ネオリベで生まれた“女女格差”
男女格差はいわずもがな、今は、ネオリベ改革によって生まれた“女女格差”が深刻になりつつあると上野さんは言う。「エリートキャリア女性は男女雇用機会均等法を歓迎しましたが、一方、非エリートの女性はそうでなかった。しかも後者のほうが圧倒的に多い。ここで二極分化が生じます」ネオリベ改革で女性は得をしたのか否か――。上野さんの答えは「イエス and ノー」。ライフスタイルの選択肢が増えた一方で、それを選ばされているかもしれないのに自分が選んだように思わされる「自己決定自己責任の原理」が存在するからだという。
女性は、両親から息子=男性並みの期待を寄せられ、さらに、女性=妻・母としての成功を求められる時代。昔ならどちらかでよかったのが「今どきの女の子は大変です。この両方がないとダメ、と思われる。『娘の二重負担』です」。
上野さんが引き合いに出したのが、基調講演のタイトルにもなった「カツマー」と「カヤマー」。勝間和代さんと香山リカさんの対談本『勝間さん、努力で幸せになれますか』を引き合いにだし、「この問いに『イエス』と答えるならカツマー、『ノー』ならカヤマーだ」と持論を展開した。「カツマーは努力が必ず報われてきた勝ち組のアイコン。努力しても非正規にしかなれない、報われないのはすべて自分のせいと、自らを追い込んでしまう人がカヤマー。しかも今は、40年前のように『社会が悪い!オヤジが悪い!』と叫べない時代になった。そう考えれば、今は誰もが社会的弱者になる可能性がある」。
10年経つと、差は歴然と表れた。「結婚や子育てが前提」の非正規社員より、正規社員のほうが結婚して子供を生んでいる割合が多いということが分かったのだ。上野さんは「そんなこと考えてみれば当たり前」ときっぱり。女性の方も正規社員であれば、安定した暮らしがあり、未来が見える。パートナーと二人で正規社員ならなおさらだ。将来に不安を抱きやすい非正規社員は、結婚や子育てに踏み出せない。上野さんは、これ以上少子化が進まないためにも「女性にもっと正規雇用を増やすべき」と訴える。
さらに上野さんは、「究極の男女共同参画社会とは、ダブルインカム、さらにはマルチインカムでリスクをマネジメントすること」と説く。結婚しても、共働きを続けることで家計が大きくなり、ゆとりのある暮らしができる。例えどちらかが失業したり病気になっても、もう一方の稼ぎがあれば安心できる。「お金を稼ぐのもお互いさま、だから家事も育児も男女関係なく協力して行う。それが本当の男女共同参画社会だと思います」と上野さん。「本当に大切なのは安心して弱者になれる社会づくり。それがなかなか実現できない今、みなさんは日本という泥舟が沈んでも、どうか生き抜いていってほしい」と励ました。