――10月からスタートして約3ヵ月が経過しましたが、いかがですか?
【成宮寛貴】 最初は『相棒』独特のスタイルに苦心した部分は正直ありましたね。1カメで1シーンを長回しするという非常に舞台的なスタイルなんです。自分で顔の角度とか沢山の演者さんがひとつの画面に収まるときに、どこに向けて台詞を喋るのかとか……。
――これまでのドラマのスタイルとはかなり異なるんですね。
【成宮】 最初は(水谷)豊さんのことをずっと見ていたんですよ。どうやって、この難しい『相棒』スタイルを完成させているんだろうって……。自分のことはもちろん見えてなくちゃいけないし、後ろにいる役者さんも見えてないといけない。感情のお芝居ももちろん大切にしなくちゃいけないんですけど、“全体感”が『相棒』では最も重要だなという結論に至りました。
――手さぐりで模索してようやくたどり着いたわけだ。
【成宮】 最近そのことがわかってきたので、ここからだなって思いますね。毎日楽しいですよ(笑)。
――新たに水谷さん演じる右京の“相棒”になったことで、自身の役割をどのように捉えたのでしょう?
【成宮】 『相棒』という作品に自分がどのように関わっていけば面白くなるんだろう?とはよく考えます。基本的に右京さんが物語をリードしていくなかで、そこにただ乗っかるだけでは本当の“相棒”ではないと思うので。真の意味での“相棒”になれるように、ときには自分が引っ張ったり、話を早めたりして……。良き相棒という意味では、自分があまり“綺麗な音楽”である必要はなくて、色々な“雑音”が入れた方が良いときもあると思うんです。
――なるほど。流れに任せるのではなく、あえてノイズを入れることによって変化を生むわけですね。先ほど“舞台的”と仰いましたが、自身の舞台経験がそのまま活かせるほど簡単ではないワケですよね?
【成宮】 はい。舞台はみっちり稽古があるんですけど、『相棒』は多くてリハは3回(笑)。さらに、その場で台詞の入れ替えとかもあるんですよ。『相棒』ってもちろん脚本が面白いんですけど、実際に現場で演じたときに、更に面白くするために「こうしてみようか?」っていうときも当然あって。そういう時は台詞を入れ替えたり、前のシーンをくっ付けたりするんです。そうすることで、更に作品としての質が高まるんですよね。
――演じ手としては結構大変ですよね。
【成宮】 そうですね……でもやる価値はあるので、皆さん嬉々として演じてます。だから、例えるなら“稽古の無い舞台”って感じかな(笑)。
――凄い現場だ(笑)。
【成宮】 台詞も覚えてくるんですけど、変わっても大丈夫なように覚えてくるということを学びましたね。必要な単語だけをしっかり覚えて……とにかく人名が多い作品なので(笑)。
――そこからニュートラルに対応出来るように……。
【成宮】 そういう風に言うとちょっとカッコよく聞こえますけど(笑)、必死にやってる感じです。でも、そういう現場って楽しいですよ。予想もしない化学変化が起こるので。
――そういう特殊な現場で“座長”としての水谷さんの振る舞いは如何ですか?
【成宮】 豊さんはもの凄いです! 役者としてのキャリアがそうさせるのか、それとも天性のモノなのか……定かではないんですけど、動物的カンというか。リハを一回やっただけで「こうやったらもっと面白くなるな…」って直ぐわかるんですよ。更にそこから正しい方向に持っていくのが早い。僕らもただ付いていくだけではなく、色々な意見を言うんです。豊さんもそういう意見を面白がってくれるんですよ。役者たちが発言するのに緊張しない場を作ってくれるというか。
――座長としての器量の深さを感じますね。
【成宮】 はい。あと、撮影の合間の何気ない会話が本番にも活かされるんです……というよりも“延長線”なんですよね。豊さんとのプライベートの会話も、気が付くと本番と同じ感覚のリズムで話しているんです。それは豊さんがそういう流れに持って行ってくれているんですね。
――カットが掛かってもお芝居が続いている感覚だ。
【成宮】 逆にいえば、常に“スイッチ”が入ってるので、その状況を楽しまないとこの現場は出来ないですね。豊さんはその状況を凄く楽しんでいるんです。常にエンタテイナーというか…。どんな状況でも相手がどう返してくるのか? ということを見ているんだと思います。現場のスタッフを笑わせたり、話題を振ったり。で、振られたらどう相手がしっかり……そうやって現場が温まるんです。凄い座長ですよ!! 僕が今30歳なんですけど、段々と座長になっていかなくちゃいけない年になってきたので、豊さんみたいな座長になりたいなって思います。それが30代の僕の目標のひとつではありますね。