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第三章
45話 謎の仮面神官
 冒険者ギルドに戻ると軍曹どのが待っていた。ホールの隅にあるテーブルにつく。

「さきほども言ったとおり、貴様には神殿で治療にあたってもらいたい」

「あの、できればおれ防衛のほうに回りたいんですけど」

 経験値が欲しい。回復魔法レベル5があれば、オルバさんの足を治せる魔法が出てくるかもしれない。

「治癒術士が全く足りておらんのだ。神殿の有様はみただろう?」

「はい……」

 そう言われると反論できない。神殿は怪我人であふれていた。いや、あそこをさっさと片付ければ防衛のほうに回してもらえるかもしれない。

「もうひとつ。サティを借りたい」

「サティを?」

「そうだ。サティの弓の腕があれば防衛戦でずいぶんと役立つだろう」

 サティがおれから離れて敵の前に立つ?サティを見る。サティもこっちをじっと見ている。

「もちろん、主人の貴様の意向が優先されるが」

 おれが決めるのか……なんとなくサティはずっと一緒にいるものと思っていた。

「あの、危険は……」

「もちろんある。だが、情勢は予断をゆるさん。今はかき集められるだけの戦力が必要なのだ」

 そういえばエリザベスは酷い顔色をしていた。限界まで魔力を絞り出したんだろう。

「サティはわしについていてもらう。絶対守れるとは言えんが危険なときは優先して逃がすことを約束しよう」

 軍曹どのがついていれば安心……安心?いやそれでも心配だ。

「今日のところは2人で治療院に行ってくれ。夜はやつらもあまり攻めてこない。明日の朝迎えに行くからそれまでに考えておいてくれ」

「はい、軍曹どの」



 軍曹どのと別れ、神殿への道をサティと手をつないで歩く。

「マサル様。わたし行きます」

「サティ……」

「わたし、ずっとずっと役立たずだ、無駄飯食らいだって言われ続けてて。みなさんの役に立てるのが嬉しいんです。マサル様のお手伝いができるのが嬉しいんです」

 こっちの世界の人は奴隷を半ば物のように扱っているかもしれない。だがおれは日本人だ。そこまでは割り切れない。サティをいつまでもおれに縛り付けておくわけにもいかないだろう。

「だから。だから……」

「わかった。だが軍曹どのから離れるなよ?」

「はい」

「危なそうになったり怪我をしたらすぐに逃げるんだぞ」

「はい」

「それから毎日絶対おれのところに戻ってこい」

「はい」

「それから……絶対に死ぬな。ずっとおれと一緒にいるんだろう?」

「はい、マサル様!ずっとずっと一緒です!」



 神殿に入ると先ほどの神官の人がいたので声をかけた。

「おや、先ほどの。今度はどうしましたか?」

「はい。冒険者ギルドから治癒術士として派遣されてきました、マサルです」

「おお!助かります。見ての通り、治療をすべき患者は多いのに我々の魔力はもう限界なのです」

「時間が惜しいです。すぐに治療にかかりましょう」

「あの。わたしも何か……」

「サティは朝から防衛に参加するだろ?休んでおくといい」

 しゅんとするサティ。うーん。ほんとうに休んでいたほうがいいと思うんだが。

「でしたら治療のお手伝いをお願いできますかな?怪我をしている方をきれいに清めたり、水や食事の用意をしていただければ助かりますよ」

「それくらいなら。じゃあサティ、明日のことも考えて体力は残しておけよ」

「はい!」



 他の神官の手伝いに行ったサティを見送り、改めて神殿のホールを見渡す。ホールには沢山の人が床にそのまま寝転がされており、みな酷い怪我をおって動けない。これを全部か。エリアヒール。使った事はないけど試してみるか。

「ではまずはこちらのほうの方からお願いできますかな?」

「いえ、エリアヒールを使います」

「上位の……ちょっと。ちょっとお待ちください。他のところにいる患者さんも集めて参ります」

 待っているとぞろぞろと兵士や冒険者達が入ってきた。支えられているのもいるが、大抵はちゃんと自分で歩いている。比較的軽傷の人は別のところにいたのか。なんか多いぞ?それは神官の人も思ったのだろう。

「あの、多くなりましたが大丈夫でしょうか」

「あー、とにかくやってみましょう。だめでしたら個別にやるってことで」

 これうまくいかなかったら怒られないかな?エリアヒール使ったことないんだよね。

「その……これだけの数はさすがに初めてなんで失敗しても怒らないでくださいね」

「ええ、はい。もちろんですとも。わたしもちょっと人数が多いかなと思っていたところなんです」

 話がわかる神官さんだ。よし、そういうことならやってみるか。

 神殿のホールは人でいっぱいでざわついている。こちらに注目してる人はいない。今のうちにやってしまおう。

 範囲はこのホール。強さは……結構重症者もいるから強めにしておくか。【エリアヒール】詠唱開始――

 うーん、やっぱ詠唱長いな。それになんだか体の周りが光ってるような……

 何人かがこちらに気がついたようだ。はやくはやく。――詠唱が完了した。発動!

 一瞬ホール全体が光に包まれる。成功したかな?お、手前の怪我の酷かった人も起き上がってる。うまくいったみたいだ。

「治ってる……」「何が……」「神官様の治癒術?」「傷が消えてる!」

 おれは既に神官さんの後ろに隠れている。魔法の詠唱をしている仕草はなるべく見せないようにしたし、そもそも剣を背負って普通の冒険者の格好をしている。近くにいて見てた人でも中々わからないだろう。

「あの、目立つの嫌いなんでこのまま知らんぷりでお願いします。あと適当に誤魔化しておいてくれません?」

「ええっと。ゴホンゴホン。ああ~。そのですね。そう!神の奇跡により皆様の傷は治りました!我々には神の加護があるのです。さあ、治った人は再び戦いに赴いてください。それが神の望みなのです」

「おお~」「奇跡が!」「神の加護……」「戦える!また戦えるぞ」「神官様!神官様!」「神よ!」「ありがとうございますありがとうございます」

 なんかみんな神官様に注目している。おれも一緒になって、神官様すごい!とエールを送ってみた。アンジェラにやらされた時みたいに目立つのはごめんだ。あの時は神官服にマスクもしてたし。今度もあれでやってみるか?

「あの、なんかわたしがやったみたいになってるんですが、手柄を横取りしたみたいな……」

 そう小声でぼそぼそと言ってきた。

「いいんですいいんです。目立つのは嫌いだって言ったでしょう。あんまり注目されると緊張して魔法がうまく使えなくなるかもしれません。このままでお願いします」

「はあ。ほんとにいいのかな……」

「とりあえずちょっと疲れたので休憩させてもらえませんか?」

 でかい魔法を使ったからだろうか。MPはまだ少し残ってるのに少しだるい。それとも馬車に2日ほど揺られたからかな。あんまり寝れてなかったし。

「ああ!これは気が付きませんで。こちらへどうぞ」

 サティはと見ると何かお手伝いをしている。とりあえずサティはそのままにしておいて、神官さんについていき部屋に案内された。お茶を出される。マギ茶だ。うん、おいしい。

「それにしてもなんと素晴らしい治癒術でしょうか。大神殿でもあそこまでの使い手は何人もおりませんよ」

 何人かはいるんだ……だったらその人が来ればいいのに。

「ここは危険地帯ですから。王都にでもいれば引く手あまたですし、こんなところに来たがる物好きは多くは……」

 それはそうだな。おれもエリザベスのことがなければ来たくなかった。

「よし、少し休んで楽になりました。治療をしましょう」

 お茶を飲んで一服すると少し元気が出てきた。

「もういいのですか?あれほどの魔力を使って……」

「ええ、まだそこそこは魔力は残ってます。それよりも神官服を借りれませんか?この格好で治療と言うのはちょっと」

 剣を背負った冒険者よりも神官服を着ていたほうが治療される方も安心感があるだろう。

「そうですね。それでしたら私のをお使いください。体格も同じようですから」

「ありがとうございます。あとマスクとかないですかね?以前もシオリイの町で治療するときにマスクして顔隠してやったことあるんですが」

「ああああああ。あの!あれはマサル様でしたか!噂になっていたんですよ!旅の神官とだけで誰も正体を知らなかったんですよ!」

 うわあ、やっべー。そんなことになってるのか……でも神殿の人たち、ちゃんと秘密にしててくれたんだな。

「あの、すいません。そのことはご内密にお願いします。さっきも言いましたが目立つのだめなんです」

「もちろんです。誰も正体を知らない旅の神官が無償で民衆を治療する。いやーロマンですなー。いやいや、わかっておりますとも!誰にもいいません!」

 ほんと頼みますよ……

 白いローブの神官服を受け取り、ちょっと考えて防具はそのままで武器だけ収納して、上から着る。いつでも戦えるようにしておいたほうがいいだろう。

「その服は差し上げますのでそのままお持ちください」

「いいんですか?」

「はい、マサル様に使っていただけるとは光栄ですよ!」

「あの、普通にお願いします。おれのほうが年下ですし、マサルって呼び捨てでも」

「そうですか?じゃあマサル殿と」

「はあ。もうそれくらいでいいです」

「ああ、私はダニーロと申します。どうぞダニーロと呼び捨てを」

「ええと、ダニーロさんですね」

「ダニーロです」

「ダニーロ殿で……」

「呼び捨てでいいのに」と、言いながらマスクを渡される。目の部分だけのマスクで顔が半分くらい隠れるタイプだ。

「あの。なんで神殿にマスクが常備してあるんです?」

 あっちの神殿でもすぐに出てきたし。そういう趣味の人が多いんだろうか。

「儀式用なのですよ。そのマスクは神のご尊顔を模しておりましてね」

 なるほどな。神事で使う能面みたいなもんか。マスクを装着して神官帽子も被る。

「うんうん。お似合いですよ。正体を隠した神官!いいですなあ。私もやってみたいですよ」

 ダニーロ殿はすごくうきうきしている。この砦、今落ちそうになってんですよね?この人わかってんのか……

「では治療室でやっていただきましょうか。先ほどのでだいぶ治療が進みましたので」



 治療室の作りは似たような感じだ。ダニーロ殿についてもらって治療にあたった。

 軽傷のものは他の神官さんに任せて重い傷の人を送り込んでもらった。ホールでまとめて治したので、それを見て他の治癒術士さん達もがんばってくれてるらしい。だがそれでも追加の怪我人はどんどんやってくる。今も城壁では戦闘が行われてるんだよな。それを想像してちょっと恐ろしくなる。



 兵士や冒険者を治療をしながら前線の様子を聞く。敵はオークがメインでゴブリン、トロール、ハーピー、オーガ、リザードマンその他聞いたこともないようなモンスターも混じっているそうである。

 なんでそんな混成集団が?と聞くとそういうものじゃないのか?と言われた。聞いたのが下っ端の兵士や冒険者達だったからだろうか?それともそういう認識が普通なのだろうか。

 ともかく前線は厳しい戦いを強いられている。序盤の攻防で多くの人命が失われ、城壁は応急処置をしたもののいつまた破られるかわからない。やつらも夜は目が見えないのか暗くなると一息つけるが、朝になればまた激戦が始まる。

 敵の数が多い。多すぎる。城壁上から矢や魔法で攻撃するものの一向に減る様子がない。魔力は尽きる。矢も心もとなくなる。モンスターははしごや櫓を使い城壁を乗り越えようとし、時には敵の矢や魔法、飛んできたハーピーなどの空のモンスターにやられ、こちらは数を減らしていく。

 だがここを放棄するわけにはいかない。砦を抜かれるとあとには広大な王国領が広がっている。あとは好き放題に蹂躙されるだろう。冒険者の到着はいいニュースではあったが、状況は今だに好転しない。王国軍の到着まであと数日。なんとしてでも耐えなければならない……



 こうして仮面をして治療に当たってるわけなんだが、患者のほうは特に気にならないらしい。祭りや儀式になると多くの神官が仮面を付けるので特に違和感はないようだ。これで冒険者や兵士達に顔が売れるのは防げるだろう。最近サティがすごく目立っていて、おれ自身は余計に目立ちたくない。

 だが治療をしていると、ちらちらと他の神官さんや治癒術士が見にやってくる。時には二言三言言葉をかわす。特になんでもない話である。調子はどうですか?お名前はなんというのですか?

 「あれが……」「旅の……」「本当だったんだ……」「上位の治癒術を……」などの話が漏れ聞こえたりする。

「あの。旅の神官って話、黙っててくれてるんですよね?」

「……」

「……」

「違うんです!こっちからは絶対に言ってませんから!ただ腕のいい、顔を隠した神官っていうと誰でもあの話を思い浮かべるようでして。ここはシオリイの町から近いですからね。それで聞かれて、嘘をつくわけにもいかないし、その、誤魔化しきれなくて……」

「言っちゃったんです?」

「言ってませんよ!でも黙ってても、言えないって答えても否定できないとなると結局……」

 なるほど。これはダニーロ殿を責めるのも悪いだろう。

「あの。せめてあの人達に口止めをお願いできませんか?もうシオリイの町のことはばらしちゃっても構いませんから」

「わかりました。きっちり言い含めておきますよ!」と、なんだか嬉しそうな様子でいそいそと治療室を出て行った。

 冒険者や兵士に顔が売れるのはこれで防げたんだけど、今度は神官達の間で話題になるとか。どっちがよかったんだろうか。

 結局、人数が少なくて口止めができる分、こっちのがマシじゃないかと思い、おれは考えるのをやめ治療を続けた。



 しばらくするとダニーロ殿が戻ってきた。

「口止めしてきました。外部には漏れることはないでしょう」

 ん?外部には?

「その。さすがに完全に緘口令を敷くのは難しくって……でもマサル殿の名前が出ることは絶対にないとお約束します」

 その程度なら仕方ないか。こうやって仮面して治療してたらどうやったって目立つものな。もっとこう、目立たない方法はないものか。箱にでも入って手だけだして治療する?だめだ。今度は箱に入って治療する変な治癒術士として有名になりそうだ。

 整形してみるとかどうだろう。何かそういう、姿を変える魔法くらいならこのファンタジー世界でならありそうなものだが。今度エリザベスに聞いてみよう。

「正体を隠し、見返りも求めずただひたすらに治療をする謎の旅の神官!その正体は誰にも知られず、旅を続けるのです」

 おいちょっと待て。あんた、なんと説明して口止めしたんだ?

「今言ったみたいなことですけど」

「あの、おれとかちんけな治癒術士に過ぎないんで。旅なんかしてませんし、ここにもギルドから派遣されて報酬もちゃんとあるんですよ?」

「またまた。あれほどの治癒術には滅多にお目にかかれませんよ。それに顔を隠し正体を隠して一切名声を求めないとはなんと徳のある方でしょうか。マサル殿は素晴らしい方ですよ!」

「あ、名前を出すのは」

「あ、申し訳ありません。神官殿」

 なんかもうだめだ。目立ちたくないって思ってやったのに、余計に目立つことになった気がする。せめてここの人達の口が固いことを祈ろう……
「我が諸神の神殿の役割はご存知ですかな?」
「神への信仰をするため?」
「それはほんの一部でしかありません。もちろん、この箱庭世界ラズグラドワールドを作られた神への信仰は大事なことですが、もっと大事なことはこの世界を存続、発展させることなのです」

次回、明日公開予定
46話 諸神の神殿

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