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【コラム】

中日春秋

 高円寺竜三。五木寛之さんが一九六六(昭和四十一)年に書いた小説『艶(えん)歌』に出てくる、音楽ディレクターである

▼演歌専門。有能だが、影のある人物で、人呼んで「艶歌の竜」。舛田利雄監督の映画「わが命の唄 艶歌」(六八年)では芦田伸介さんが竜三を演じた

▼こんな場面がある。録音。何度も歌わせるが、竜三は気に入らない。何回目かの録音で歌手の音程が外れる。声が割れる。「よしできた」。竜三がいう

▼上ずった音程、割れた声。これこそ日本人の悲しさ、苦しさを込める演歌に似つかわしいのか。モデルは音楽ディレクターの馬渕玄三さん、と聞く。九七年に亡くなったが、島倉千代子さんの「からたち日記」などを担当した

▼馬渕さんも在籍した日本コロムビアで騒ぎが続く。日本最古のレコード会社は音楽配信会社フェイスの子会社となる。五日には両耳が聞こえぬ作曲家、佐村河内守さんにゴースト作曲家がいたことが判明した。同社がCDを出していた。ファンはがっかりしているだろう

▼佐村河内さんが悪い。悪いが、こうも思う。作品自体に罪はない。佐村河内さんも公表まで事実の重さに苦しんだと思いたい。どうしようもない人間の弱さ、愚かさ。代作という心の闇を裏に抱えることになった作品が不憫(ふびん)でならない。曲に心を揺さぶられた人がいる。作曲者が誰でもその事実は変わらない。

 

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