コラム:巨額貿易赤字が示す経済構造の大変化=佐々木融氏
佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長(2014年1月30日)
2013年の貿易収支(通関ベース)赤字額は11.5兆円と、前年の6.9兆円から7割近く拡大し、名目国内総生産(GDP)の2.4%にも達した。もちろん、前年に続いて過去最大の赤字額更新である。
日本の貿易収支はここ数年、急速に悪化している。東日本大震災前の10年(6.6兆円の黒字)以降の3年間で実に18.1兆円も悪化した。輸出入の内訳を見ると、過去3年間で年間の輸入金額は60.8兆円から81.3兆円まで20.5兆円(33.7%)も増加した一方、年間の輸出金額は67.4兆円から69.8兆円まで2.4兆円(3.5%)しか増えていない。明らかに輸入金額の急増が、貿易収支の急激な悪化の主因となっている。
こうしたことが話題になる時、しばしば「原発の稼働停止によりエネルギーの輸入が増加して」という枕詞がつくことがある。だが、それは事実と異なる。結論から先に言えば、過去3年間の18.1兆円の貿易収支悪化のうち、約7.5兆円はエネルギー価格の上昇と円安が理由である。この部分はエネルギーの輸入量が増加したことが要因ではなく、価格要因である。
<主因は原発の稼働停止ではない>
詳細を見てみよう。過去3年間の日本の「原油・粗油」の輸入は確かに4.8兆円の増加となっているが、数量を見ると1.4%減少している。原発が止まり、代わりに火力発電が使われる場合、輸入が増えるのは主に天然ガスであると考えられるが、統計上も原油の輸入量増加は認められない。数量が微減しているにもかかわらず、輸入額が増加していることから、「原油・粗油」の輸入増加額は全て原油価格上昇と円安によって引き起こされたことが分かる。
ちなみに、この3年間、原油価格は約4割上昇し、ドル円相場の平均値は約1割上昇した。つまり、4.8兆円の輸入増加のうち、約3.8兆円は原油価格上昇によるもの、残りの約1兆円は円安によるものと考えられる。
次に、「液化天然ガス(LNG)」の輸入を見てみよう。実際、輸入額は3.5兆円から7.1兆円までほぼ倍増(3.6兆円)となった。しかし、過去3年間で数量自体は25%しか増えておらず、結果的に同期間中のLNG輸入増加分のうち、2.7兆円は価格上昇と円安によるもので、輸入量増加による分は0.9兆円ということになる。 続く...