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ワイドショーの見事な印象操作テクニック


きのうの記事で書いた古賀氏の出演した番組がYouTubeに出ている(たぶん間もなく削除されるだろう)。ワイドショーというのはほとんど見たことがないのだが、これを見て感心してしまった。

この「そもそも総研」という番組が設定しているテーマは「原発事故のあった東京電力で夏の電気は足りるのに、事故のなかった関西電力でなぜ足りないのか」。そんなことは当たり前だ。東電は事故のあとガスタービン発電所を増設したが、関電はまさか何も事故を起こしていない原発の運転を政府が止めるとは思っていなかったので、火力発電所を増設しなかったからだ。

ところが番組は、この当たり前の理由を知らないのか、知っていてとぼけているのか、いろいろな数字をあげて「関電が意図的に電力供給を絞っている」という結論に誘導し、その決め手として古賀氏の「停電テロ」が出てくる。この1分もかからない話を延々と図を出して説明し、それにスタジオにいる芸能人がいちいち「これが本当だとすると大変なことですねぇ」などと相槌を打つ。20分のコーナーの半分以上は、この相槌と雑談で埋まっている。

誤解を恐れずにいうと、これは専業主婦の思考回路に最適化しているのだろう。彼女たちは「東電は悪い」と思い込んでいるから、それに迎合することが番組の出発点だ。ところが関電は事故を起こしていないので、ちょっと困ったことになる。そこで「あの東電より悪い」というフレーズがくり返される。

このレトリックは巧妙だ。これを使えば、あなたを悪党に仕立てるのも簡単だ。誰でも知っている犯罪者を引き合いに出して「**はこの犯罪者でもしなかった悪いことをした」と紹介すればいい。その行為が犯罪でなくても「犯罪者は悪い→**は犯罪者もしなかったことをした→**は犯罪者より悪い」という擬似三段論法で印象操作するのだ。

これは社会生物学の観点からは合理的な戦術である。専業主婦の頭は90%ぐらい感情で動いているので、まず「東電は悪い」という感情を刺激し、「その東電より悪い」というイメージで引きつけるのだ。そのフレーミングを疑うとチャンネルを変えられるので、東電は悪だという前提は絶対に変えない。論理はどうでもいい。数字はごまかすための飾りだ。

私はワイドショーは生理的に耐えられないのでほとんど見ないが、専業主婦は毎日4時間以上こういう番組を見ているのだから、「放射脳」になってしまうのは当たり前だ。古賀氏が毎日こういう番組に出ているとおかしくなるのも理解できる。日本の政治経済が混迷している一つの原因は、こういうテレビ朝日を先頭とする愚民メディアではないかという気がしてきた。

池田信夫
経済学者。株式会社アゴラ研究所代表取締役

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