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「体罰を見聞きすることでも自殺の一因になり得る」。愛知県の高校生の自殺…
「体罰を見聞きすることでも自殺の一因になり得る」。愛知県の高校生の自殺を調べていた第三者調査委員会が、そんな報告書をまとめた。
体罰が当事者以外にも深刻な影響を与えることを指摘した注目すべき内容だ。学校や教育委員会は重い警鐘として受けとめる必要がある。
亡くなったのは県立刈谷工業高校2年の男子生徒。11年6月だった。報告書によると、野球部に所属する生徒は体罰を含む指導などから部活をやめたいと思う一方、監督の慰留や就職への影響などを考えるとやめられず、苦しんでいた。本人は体罰を受けていなかったが、死の20日ほど前にも体罰を目撃した。
委員会は「生徒はうつ病を発症し、自殺にまで追い詰められた」と分析し、「直接の体罰がないから、自殺と無関係という短絡的判断はやめたほうがよい」としている。
児童虐待防止法は、父母間の暴力を児童虐待の一つと位置づけている。体罰の場合も、近くで接しただけで生徒の心を深く傷つけることを踏まえた対策が求められる。
生徒の死後、学校と県教委がとった対応は不十分だった。学校は遺族から野球部での体罰について情報を得ると、もっぱら指摘された体罰の有無を調査した。生徒自身が体罰を受けていないことなどを確認しただけで、県教委に「体罰と自殺は関係ない」と報告した。
学校や県教委がすべきだったのは、責任の所在を速断することではなく、死の背景を明らかにするため、生徒が誰と話し、どんな悩みを打ち明け、どんな行動を取ったのかを網羅的に把握することではなかったか。
文部科学省も生徒が亡くなる直前に出した通知で「自殺は複数の要因からなる複雑な現象」とし、学校の出来事から個人、家庭に関わる背景まで幅広く調べるよう求めていた。
調査は当初、県教委が設けた調査委が担ったが、委員名を公表しないことなどに遺族が反発。県教委から独立した第三者委を知事部局が立ち上げ、臨床心理学や精神医学の専門家らを委員に選んだ。死からほぼ2年後の発足で、関係者への聞き取りには限界もあった。遺族は今も調査の継続を求めている。
それでも、学級日誌や生徒のメールなど数々の情報を積み重ねた報告書は、同様の事態が起きた場合に学校が取る行動の貴重な教訓となるはずだ。
もちろん最も大切なのは、生徒が発するSOSを見逃さず、不幸な死を防ぐことである。
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