まずは「ごめんなさい」と言いたい
川上量生(以下、川上) そうそう、この話もしておかなきゃ。僕、ニコニコ動画のUI(※)についての弁明をしたいんですよ。
※ ユーザーインターフェイスの略語。コンピュータを操作するときの画面表示、ウインドウ、メニューの言葉などの表現や操作感
—— 弁明、ですか。
川上 ニコニコ動画って、しょっちゅうUIを変えてるんですよね。初代の「ニコニコ動画(仮)」から始まって、2007年には4回の変更、2008年には5回バージョンを変更しています。それから、2009年に発表した「ニコニコ動画(9)」、2010年に発表した「ニコニコ動画(原宿)」のバージョンへと続きます。
—— あ、その名前は2010年に原宿に「ニコニコ本社」ができたからですか。
川上 そうです。地名にこだわっているわけではないんですけどね。原宿の次は「ニコニコ動画:Zero」で、これは2012年の5月からスタートしたものですが、特に評判が悪かった。
—— 検索窓に「ニコニコ動画 Zero」と入れると、予測変換で「使いづらい」「重い」など、ネガティブな言葉が……。
川上 そうなんですよ。2ちゃんねるにZero批判のスレがいっぱい立ちました。まあ、このときは大きくUIを変更したので、なかなか慣れなかったんでしょうね。いろいろ意見を言ってくださるのは、基本的にヘビーユーザーさんたちですから。
—— でも、その変更にはちゃんと運営側の意図があるんですよね。
川上 いやー、でもまずは「ごめんなさい」という話ですね。
—— ごめんなさい(笑)。
川上 ニコ動ってね、たまにとんでもなく悪いUIをつくるんですよ。そして、それにはだいたい僕が関わってるんです(笑)。超使いづらくて、何の意味があるのかわからないUIっていうのは、だいたい僕の指示ですね。
—— ええええ。どういう意図なんでしょうか?
川上 最初にユーザーさんが怒ったUIは、左上のバナーのエリアでした。そこには当初、何の意味もないバナーが貼ってあるだけで、広告も出ていない謎のエリアだったんです。そのエリアをつくってほしいって言ったのは僕なんですよ。
—— 意味のないバナーって何が書いてあったんですか?
川上 なんだっけな。たしか「ニコニコ動画」とか書いてあった(笑)。
—— 当たり前のことを……(笑)。
川上 ただスペースを占拠してるだけの、ひたすら邪魔な存在だったんです。
—— 川上さんは、なんで、そのエリアをつくりたかったんですか?
川上 後々、運営からのコメントを流したりしたいと思っていたんです。予定通り、今はその部分に運営コメントや時報が流れているので、けっきょく意味のあるエリアになったんですけどね。エリアをつくった当時もコメントを入れたいとは思っていたんだけど、開発に時間がかかって実現できなかったんです。
—— コメントを流す機能を開発してから、スペースをとるのが普通ですよね……。
川上 いや、UIの変更って必ずユーザーの反発を呼ぶんですよ。それがわかっているから、事前にUIだけ変えておこうと思ったんです。先にひどいUIにしておけば、機能ができたときにそれを改善することになって、受け入れやすくなるでしょう。こういうふうに、「ひどいUIを先につくる」っていうことを、ニコニコ動画では意図的にやるんですよ。
—— なるほど! すごい発想ですね。
川上 例えば、Zeroのときも、左側に空きエリアがあって、何にも使われていなくて非常に邪魔だったんです。そこを空けておいて、といったのも僕の指示ですね。
—— これはいま、何に使われているんですか?
川上 えーと、たしか……バージョン変更のときになくしました。評判悪すぎて(笑)。
—— なくしたんですか(笑)。あれ? 将来的に何かやるためにとっといたのでは。
川上 いや、何かに使えるだろうと思ってとっておいたんですけど、UI以外のことで手一杯になっているうちに、空けておいたこと自体を忘れてしまった(笑)。「とりあえず空けておいて忘れる」というの、僕はよくやるんです。
—— なるほど(笑)。
川上 それが理由で、要所要所でユーザーがめっちゃ怒る、「改悪」と言われるものの多くに、僕は関わってきましたね(笑)。
—— 基本的には良くしようと思ってやってることなんですよね?
川上 良くしたいという希望はあるんだけど、僕の考え方として、いったん悪くしておこうとする傾向がありまして……迷惑な話ですよね(笑)。そのあとに良くしようと思ってやるんだけど、いろいろあって忘れてしまう。
—— まあ、仕方ないですよね(笑)。やってみて、違ったってこともありますしね。ものづくりは。
川上 そうそう。しかも「いろいろあって」というのは、ゲームにはまって会社に来なくなったり、ジブリに見習いに行っちゃったりすることを含むので、そういう意味では、申し訳ないことをしてきたなと。ユーザーさんにはこの場を借りてお詫び申し上げたいです!
—— (笑)。
川上 ほんと、「ごめんなさい」という気持ちでいっぱいです。それはもう、僕の責任ってことで。
おもしろいから始めて、めんどうくさくてやめた
川上 あと僕がつくったひどいUIといえば、時報かな。
—— 動画を観ていると、決まった時間に突然画面が真っ暗になって「に〜っこにっこどうが♪ ドワンゴが◯時をお知らせします」と流れるやつですね。
川上 それです、それです。
—— いきなり動画が中断するので、実際、ちょっと迷惑だと思っていました(笑)。これは、なぜやろうと思ったんですか?
川上 あれはねえ、おもしろいかなと思ったんですよね。
—— いやあ、おもしろいですよ、おもしろいけど(笑)。
川上 でしょ? おもしろいでしょ! 時報に対するコメントが流れると、「あ、いまリアルタイムで同じ動画見てる人がいるんだな」って思いますよね。
—— ああ、そうですね。そこはリアルタイム性を感じますね。観ている時に流れるほとんどのコメントは、過去に付けられたものだったりしますから、一緒に観ているわけではないですもんね。
川上 そうです、そうです。リアルタイムのおもしろさを感じさせるっていうのを、時報で初めてやったんです。これ、最初は「おもしろいから」で始めたんですけど、定着させようと思ったのは、ユーザーが話題にしていたからなんですよ。
—— それは、「時報って邪魔だよね」とかネガティブな話題でもですか?
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