自民党が新たに発表した憲法改正案に目を通してみました。最初に簡単に評価すると、つまりこれは退化したな。
というのは別に保守的がどうこうという話ではなく、まあそういって怒っている方々もそちこちで見かけるのだが第一に元々生活保守であると自認している私が保守的な内容だといって怒りはじめるわけはなく、第二に自民党は保守的な政治勢力なのであるからその憲法改正案が保守的な内容なのは5月1日になると共産党が行進をしはじめるとか(そういえば昨年は案内がこなかったな)煙が高いところにのぼるとかいうのと同じことであって怒る方がどうかしており、第三に「保守的だ」というのが批判になるというのは革新的であることが正しいことを当然の前提としている点で「自虐的だ」というのが正当な批判たり得ると思いこんでいる人たちと同じくらいアタマワルイ。問題はだからそういう右か左かの話ではなく頭の良し悪しの次元で退化しているという点にある。
とはいえおそらく私がネガティブに評価している点はあちらこちらで見かける批判とは異なっているので、まずありがちな批判とそこに含まれる誤解については指摘しておこう。というわけでまずは「ここは別に悪くない」シリーズ。
第一に、日の丸・君が代を国旗国歌と定める規定が盛り込まれたのがおかしいと主張している人がいるようだが、比較憲法学的にはこのような「国家の自己表現」(Selbstdarstellung des Staates)が含まれない方が珍しいと言われている。と書くだけでは納得しないかもしれないので初宿・辻村編『新解説世界憲法集』(三省堂、2006)で調べてみると、ざっと見た範囲なので間違いがあるかもしれないが以下のような感じになる。
- 不文憲法なので規定なし:イギリス
- 明確な規定なし:アメリカ・カナダ・スイス
- 国旗に関する規定あり:イタリア・ドイツ
- 国旗・国歌とも規定あり:フランス・中国
- 国旗・国歌とも特殊な法律で規定:ロシア(制定に特別多数を必要とする「憲法法律」に委任)
というわけで、単純に数の問題として見ると約半数に同種の規定がある。国語についてはカナダやスイスも規定を置いているので、この種の問題について憲法で規定することが不気味だとは言えないだろう。もちろん、だからといって良い趣味かどうかとか、政治的に賢明かといった次元ではさまざまな議論があるだろうし、個人的には趣味じゃねえなと思うものの、異常というわけではない(そう言えば言った方の無知をさらけ出すことになる)ことには注意しておく必要があろう。
ドイツ連邦共和国基本法 第22条(連邦の首都および国旗) 第2項 連邦国旗は、黒=赤=金色である。(2006年8月改正までの22条1項)
フランス第5共和国憲法 第2条(共和国) 第2項 国旗は、青、白、赤の3色旗である。
同第3項 国歌は、《ラ・マルセイエーズ》である。
ロシア連邦憲法 第70条(国旗・国章・国歌・首都) 第1項 ロシア連邦の国旗、国章および国歌、その図柄および曲・歌詞、ならびにその公式の使用手続は、連邦の憲法法律によってこれを定める。
中華人民共和国憲法 第136条(国旗・国家) 第1項 中華人民共和国の国旗は、五星紅旗である。
同第2項 中華人民共和国の国歌は、「義勇軍行進曲」である。
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