(京さんて、いつからこういうキスしてくれるようになったんだっけ)
変な時間に目が覚めると、
こういうしょーもないこと考え始めるからよくない。
四時半とか、起きるには早すぎるし、
本腰入れて寝なおすのもだるい。
悲しいかな徐々に本格的に覚醒しはじめる俺と、
となりでもぞもぞ落ち着きない俺にあからさまにめんどくさそうな京さん。
だから今与えられてるキスも、
熱を引き出すためのものでも、今日はもうお終いの合図のものでもなくて、
お願いだからもっかい寝てくれっていう、
懇願みたいな。あやすみたいな。
でも優しいやつ。
そもそもどうやって始まったかとか、
付き合い始めて何ヶ月とか、
そういう恋愛じゃないから、楽だけどもどかしいし厄介だ。
顔合わせる機会に恵まれて、憧れですって言い寄って、
別に俺は純粋に慕ってただけでそんな気なかったけど
面白がった京さんに
半ば強姦じみた感じで抱かれた初めてのセックスは最低だった。
その日はこの人ただ単に興味本位だったから、
自慰に付き合わされただけっていうか、ほぼダッチ状態にヤられて、
勝手だけど長年憧れてきた人間からのあんまりに非道な仕打ちに、
やっぱりそれなりにショックも受けた。
それから、
どういうわけかだらだらとセフレが続いて、
いつの間にか一緒に住めばーとか言われて同棲始めて、
今ではそれなりにお互い慈しむみたいなセックスに変わり始めて、
本カノみたいなポジションにのぼりつめてるわけだけど。
「京さん」
「…ん」
「京さんて、俺のなにが好きなんですか」
「……誰が好きや言うたん」
ほらきた。
言うと思った。
「好きじゃないのになんで一緒に住んでんですか」
「………楽やし」
「じゃあ、強いて言うならどこが気に入ってるんですか」
「……お前ものすごいウザいんやけど。なんなん」
もう、今夜はウザキャラで通すから俺。
どうせ寝なおせなそうだし。
「眠れない」
「知らんわ」
「きょーさん…気になって寝れないです」
よいしょと、勝手に京さんの脱力した体に乗り上げて寝そべる。
深夜は人を怖いものなしにさせる魔力がある。
京さんが暴力に訴えるほど覚醒しきってないって、
分かってるからこその確信犯だけど。
振り落とそうとする腕を掴んで、無理矢理腰を抱くような体勢に持っていく。
自分で言うのもなんだけど、本気でウザいな今の俺。
いつになく強引な俺の暴挙に、京さんも諦めたように薄く目を開いた。
「んー……エロいとこ。と、顔」
「…あとは?」
「…唇、やな。……キスとかフェラきもちいから」
「……あとは?」
「も、ない……あ、身体か。腹とか腕とかぷにぷにしててやわっこいし」
…じゃ、禁欲して整形して痩せたら捨てられんのか俺。
「きょーさんあとはー」
「しつっこい殺すぞ、今何時か分かっとんのか!」
「もうネタ切れですか」
「………盲目なとこ」
「…え?」
「お前が僕に盲目なとこ!」
その通りです。
…その通りだけどなんかムカつく。
いい加減本気で腹たってきたのか、
段々語気が荒ぶってきた京さんの体が反転して、
ラッコの親子みたいになってた体制が逆転した。
押し倒された身体の上に、京さんの全体重がかかる。
重い。
けど、その体重と体温が直に伝わる感じが良かった。
「お前は」
背中に腕を回してみたら、溜息交じりに京さんが耳元で呟いた。
完璧呆れてる声。
仕方ないから付き合ってやるよってニュアンスの吐息。
「お前は僕の、なにがそんな好きやの」
なにって。
髪も目も睫毛も
鼻も唇も膚も、
綺麗に筋肉ついた身体とか
手とか足とか
「……俺だって別に…好きとかじゃないし」
呼ぶ声。歌声。
るきって平仮名発音の仕方が、ふつうの人と微妙に違うとこ。
匂い。セックス。
笑顔。性器も。
挙げてたら夜明ける。
「…じゃあ出てけや」
「……絶対やです」
「好きやないんやろ」
「…嘘です好きです。すげー好きです」
でもなにが好きなのかよくわかんないです。
どれに一番惹かれてるかとか、考えたこともないし。
答えにくい質問するなこの人とか思ったら
切り出したのが自分だってことに今更気付いた。
寝ぼけた頭にこんな難題ふっかけたら
京さんも困るだろそりゃ。
困ればいいのに。
「京さん、俺好き?」
「…好きやないって」
好きだよってキス。
しながら、好きじゃないって言われるのっていいな。
所詮Mだから俺。
「好きとウザいの中間くらいが、るきの場所」
変なの、この人。俺もだけど。
いつからそんなに俺のこと好きになったんですか。
その他大勢と俺が違うとこってなんですか。
好きです愛してますって慕えば、
京さんが誰にでも絆されるわけじゃない、筈じゃん。
「京さん。好き」
「…ええ加減にせんと犯す」
「………犯して」
「寝ろ!」
「……はい」
寝よ。
了