 中西啓介氏 が役員に入っていたと、報道されてもいる。
 この強い政治力を駆使して、大阪及び兵庫など近畿一帯にサイガのクレーン車が見掛けないことがないほどになっている。
 これらは住友系肥料・農材特約店老舗の 「日本肥料」 の存在がM氏にとって極めて有効だったとも考えられる訳である。

 さて、20億円もの工作資金が政官界に流れたと言われる石油業界の “フィクサー” 「泉井石油商会」(大阪・北区) の 泉井純一社長は 服部経治 前関西国際空港社長への贈賄容疑で逮捕されたが、その容疑は関空の清掃業務受注に絡む金品のやりとりがあったというものだった。

 泉井代表は、関空の 服部経治 前社長との顔を生かして、ビル清掃関係の下請業者のまとめ役として知人の産廃業者 大幸工業(住之江区) を元請け6社の下請けとして送り込むことに成功。
 その報酬として、開港直後の 94年9月19日に 現金100万円、同月28日には 300万円を泉井石油商会宛に振り込んだ。

 その後泉井氏の 「ジェイ・アイ・コンサルティング」(北区) 宛に毎月 30万円(その後40万円) 振り込まれ、5年分前払い分として 2,400万円が振り込まれた。
 これは、清掃費15億円のうち1億円を大幸工業が丸投げで得ていたため。

 しかし、その後、この大幸工業は大阪府知事の登録を受けていない無登録業者であることが判明。
 さらに、下請け業者として清掃業務を受注していた 95年9月、山口組直系の二代目 小車誠会会長が 大幸工業で働いていたかのように装って健康保険証を不正に取得して、保険料をだましとっていた詐欺罪で、浜野社長が 大阪府警捜査四課に逮捕されていたことが報道されるなど “不祥事” が頻発。

 さらに、この過程で元請け6社の1社だった 「ジャパンメンテナンス」 の四方修社長(元大阪府警本部長、元関空会社専務) との、“出来レース” で強引に元請け業者の反対を押し切ったものだった。 (かもがわ出版: 関空会社をめぐる大汚職の構図などより)
 因みに、下請け6社には 「共和商事」(岸和田)、「りんくう北中」(泉佐野)、「ケンダンレンサービス」(大阪市)、「ロイヤルエアポート」(泉佐野)、「第一」(泉佐野)。

 ジャパンメンテナンスの親会社は、流通のマイカル(旧ニチイ) で、この企業には右翼の源流 頭山満氏 の大番頭N氏が顧問として入っていた。 それ以前は 松浦良右氏のナミレイ顧問も務めていたという。

 松浦氏とN氏とは福岡の夕刊紙フクニチ時代からで、元警察庁長官で、松浦氏とは親しい関係。
 このN氏は 横山ノック府知事と組んで、関空2期工事の “利権” 獲得に動いているとの説もあった。
 いずれにせよ、関空2期工事で再び “不祥事” が噴出、今回のメンバー絡みの名前も出てくる公算もなきにしもあらずというところか。


  検察No2スキャンダルの波紋 (下)  

※ 芳しくない熊取谷、佐藤昭氏の評判

 一方、マスコミに I、S で登場する 熊取谷稔、佐藤昭 両氏の評判も芳しくない。
 イトマン事件の深層(朝日新聞大阪社会部著)によると、崩壊への序幕 「ペブルビーチ」 で出てくる。

『…気候温暖なリゾート地に四つの名門ゴルフ場と分譲別荘、コンドミニアムなどを経営しているペブルビーチ社が 8億4,000万ドルで買収されたのだ。ゴルフ場のひとつペブルビーチゴルフリンクスでは過去二回、全米オープンが開催されている。

…さらにゴルフ場を会員制にするという情報が伝わり、地元新聞や三大ネットワークなどは 「地元のわれわれが締め出される」 と、批判的な報道を繰り返した。


※ 会員権水増し等前歴の 「コスモワールド」

 買収した日本企業は 熊取谷稔 率いるゴルフ場開発会社 「コスモワールド」 グループであった。
 熊取谷はリクルート事件の際、真藤恒元 NTT会長のスポンサーとして名前が取り沙汰された人物であり、彼の開発したゴルフ場は、会員権の水増し発行で問題になったこともある。
 米国ラスベガスで賭博場つきホテルの建設を計画、結局、許可が下りなかったこともある。』(P. 131)と。

 また、ホステスに 80万円を渡したとされるパチンコ業者Sこと 佐藤昭氏 の場合も強烈だ。

『同氏の本拠は東京・港区青山に事務所がある。
…パチンコ業者によると 佐藤氏 はパチンコ店 「ダイナム」 の経営者で、東京を中心に北海道、東北方面へ約百店舗のチェーン店を持つオーナー。

…このダイナムは、政界の大物代議士Kと密接な関係を持っている。約三年前、北海道・函館方面で道警がダイナムの遠隔操作を風営法違反で摘発したとき、K代議士が怒り狂ったという。
摘発した道警の担当者らに 「ならば、お前らを収賄容疑で逮捕してやる」 とどなりまくった。事実、この騒動で道警の関係者三人は左遷の憂き目に。


※ 北朝鮮との陰の人物との接点説も

 また、雑誌に出てくる 熊取谷稔という人物も、現在、北朝鮮の陰の人物と脈絡があると言われる。最近も九州方面の人物と連絡を取っているそうだ。
 こうしてみると、日本の法曹界も、外国が広げる網の目に包囲されていると言えそうだ。』(大阪日々、4.23日付け)といった具合だ。


※ 北拓不正融資疑惑の中心 中岡氏 黒幕説も

 一方、今回の則定問題を潰された拓銀サイドから迫る視点もある。

 この3月2日に破綻した北海道拓殖銀行の旧経営陣と、不正融資先の不動産会社 テルメグループに司直の手が入ったが、この延長線上で不正融資先の最たるもの大阪 「五えんや」・「イージーキャピタル・アンドコンサルタンツ」(ECC) の 中岡信栄 関係筋が、捜査の手が伸び始めたことを察知、人脈を駆使してトカゲの尻尾切りならぬ 「頭」 切りを実行したのでは、と見る向きもある。

 会員制情報誌 「ベルダ」 は最近号 「闇に葬られた拓銀事件の核心」 で触れている。

 その要旨は、93年の店頭公開企業 「カブトデコム」 の不正融資疑惑に続き、今回のテルメグループの不正融資疑惑も未解明のまま幕引きされようとしている。

 拓銀から 「エスコリース」 経由で巨額の資金を飲み込んだ ECCグループへの不正融資が摘発できなかったのは、接待汚職が自分たちに飛び火することを恐れた検察当局が事件の揉み消しを図ったからではないか。
 また、カブト疑惑に切り込めなかったのは、同社の未公開株が、政官界、それに検察幹部にまでバラ蒔かれたからではないか。

 カブト株は公開前から人気が沸騰、90年に3万円を突破した。値上がり確実の未公開株を手にしたのは、拓銀の役員や地元の政治家に加え、検察OBも含まれていたという。
 93年当時、札幌高検がカブトへの不正融資疑惑で拓銀に対する家宅捜査の寸前まで漕ぎ着けながら、寸前で断念したのは、この未公開株問題がネックになったためだ。

 また、94年にはカブトグループが建設・販売した 「億ション」(佐藤茂カブト会長も居住) の管理人が事故死、 有価証券偽造で佐藤を取り調べていた札幌地検の検事が自殺している。

 この一連の怪事件とともに拓銀事件は闇に葬られようとしている、というもの。


※ 玉置和郎 元総務庁長官の “遺産” を継ぐ

 ところで、全国に 二百のチェーン店を持つ焼き鳥チェーン 「五えんや」 のオーナー、またノンバンク ECCの経営者として、拓銀のノンバンク 「エスコリース」 経由で 2,500億円を食い潰し、大蔵省高官、大阪府警、検察、マスコミ等のスポンサーとして 「ナニワの金融王」 とまで称された力の源泉は一体どこにあったのか。

 この力の源泉は、同じ和歌山県出身の元総務庁長官の 故玉置和郎代議士との出会いに遡る。
 中岡氏が 玉置後援会の幹部をしていた関係からという。

 当時、自民党タカ派議員の集まり 「青嵐会」 メンバー、また 「生長の家」 をバックにした 「宗教政治研究会」 を主宰、参院のドンと言われた。
 玉置氏は、経済事件にも必ず顔を出し、株の仕手筋の誠備の加藤氏、投資ジャーナルの 中江滋樹氏 等との係わりがあった。

 その仕手戦の過程で、仕手戦に敗れ身を隠していた札幌の新興企業グループ 「岩沢コンツェルン」(北海道テレビ放送、札幌トヨペットなど約 50社) の岩沢靖氏をかくまったのが発端。

 岩沢グループのメインは拓銀だったが、その処置に錯誤があったことに玉置氏が着目、拓銀に “ブラフ” をかけ、最終的に 2,500億もの資金を 「エスコリース」 経由などで ECCに引っ張った契機となったという。

 ECCから会員向け融資が決まるたびに 玉置代議士にバックフィーが流れる仕組みだったという。
 その玉置氏の代理として、政官界など各方面に直接金を届けたのが人脈作りの原点という。


※ 拓銀の 「エスコリース」 買取り債権は約70億

 因みに 「エスコリース」 から ECC への融資は、92年9月期に2千億円を越えたが、拓銀解体前に引き取った額は内部資料 「北海道拓殖銀行」 の融資先の懸念先リストでは、買い取り簿価は 約70億弱 (融資残:約980億円) と、その “惨状” を示している。


※ 四天王の大阪・和光ホームの名も

 また、中岡の四天王の大阪 「和光ホーム」 も資料に出てくる。
 融資残 24億400万円、簿価(買い取り価格5億7,600万円)。 同、渦中のカブトデコム (3,625億3,200万円、簿価 264億8,800万円) という数字。
 テルメグループ (3社で融資残計 454億円)、内1社のタウナステルメ札幌 (111億5,900万円、簿価 7億2,900万円) といったところだ。

 ナニワの金融王 「ECC」 中岡会長が接待漬けにした 検察・警察大蔵官僚・マスコミ (かもがわ出版) で記述がある。

『…検察にもパイプが作られた。
 86年6月、元広島高検検事長の 田村弥太郎氏が監査役に就任した。以後、元大阪地検検事の 瀬口猛氏、元広島高検検事長の 小島信勝氏、元札幌地検検事長の 中川一氏、さらに元大阪地検、東京地検検事の 田中森一弁護士が 「顧問」 になった。

 …現職時代 辣腕検事として知られていた 田中森一弁護士は、いまや関西地下経済界の法律顧問として有名である。

 …のちに、二信組事件で逮捕された元労相の 山口敏夫代議士が、この年の 11月と 12月の二度に渡って、前東京地検特捜部長、宗像紀夫氏 (現大津地検検事正) の金銭スキャンダルをはじめ、日本の検察上層部にかかわる疑惑についての 「最高検察庁の綱紀粛正に関する質問主意書」 を提出。
このなかで、検察最高幹部と 中岡元会長との癒着について取り上げていた…』(P. 111)と。


※ 元検事総長の大手新聞顧問就任説も

 宗像氏とパチンコメーカー 「平和」 幹部とのベトナム旅行を取り上げたのも 「噂の真相」 だが、当時は 土肥検事総長と 宗像特捜部長との “暗闘” 説が強かった。
 そのような検察内の派閥対立もあってか、その土肥氏が親しい大手 M新聞社の幹部のルートから同社の顧問に就任しているという情報がある。

 これなども広義の主流・反主流対立の一つの例かもしれない。

 いずれにしても、今回の検察No2のスキャンダル、何らかの形で “噴出” する公算も強いようだ。