ギルドの訓練場に行くとまたサティが教官に囲まれていた。今度は5人に増えてる。軍曹どのまでいた。
「おお、マサルじゃないか!この子は天才だな!いや100年に一度の天才に違いない!」
またこのパターンか。預ける前、サティに手を抜くようにと言うことも考えたんだが、サティにそんなごまかしができそうに思えなかったので成り行きに任せることにしたのだ。まあ天才ってことでいいよね。
「実戦を経て一皮剥けたに違いない。獣人とは言え、ここまでの上達ぶり。素晴らしい才能だ」
「へー、そうなんだ。すごいなサティ」
べた褒めである。さすがは弓術レベル5だな。
「はい、マサル様!」と、サティは素直に喜んでいる。
「だが道具がいただけんな。弓もだが、剣も防具ももっといいものを買ったほうがいい。わしの使ってた剣をあげたいところだが、サイズがさすがになあ」
「ふふふ。そう思っておれは弓を用意しておいたぞ。ほれ、これだ」
「な!?」「貴様抜け駆けか!」「ずるいぞ!」などと教官が言い合ってる。
渡された弓を見る。弓のことはよくわからないが見事な細工が施された高そうな品だ。サティに渡す。
「こんなよさそうなものをもらってもいいんですか?」
「もちろんだとも。おれはもう引退しとるからな。サティちゃんほどの使い手に使われるならその弓も本望だろう」
「よかったな、サティ」
「はい。ありがとうございます、教官どの!」
「ええと、このあと訓練は?まだお昼までには結構時間がありますが」
「もちろん続ける。今はちょうど休憩だったんだ」
「ではマサル、時間があるなら少し話がある」
「はい、軍曹どの。じゃあサティ、もうちょっとがんばれよ」
「はい、マサル様」
「それで話というのは……」
「うむ。ここのところギルドに顔を出さなかったな?ハーピーのときに貴様が傷を治した冒険者が礼を言いたいと来ていたぞ」
「そうですか」
壁に寝かせてあった死んだ冒険者がフラッシュバックする。だが司祭様や門番の兵士の言葉も思い出した。
「――軍曹どの」
「なんだ?」
「自分は怖かったんです。あの戦いで4人が死んだと聞きました。神殿騎士団が来なければ自分とサティもその中に入ってたんじゃないかと。もっと上手くやれば誰も死ななかったんじゃないかと……」
「貴様とサティの戦いぶりはあそこでわしも見ておったぞ。新人冒険者にしては十分な働きだった」
「ですが、もっと何かできたのではないかとそればかり考えるのです」
「自惚れるな!貴様など多少の魔法は使えてもひよっこにすぎん。そういうことはわしから1本でも取ってからほざくのだな」
「軍曹どの……」
「死んだ冒険者もそれだけの覚悟はしていたはずだ。でなければあのハーピーの群れを見て逃げ出しただろう。貴様もあれを見て戦うことを選択したのだろう?」
「はい」
「貴様の働きは十分なものだった。最善ではなかったかもしれんが、全力を尽くした結果だ。怖かった?最後まで逃げずに戦ったのだ。それで十分ではないか。それに多少怖がりのほうが冒険者として長生きできるというものだぞ」
「はい、軍曹どの」
「報酬を取りに来たときはひどい顔をしておったが、少しはましな顔つきになっておる。一週間寝て暮らして少しは気分が晴れたか?」
「はい。話を聞いてもらい楽になりました」
「よし。それで礼を言いたいという冒険者のことだが」
「そうですね。毎朝ギルドには来ているのでそのときにでも」
「わかった。伝えておこう」
「軍曹どの?」
「なんだ?」
「1本お相手願えませんか?」
「いいだろう。もんでやる」
ハーピーに襲われたとき、もっと戦えたのではないかと思うのだ。あの時は魔法を中断させられて少し焦りすぎた。冷静に戦っていれば騎士団が来るまでもたすこともできたはずだ。そしてサティが傷つくこともなかった。スキルに頼らない、経験のようなものがもっと必要だ。
そして軍曹どのにはやはりぼこぼこにされた。回復魔法を使えるからって本当に容赦がない。
帰りにサティの装備を買って帰った。防具はおれと同じもの。剣も選ばせたらおれと同じ黒鉄鋼で作った少し細い剣を選んだ。防具はサイズの調整と耳と尻尾穴の加工に数日かかるそうだ。これでハーピー戦の報酬がほとんどなくなった。
そのあとは久しぶりに竜の息吹亭で昼を食べて帰った。
家に帰り、サティに本を読ませながらスキルのチェックをした。
スキル 6P
頑丈 鷹の目 料理Lv1 家事Lv1
聴覚探知Lv3 嗅覚探知Lv2
剣術Lv3 弓術Lv5 回避Lv2 盾Lv1
今後は森に入ることを想定すれば探知系のスキルは必要だろう。剣術と迷ったが、聴覚探知をレベル4に。残った2で盾をレベル2にしておいた。回避はいつの間にかあがっていた。料理は結構できるようになったはずだけど、いつになったら2になるんだろうな?できればポイントは使いたくない。
スキル 0P
頑丈 鷹の目 料理Lv1 家事Lv1
聴覚探知Lv4 嗅覚探知Lv2
剣術Lv3 弓術Lv5 回避Lv2 盾Lv2
続けておれのスキルだ。
スキル 10P
スキルリセット ラズグラドワールド標準語 時計
体力回復強化 根性 肉体強化Lv2 料理Lv2
隠密Lv3 忍び足Lv2 気配察知Lv3
盾Lv2 回避Lv2 槍術Lv1 格闘術Lv1
弓術Lv1 投擲術Lv2 剣術Lv4
魔力感知Lv1 コモン魔法 生活魔法 高速詠唱Lv5
回復魔法Lv4 火魔法Lv4 水魔法Lv3 風魔法Lv3 土魔法Lv3
まず盾と回避をレベル3にあげた。ハーピー戦の場合、剣術は4あればおそらく十分だった。足りないのは防御能力だろう。
残った4Pで気配察知をレベル4にした。サティの聴覚探知Lv4と組み合わせれば森でもモンスターに先手を取られることはないだろう。
スキル 0P
スキルリセット ラズグラドワールド標準語 時計
体力回復強化 根性 肉体強化Lv2 料理Lv2
隠密Lv3 忍び足Lv2 気配察知Lv4
盾Lv3 回避Lv3 槍術Lv1 格闘術Lv1
弓術Lv1 投擲術Lv2 剣術Lv4
魔力感知Lv1 コモン魔法 生活魔法 高速詠唱Lv5
回復魔法Lv4 火魔法Lv4 水魔法Lv3 風魔法Lv3 土魔法Lv3
【水魔法Lv3】水球 水鞭 氷弾 水壁 氷雪
【風魔法Lv3】風弾 風刃 風壁 雷 風嵐 飛翔
【土魔法Lv3】土弾 土壁 硬化 ゴーレム作成 岩弾
家でごろごろしてる間に庭で魔法も試した。さすがに氷雪や雷、風嵐は無理だったので、今日草原に行ったときに試し撃ちをした。
やはり面白いのは土魔法だった。土弾と岩弾は見たままで石や岩を打ち出す地味な魔法だったが、土壁は利用法が多そうだ。イメージと魔力によりかなりの自由度があった。
硬化は物質を固くする魔法でかなり長期間効果が続くようだ。試しに木の枝にかけたら鉄のように硬くなった。自分の体にもちょっとかけてみたがこれは無理みたいだ。生命体は適用範囲外ってことなのだろう。
ゴーレムは1mくらいの小さいゴーレムが出てきて、簡単な命令なら聞いてくれる。簡易の盾にしたり敵に突撃させたりこれも利用法は多そうだ。もっと大きくできないかと思ったが無理だった。できるのは複数匹出すことと、ゴーレムを維持できる時間を変化させることくらいだった。
夕方、いつものようにアンジェラとティリカちゃんが来て一緒に食事をする。最近はティリカちゃんも慣れたもので、簡単な料理ができるようになり包丁もちゃんと使える。アンジェラの教え方がいいのかな。とにかく料理はほとんどしなくていいのはとても楽だ。今度新作料理に挑戦してみようかな。
マヨネーズは引き篭っていたときにまた子供たちにやってもらった。メンバーは一部変わっていた。やっぱりあれはきつかったんだろうな。風魔法でなんとか撹拌できないものかとやってみたが、びちゃびちゃにマヨネーズが飛び散って、サティにもかかってちょっと嫌な顔をされた。サティのあんな顔初めて見た。とりあえず謝って一緒に掃除をし、浄化でなんとか食堂は綺麗になった。
もちろんそのあとは一緒にお風呂に入った。綺麗にしないとだめだしね?
ミキサーみたいなのを作れればいいのだが、生憎と工作は苦手だった。プラモくらいしか作ったことがない。当分は子供たちに働いてもらうことになるだろう。
「あの、今日司祭様と……その」
なんだか今日はアンジェラがそわそわしてたのはそれか。気になっていたんだろうな。ちょっと話しておくか。軍曹どのにも聞いてもらったことだし。
「ほらハーピーと戦った時に怪我したって言ったろ」
「うん」
だけど死にかけたとは言ってない。回復魔法ですぐ治る程度の怪我をしただけと言ってある。嘘じゃないからティリカちゃんも反応しない。サティにも2人に心配をかけないように黙っておくように言ってあった。
「あの時のことがやっぱり怖くてね。死んだ人もいただろ。それで司祭様なら元神殿騎士団でそういうのにも詳しいかと思って相談にのってもらったんだ。アンジェラに怖いですって泣きつくわけにもいかないしね?」
ちなみにサティはあんまり気にしてないみたいだ。結果的に2人とも助かったのだからそれでいいと。やっぱりサティは大物かもしれない。
「そう。わたしなら別にいいのに。慰めてあげても」
慰める……その大きいお胸で?ぜひお願いしたい。サティは可愛いけど胸が物足りないもの。
「軍曹どのも言ってたけど、おれ酷い顔をしてたって?」
「うん。顔色も悪かったし、すごく元気がなかった」
「そうか、心配かけたみたいだね。でももう大丈夫」
「うん。今日はすっきりした顔してる。元気も出たみたいでよかったよ」
いつものようにお風呂に入ったあと、アンジェラが今日は泊まりたいと言い出した。
「孤児院じゃ子供たちが多くて騒がしいんだよ。ここは静かだし」
「そういうことならいくらでも。部屋は空いてるしね」
アンジェラのぴったりとくっついてのお願いが聞けない訳がない。最近元気がないのを心配したんだろうか、サティ並にべたべたしてくるようになった。ちょっと胸が当たってる。わざと当ててるんだろうか?そう思わないでもない。だって好きって言われたしね。
日誌を書いてベッドでティリカちゃんに貸してもらってる歴史の本を読む。いつもならサティとティリカちゃんがベッドに居る頃なのに遅いななどと思っていると、アンジェラが部屋に来た。
「あの、ちょっと話があって」
アンジェラとベッドに並んで座る。なんか顔が真っ赤だ。
「顔が赤いよ?熱でもあるんじゃないか?」
そういって、おでこをさわろうとしたら「ひゃっ」とかわいい声をあげられた。
「あ、ごめん」と、手を引っ込める。
「あ、うん。いいんだよ。それでそのね。前に好きって言ってくれただろう?あれはまだ有効なのかなって……」
ああ、なるほど。最近サティにかかりきりでちょっと放置気味だったかもしれん。でもサティに手を出しながらアンジェラに粉をかけるとかすっごく後ろめたくてさ……シスターマチルダはあんなこと言ってたけど実際にそういう状況になるとね。
「今でも好きだよ」
「じゃあ……」とアンジェラが顔を近寄せてきた。
これはチューしろってことだな?だけどちょっと待て。サティとティリカちゃんはどこだ?
「あの。サティとティリカちゃんは……?」
アンジェラがふいっと目を逸らして言う。
「実はあっちの部屋で眠ってもらってるんだよ。今日はもうこっちには来ないよ」
「えっと。それはサティのお許しが出たと?」
「うん。相談したらこういうことになって……」
サティ、主人を売ったのか!?いや、でかしたというべきか?
「アンジェラはいいの?その、サティと2人もって」
「うん。シスターマチルダにも聞いたんだけどそういうものだって。それにサティとなら……」
ああ、うん。お風呂で毎日仲良くしてるものね。
「あの、まさか、サティに色々とその……」
「うん、ごめんね。全部聞いちゃった」
うおおおおおお。あの子は!これはお仕置きしないと!だがとりあえず目の前のアンジェラちゃんだ。
「ほう。例えばどんなことを?」
「初めての時のこととか……あの……」
赤くなっておろおろしているアンジェラを見てもう辛抱が堪らなくなった。
「アンジェラ」と、肩を抱いて顔を近づける。口を軽くつける。
「それでサティに話を聞いて我慢できなくなっちゃったの?」
「う、うん……」
アンジェラも20だもんね。欲求不満が色々溜まるのはわかる。わかりすぎる。これは解消して差し上げねば。
アンジェラのお胸は立派でとてもいいものだった。いいものだった。
実戦経験を経て、森デビューをするサティとマサル
だがオークや大蜘蛛が容赦なく2人に襲いかかる
果たして2人は生き延びることができるのか……
次回、明日公開予定
40話 森へ
誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。
ご意見ご感想なども大歓迎です。
サティにお仕置きをしたのか。それは作者にもわからない。
誤字訂正
一言感想などもこちらでどうぞ
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。