野本氏といえば、NHKの過去の番組「名曲探偵アマデウス」で、クラシック音楽の解説者として登場した人だ。彼の楽曲に対する解析は興味深く、いつも勉強になると感じていた。番組では、佐村河内氏の交響曲について分析して、過去1000年の音楽史を知り尽くした人だけが書ける作品であり、1音たりとも無駄な音が無いと言ってもいいほど、緻密に作られていると絶賛した。
例えば、教会音楽ではタブーであり多くの作曲家が避ける「トリトヌス(増4度)」という、いわゆる“悪魔の音程”と呼ばれているものがある。実は、佐村河内氏の交響曲にはこれが積極的に用いられて、彼の音楽に不穏な空気を漂わせる効果をもたらしているとのこと。
さらに、佐村河内氏の作品には4つの音をクロスさせて十字架を描くような旋律があり、それは高みへと昇ろうとしている。しかし、一方でそれを支える旋律が下方へ下方へと沈んでゆくのだ。これは、希望の光を見出しつつあるが、まだ暗闇からは抜け切れない様子を描いているのではないかと、野本氏は語った。
これらは、野本氏らしい鋭い分析で非常に興味深く思ったのだが、それと同時に素朴な疑問も生まれた。多くのクラシック音楽と呼ばれるものは、既にそれを書いた作曲家がこの世を去っているので、その作品についてのより深い理解を得たい場合、専門家の分析による解説は助けになる。でも、今回のように楽曲の作者が健在であれば、直接本人から説明を聞けなかったのだろうか?作者自身が、最もふさわしい解説者になり得るという考えは間違いだろうか?という疑問である。