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丹後半島の最北端、京丹後市「宇川地域」。
人口およそ1,700人。
京都府で最も過疎化が進む地域のひとつです。

航空自衛隊・経ヶ岬分屯基地。
米軍のレーダーは、ここに隣接する形で設置される予定です。
この地で何代にもわたって暮らしてきた永井友昭さんは、戸惑いをかくせません。
<永井友昭さん>
「2メートル位のコンクリートの壁ができて、(フェンスの向こうが)一切見えないという、なんだか妙な風景になるのは明らかですね」
「Xバンド・レーダー」とは、1,000キロ先にある10センチ以下の物体も識別できるという高性能レーダー。
このレーダーで敵が発射した弾道ミサイルを探知して、イージス艦や地上からの迎撃ミサイルで打ち落とすというのが、日米のミサイル防衛のシナリオです。
去年3月に防衛省が開いた住民説明会。
「北朝鮮による脅威への備え」という説明に対し、住民からは逆に「攻撃対象になる危険が増すのではないか」という声が相次ぎました。
<地元住民・男性>
「もし、狙われたら地元がやられるんですよ。ということは、危険が一番高いんですよ」
<防衛省職員>
「『Xバンド・レーダー』を配備したからといって、攻撃の可能性が高まるものとは考えられないということでございます。むしろ、我が国への攻撃への抑止力を高める所でございます」

基地の大部分は民有地を借り上げる予定で、米軍関係者およそ160人が
駐留する見通しです。
米軍が来ることで、治安悪化を心配する声もあがります。
<地元住民・男性>
「犯罪を犯した時に、米軍基地に逃げ込むと、なかなか逮捕できない…」
<防衛省職員>
「米政府に対して身のある措置を講ずるよう、各レベルで申し入れを行っているところでございます」
永井さんら一部住民は、「基地建設を憂う会」を立ち上げました。
反対ありきではなく納得する説明がほしいという思いからでしたが、住民らの間には温度差があり、足並みはそろいません。
<「基地建設を憂う会」参加者・男性>
「もう一点張りに安心安全だと言われても、宇川の人も馬鹿じゃないから皆それでは納得できないと思いますね」
<「基地建設を憂う会」参加者・男性>
「どうしてもやっぱり補助金などが入ってきますから、お金お金で動く方向性がやっぱり出てくると思いますね。やっぱり地区の中が、バラバラになる可能性が十分にあると思います」
そんな中、去年9月、地元、京丹後市の中山市長はレーダー受け入れを表明。
11月に小野寺防衛大臣が視察に訪れると、中山市長は基地を受け入れる
見返りとして、国の負担での道路整備を要請しました。
<京丹後市 中山泰市長>
「是非、政府として迅速にお願いできれば」
<小野寺五典防衛大臣>
「どういうことができるか、県を含めて相談させていただきます」
要請したのは、京丹後市中心部から基地予定地までを結ぶ幹線道路などの整備。
レーダーは地元にとっては、いわば「迷惑施設」。
メリットが必要だというわけです。

<京丹後市 中山泰市長>
「住民の皆さんの安全・安心が確保されるのなら、必要な負担を分かち合っていくということは、むしろ道理かなと」
同じ時期、防衛省は用地の買収に着手していました。
この夜、開かれたのは予定地の50人ほどの地権者を集めた説明会。
用地は1年毎の借り上げ契約。
1平方メートルあたり年に13円が相場の農地に対し、防衛省は当初、住宅地並みの190円を提示していました。
さらにこの夜、地権者には新しい価格が提示されました。
それは…
<防衛省>
「米軍施設に使わせて頂く、1つの形を示さなければいかんと、金額としては1平方メートルあたり300円、1反30万円になろうかと思います」
新たに示されたのは、1平方メートルあたり毎年300円。
これは相場の20倍以上。
金額の提示を受けた地権者たちは…
<地権者・男性>
「反対する理由はない、わしら。日本の国を守っているので(米軍基地は)願ってもないことだ」
<地権者・男性>
「なかなか難しいですな。(米軍)基地は無いのが一番いい」
土地を提供すべきか否か。
レーダー基地をめぐって、揺れ動く過疎の町。
では、すでに「Xバンド・レーダー」が配備された別の町では、何が起きているのでしょうか。
厳重に警備された基地。
そして、基地の外では見返りの「地域振興策」が…
青森県つがる市。
8年前、国内で初めて「Xバンド・レーダー」が配備されました。
航空自衛隊車力分屯基地。
この広大な敷地の中に、米軍の「Xバンド・レーダー基地」が設置されています。
今回、特別に取材が許されました。
セキュリティはきわめて厳しく、近寄るだけで警備員が現れ、囲まれると言います。

<米陸軍車力通信所 トーマス・ストックトン指揮官>
「(訳)ここまでです、カメラを下に置いてください」
撮影は検問所の外から4分間だけ許されました。
テロを警戒し、銃を持った警備員が24時間監視。
米軍関係者は、およそ150人が駐留しています。
250メートルほど先にありました・・・ 「Xバンド・レーダー」です。
<トーマス・ストックトン指揮官>
「(訳)探知能力は軍事機密です」
一方、米軍は地域との交流に力を入れ、毎週、英会話教室を開いています。
米軍も住民たちに受け入れてもらおうと、地域の行事には積極的に参加しています。
そして、町に出てみると、レーダー受け入れに対する見返りとして、さまざまな事業が行われていました。
22年前に作ったものの客足が伸びず、廃止も検討された温泉施設。
レーダー受け入れに伴う助成金で、改装が行われました。
今は、地元では数少ない、憩いの場となっています。

同じく助成金で、小学校にはパソコンが支給、さらには医療費も。
市民のがん検診は無料。
子どもも18歳まで医療費はかかりません。
基地を受け入れた自治体には、交付金などの財政援助があり、10年間、
毎年3億円以上使うことができるのです。
ここでは、そのお金を使い、農作物の保管施設が建設されていました。
新たに生まれた雇用。
<つがる市住民・男性>
「まず、出稼ぎに行かなくていいことですね。冬場どうしても厳しいもんで」
一方、夜の街では米軍関係者による事件や事故も起きていました。
酒に酔い、市民を殴った傷害事件。
女性宅への不法侵入事件。
飲酒運転による死亡事故など、大きな交通事故も3件起きていました。
<トーマス・ストックトン指揮官>
「(事件・事故後)日本の警察から釈放された後に、(容疑者を)3日以内に即刻帰国させた」
そして、京丹後市・宇川地域。
去年12月、結局、予定地の地権者50人のほぼ全てが、土地提供の仮契約を交わしました。
夜、永井さんの元を訪ねてきた数人の地権者たち。
たまたま基地予定地に土地を持っているために、人知れず苦しんでいると訴えます。
<地権者・女性>
「『あんたらが判押さなかったら、(基地)はできんだろ』と(言われた)。すっごい地権者が重たいです」
<地権者・男性>
「『今、反対している人は、お金に困っていないだろう』と。とにかくいろいろ言われました」
<地権者・女性>
「『わしら3軒回ってきた。いつまでも判押さんと、村八分になりますよ』と(言われた)」
怖くて自分の意見を表にだせない。
狭い地域に、重苦しい空気が漂っていました。
近畿で初めて設置される米軍基地は、今後の日米同盟の行方にも大きく関わります。
日米の防衛戦略の最前線を背負うことになる、京丹後市の小さな地域。
基地は今年中に着工する見通しです。
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