宗教的「やりがい搾取」の罠〜気持ち悪い、洗脳…居酒屋甲子園騒動から考察
Business Journal 1月24日(金)4時46分配信
「仕事の意義についてハイテンションなしばしば疑似宗教的な意義付けがなされ、時には身体的な身振りなどをも取り込みながら、高揚した雰囲気の中で、個々の労働者が仕事にのめりこんでいく」「これがしばしば見聞されるのは、飲食店などの接客アルバイト労働においてである」という。
そして、ある居酒屋チェーンの模様を紹介する。
「代表取締役を『師範』、店舗を『道場』、教育・研修を『修行』、採用を『入門』と呼んでいる。各店舗には『師範』が書いた相田みつを風の色紙が飾られており、そこには『夢は必ず叶う』『最高の出会いに心から感謝』『おとうさんおかあさん産んでくれてありがとう』『共に学び共に成長し共に勝つ』などと書かれている」
「同店のスタッフの離職率はたいへん低い。『うちはお金を稼ぐことができないバイトです。でも、夢を持つことの重要性を感じ、自分自身が成長したことを感じることができます』と副社長」
「サークル的、カルト的な『ノリ』のなかで自分の『夢』や『成長』を目指して結局は『働きすぎ』に巻き込まれている若者たちが存在するのである」
『夢』や『成長』があれば、『時給』『労働条件』は二の次になる。でも、それは仲間のためだから……これって、まさしく居酒屋甲子園そのものだ。
●「てっぺん」の「やりがい搾取」の仕組み
同書では店名は伏せられているが、参考文献を見てみると、この居酒屋チェーンは「公開朝礼」がおなじみの「てっぺん」であることがわかる。
宗教がかったアツい「本気の朝礼」がテレビや雑誌等で数多く取り上げられ、08年当時話題となっていた居酒屋チェーンだ。「てっぺん」の経営者は大嶋啓介氏。実はこの大嶋氏がNPO法人・居酒屋甲子園の初代理事長なのだ。
大嶋氏は、起業支援ポータルサイト「ドリームゲート」に掲載されたインタビュー記事で、「僕は居酒屋で働き始めたことで、人生を好転させることができた。そして、『共に学び、共に成長し、共に勝つ』という夢が生まれました。同じように居酒屋で働いている人たちに、夢を持ってチームで目標を達成することの素晴らしさを知ってほしいと思ったんです」と、居酒屋甲子園の狙いを語る。(http://case.dreamgate.gr.jp/mbl_t/id=356)
NPO法人の理事長は2年ごとに交代の仕組みのために、表立つことはないが、本田氏に批判された「てっぺん」の「やりがい搾取」の思想が居酒屋甲子園に流れていることは間違いがない。本田氏は著書の中で、こう警鐘を鳴らしている。
「若者たちのなかにも、こうした『<やりがい>の搾取』を受け入れてしまう素地が形成されている。『好きなこと』や『やりたいこと』を仕事にすることが望ましいという規範は、マスコミの喧伝や学校での進路指導を通じて、すでに若者のあいだに広く根付いている」
「日本の若者のあいだでは、自分の生きる意味を他者からの承認によって見いだそうとするためか、『人の役に立つこと』を求める意識がきわめて強い。『夢の実現』などの価値に向かって、若者が自分を瞬発的なハイテンションにもっていくことによってしか乗りきれない、厳しく不透明な現実も歴然と存在する。これらの素地につけいる形で『<やりがい>の搾取』が巧妙に成立し、巻き込む対象の範囲を拡大しつつあるのが現状だと考えられるのである」
「やはり不可欠なのは、こうしたからくりを明るみに出し、職場や職種という集団単位で、そのいきすぎに歯止めをかけていくことであろう」「冷静で客観的な現実認識に基づいてクールダウンしていくことが必要である」
本田氏の指摘から5年、しかし「やりがい搾取」は確実に社会に広がり始めている。
今上 明
最終更新:1月28日(火)11時33分
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