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木村伊兵衛写真賞・森栄喜さんインタビュー(2)「やさしいアプローチ」


(更新 2014/2/ 5 08:00)

(C)Eiki Mori

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アサヒカメラ2013年5月号

朝日新聞出版
定価:870円(税込)

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 写真集『intimacy』で第39回木村伊兵衛写真賞を受賞した森栄喜さん。実はこの刊行直前、アサヒカメラ2013年5月号にて作品に込めた思いを切々と語っていた。今回は受賞を記念し、そのインタビューの模様を再録する。
インタビュー:宮村周子、ポートレート撮影:Amanda Lo

* * *

 2011年の写真集『tokyo boy alone』では、若く美しい男性たちの気取りのない表情を、静寂な空気感とともに切り取ってみせた森栄喜。スキャンダルにでなく、あくまで日常の延長線上で男性のヌードをとらえるその軽やかさが反響を呼んだが、今回発表する『intimacy』は、彼自身の日常に向き合う私的な写真だった。

「前作は、数年間撮ってきた写真を信頼するアートディレクターに渡して構成してもらいましたが、今回は撮りながら自分の頭の中で編集していった感じです。街を歩くときも、映像で録画するように撮っていました。前回はかっちりした写真が多かったけど、今回は一冊で一つの映像作品をつくるようなニュアンスでまとめています」

 35ミリフィルムで撮った200点余りの写真には、夏から次の夏までの、恋人や友人たちと過ごした1年間が収められている。何か事件が起こるわけでもなく、ごく淡々と流れる穏やかで優しい日常の断片。散歩途中の景色や季節ごとの光の移ろい、室内の何気ない変化に目を走らせながら、見る側もやがて同じ空気を感じ始める。情報量が少ないぶん、登場人物たちについての想像がかき立てられる。

「もちろん、僕の中で撮影時の背景やストーリーはあるんですけど、その情報なしで人が見るとどうなるのか、面白さと不安の両方がありますね」

 中には、小さなトリックも仕掛けられている。鏡や窓ガラスの写真を並べて入れ子状に見せたり、別の季節の日記をあえて撮影したり。お皿の星座模様と道に転がる地球儀規模のボールが誘うポエティックな連想や、別々の友人たちが身につけていたTシャツとトートの同じ柄など、あとから発見した偶然の機微も、スパイスとして頁に忍ばせた。まるで宝探しのように。

「ディテールに目を留めるとまた違った物語が見えてくるように構成しました。撮影のためにどこかに行ったり、わざとものを置いたりといった作為的なことはしたくなかったし、逆に何もしていないと思われるのも正しいかどうかわからなかった。ただ、好きな人との日記的な記録と片付けられるのは嫌だから、単なるプライベートフォトを超えたかったんです。キャッチーでインパクトのある写真は好きだけど、わざと人目を引くような写真は絶対撮りたくなかったし、ヌードばかり並べるのも違うなって。裸のイメージって本当に強いですから」

 同性愛者である森にとって、男性のヌードを発表することは大切な意味を持つが、それだけを強調するのも違和感がある。

「メッセージや肯定感は前作で届けられたと思うので、新しいテーマに挑戦したかった」

 誠実なスタンスは、被写体の向き合い方にも表れている。自分の影が恋人に重なった写真には、今の心の揺らぎものぞく。

「前作では、モデルたちとの時間の共有がテーマになりましたが、彼らの心情にまでは踏み込めていなかった。今回は、もっと素直に鎧をとらなきゃって思ったんです。でも撮ってみると、どれだけ親しい間柄であっても、相手と完全に溶け合わない感覚ももちろん存在していて、結局、“一対一”なんだと気づかされたり・・・・・・」

 そんなふうに、不器用でも自分の人生や年齢と密着した作品をつくっていきたいと森は語る。最近、友人たちとフォトジン『OSSU』を立ち上げ、男性のポートレイトや東京の日常性を世界に向けて発信し始めた。写真と同様、軽々と境界を越えていく自由さがそこにある。

「ごく普通のカメラで普段の生活を撮っても、何か特別な一枚が写せるようになりたいです。マシンガンのように攻撃的な接し方ではなく、紙飛行機ぐらいにポンと当てて振り向かせたり、糸電話のようにやさしく話し合うようなアプローチで、さりげない表情や人との大切な時間を丁寧に撮っていけたらいいなって」

◆もり・えいき
1976年、金沢市生まれ。米パーソンズ美術大学写真学科卒。写真集に『tokyo boy alone』など。フォトジン『OSSU』も発表している。写真集『intimacy』(ナナロク社)は第39回木村伊兵衛写真賞受賞作。

※アサヒカメラ2013年5月号「Special Feature Photography」から。

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