WEDGE REPORT

いま、なぜ韓国映画なのか グローバル時代に躍進する秘訣

松谷創一郎 (まつたに・そういちろう)  ライター、リサーチャー

1974年生まれ。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆。国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、カルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネスについて。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(原書房/2012年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(共著・羽渕一代編/恒星社厚生閣/2008年)、『文化社会学の視座:のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』(共著・南田勝也・辻泉編/ミネルヴァ書房/2008年)等。

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ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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『トガニ 幼き瞳の告発』 発売元:ポニーキャニオン Blu-ray & DVD発売中 ©2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

 社会問題を描き、それによって社会を大きく動かした映画という点では、2011年に公開された『トガニ 幼き瞳の告発』の存在は見逃せない。この作品は、実際に起こった児童福祉施設での虐待を題材としている。しかし、その内容に日本の社会派映画にありがちな辛気臭さはなく、恐ろしいホラーエンタテインメントとなっている。監督のファン・ドンヒョクは、筆者のインタビューに対し「韓国では社会性を押し出すことが、商業性を高めることにもつながる」と明言した。結果、公開時から大きな反響を呼んで大ヒットとなり、それを受けて警察は再捜査に乗り出し、国会は法改正をおこなうほどの動きとなった。

 韓国は、休戦中とは言え戦時下にある状況が続いており、北朝鮮との武力衝突もたびたび生じている。若い男性には2年ほどの兵役も義務化されてもいる。国内経済も、IMFというトラウマを抱えながら、格差社会化とサムスンなど一部企業に一極集中した経済状況に不安を抱えているひとは多い。格差社会化によって、凶悪犯罪も増加した。こうした社会問題をしっかりと反映させたエンタテインメントの韓国映画が創られ続けているのである。

ハリウッド映画に学ぶ貪欲な姿勢

 語弊を恐れずにいえば、90年代までの世界の映画潮流は大きく二分されていた。ひとつがハリウッドの娯楽映画。それに対してヨーロッパ諸国やアジアの映画は、ヨーロッパの三大映画祭を中心とした芸術映画を中心に推移してきた。つまり、娯楽映画と芸術映画という潮流である。

 もちろん、ジャッキー・チェンの存在や、タランティーノがカンヌで絶賛されて出世した例などもあるので、そのふたつは必ずしも明確に分かれるものではない。だが、評論家にとっても観客にとっても、ある程度は主流(ハリウッド)と傍流(非ハリウッド)という意識が共有されていた。

 90年代に登場したアジア映画──たとえば、台湾のホウ・シャオシェン、中国のチェン・カイコーやチャン・イーモウ、香港のウォン・カーウァイ、イランのアッバス・キアロスタミ、そして日本の北野武なども、やはり芸術映画としてヨーロッパの映画祭で評価されて注目された存在だ。

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著者

松谷創一郎(まつたに・そういちろう)

ライター、リサーチャー

1974年生まれ。商業誌から社会学論文、企業PR誌まで幅広く執筆。国内外各種企業のマーケティングリサーチも手がける。得意分野は、カルチャー全般、流行や社会現象分析、社会調査、映画やマンガ、テレビなどコンテンツビジネスについて。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(原書房/2012年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(共著・羽渕一代編/恒星社厚生閣/2008年)、『文化社会学の視座:のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化』(共著・南田勝也・辻泉編/ミネルヴァ書房/2008年)等。

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