「世代は繰り返される−循環史観からみた現代」(3回連載)
第1回 歴史も世代も繰り返される
世代にはタイプがある
世代は循環する
20年ごとの世代配列が時代を生む
歴史サイクルは80年でひとまわり
「歴史」は繰り返しの積み上げ
第2回 日本をつくりあげた世代
世代の日米比較
日本の転換世代とアメリカのミレニアム世代
第3回 世代から見た歴史――21世紀のヴィジョンとは?
明治維新と立国
大国日本の興亡
近代を越え、ポストモダンへ
歴史から学ぶ−ふたつの教訓
第2回 日本をつくりあげた世代
世代循環による歴史循環史観によって、日本の明治以降の近代化を分析してみる。日本の「未来の過去」はどこにあるのか、そして、それはどんな時代と時期であるかを探っていきたい。
日本は、長い歴史と独自の文化、文明を持つ国である。歴史家のA・トインビーや『文明の衝突』で知られるS・ハンチントンでさえ、極東の小さな国である日本を、独自の技術と文化をもった文明と認めている。
地球を生態的な視点からみれば、日本は、ユーラシア大陸の東に位置する島々からなる火山列島である。ユーラシアで生まれたメソポタミア文明・エジプト文明・インダス文明・黄河文明からは取り残された地域であり、ユーラシアのパワーに圧倒されてきた。それが、イギリスやヨーロッパに封建社会が成立し、日本にはヨーロッパに「相似」する江戸社会が誕生した。イギリスでは封建社会が、日本では江戸社会が、それぞれの道は異なるが独自の近代化、市場経済への道を辿った。近代化への平行進化であり、「ふたつの道」(川勝平太)である。
日本の近代化、経済の市場化は、その多くをイギリスなどの欧米先進国から学んだ。したがって、欧米基準で、政治、経済、社会を比較しがちである。その結果、江戸社会に対する評価は、近代化遅滞の原因にもなった閉鎖的な「鎖国社会」であり、明治維新も、イギリスやフランスの市民革命に比べて、「不徹底なもの」と言われてきた。たしかに江戸は、欧米に比べて、科学技術や産業力、軍事力で遅れをとっていたし、対内的にも、経済社会の発展によって豊かな町人層が出現し、幕藩体制下での米本位制などの経済的矛盾が噴出していた。しかし、この解決策として日本が目指したのが、明治維新を契機とする急激な欧米を範とする近代化である。日本の近代化は江戸社会から進むことになったのだ。
そして実際に、江戸社会は日本の近代化の母体であり、自然との循環経済システム、人々の間の互助システム、寺子屋などの教育システム、老人の役割など、学ぶべきものを多く持つ社会となっている。
この近代化を成し遂げた世代が、江戸後期、実際には1771年生まれを起点とする10の世代である。
大衆的な世代が成立するには、教育制度、労働市場の成立、マスメディアの発達などが必要である。これらの条件がないと、同年代生まれが、共通体験をし、共通の価値観を形成する世代状態が生まれ、世代連携による世代現象が社会的に出現するような事態は生まれない。これらの条件は、江戸時代には、武士層には整っていたと思われるが、人口の90%以上を占める農民や町民にはなかった。したがって、ほとんどすべての人々を巻き込む経済の世代分析には、近代化の契機になった明治維新、そして、それを準備した江戸後期、特に、町人層にも寺子屋などが普及した時期から、世代区分を始めるのが合理的である。
他方で、ディルタイやオルテガなどは、世代分析を、先の条件を満たしていないギリシャ・ローマ文明からはじめている。これが可能なのは、思想や宗教といった文化を対象とし、後世に作品や文章を残した特定の知識人を対象にした世代論だからである。
1781〜2000年までの約220年の間には、11の世代が存在する。11世代の区分は、ライフサイクルの局面の長さである20年を基準とし、社会的な歴史的な節目となる事件や期間を考慮し、区分したものである(図表4)。以下で、それぞれの世代について見ていこう。
図表4.江戸末期から現代までの日本の11世代

異端世代(第1世代)
1776〜1795年生まれ。若年期に、西洋諸国との接触が始まる体験をし、青年成人期、壮年成人期で、幕藩体制に異端的な態度をとった世代。大阪で乱を起こした大塩平八郎や、「尊皇攘夷思想」に少なからぬ影響を与え、日本の通史である「日本外史」を書いた頼山陽などに代表される。
突出世代(第2世代)
1796〜1815年生まれ。若年期に、「異国船打ち払い令」や「シーボルト事件」などの鎖国体制に動揺を与える事件を経験し、青年成人期で、天保の飢饉、大塩の乱などを経験し、壮年期の幕末で極端な態度と行動をとって指導した世代。価値観や態度は異なっても「極端性」では共通する。幕藩体制を維持することに努めた井伊直弼、多くの明治以降の人材を育てた開明的な緒方洪庵、「夷の術を以って夷を制す」という明治日本の進むべき方向を提示した佐久間象山などに代表される。
改革世代(第3世代)
1816〜1835年生まれ。若年期に、天保の飢饉、蛮社の獄を経験し、青年成人期に幕末の尊皇攘夷運動で行動し、壮年期に明治維新を成し遂げた世代。この世代には、勝海舟、吉田松陰、坂本龍馬などがおり、明治維新を精神的に指導した。また、大久保利通は維新後も指導力を発揮した。経済では岩崎弥太郎、文化では福沢諭吉がいる。
実務世代(第4世代)
1836〜1855年生まれ。若年期、幕末の混乱を体験し、青年成人期で戊辰戦争の実行部隊となり、壮年期で限定的ながら政治の民主化、経済の市場化、社会の自由化を指導し、制度として定着させた実務世代。政治では、山県有朋、伊藤博文、西園寺公望、桂太郎、大隈重信、陸奥宗光、高橋是清などに代表される。軍人では、山本権兵衛、東郷平八郎、大山巌、児玉源太郎などが含まれる。経済では、儒教倫理にもとづく経営を説いた渋沢栄一、文化では中江兆民、高村光雲が含まれる。
開明世代(第5世代)
1856〜1875年生まれ。明治維新を若年期で経験し、青年成人期で日清・日露に参戦して欧米列強に並び立ち、壮年期で社会の指導役として、大戦によるバブル景気と関東大震災をという「天国と地獄」を経験し、指導した世代である。政治では浜口雄幸、幣原喜重郎、労働運動を組織化した安部磯雄、経済では自動織機を考案した豊田佐吉などがいる。
司馬遼太郎『坂の上の雲』に出てくる3人の主人公、秋山真之、秋山好古、正岡子規はこの世代に含まれる。
文学では、夏目漱石、森鴎外の双璧が含まれる。さらに、日本民俗学を創設し、「柳田学」と呼ばれる独自の研究を成し遂げた柳田国男、さらには、『善の研究』で知られ、「京都学派」と呼ばれる研究グループに多大の影響を与えた西田幾多郎を輩出している。精神、思想、哲学などの文化の面において、極めて開明的で後世に多大なる影響を与えた世代である。
戦争世代(第6世代)
1876〜1895年生まれ。若年期で日清戦争、青年成人期で日露戦争に参戦し、壮年期で日露戦争と第1次世界大戦を指導し、老年期には助言役として第2次世界大戦を経験する。生涯が戦争で彩られる世代である。東条英機、石原莞爾、山本五十六、井上成美などが含まれる。文化人では、早世した芥川龍之介、志賀直哉、石川啄木、与謝野晶子、田邊元、和辻哲郎などである。大戦後に活躍した政治家として、対外的には日米安保体制と国内における経済優先路線を指導した吉田茂、また、独自の針路を提示した鳩山一郎、石橋湛山がいる。経済人には松下幸之助がいる。
戦前世代(第7世代)
1896〜1915年生まれ。若年期で大正デモクラシーを経験し、青年成人期に大戦に出征し、壮年成人期に戦後の復興を指導し、老年期でバブル経済への助言者となった世代である。政治家は、岸伸介と佐藤栄作で代表される。経済人には、土光敏夫や井深大、本田宗一郎がいる。兵隊として、あるいは青年将校として戦った世代である。文化人では、マルクス経済学の宇野弘蔵、西洋史の大塚久雄、政治学の丸山眞男、家族法の川島武宣が、それぞれの研究分野で独自の発展をさせ、戦後のリベラルな思想をリードしている。自然科学では、戦後初めてノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹、朝永振一郎などがいる。文学では、太宰治、戦前の横光利一や川端康成などの「新感覚派」、そして、極めて独自な戦争をテーマにした「戦後文学」を担った大岡昇平や野間宏がいる。映画では、世界に多大なる影響を与えた黒澤明、小津安二郎が含まれる。また、西谷啓治、高坂正顕に続いて、今西錦司が「棲み分け理論」などを提唱し、ダーウィン進化論に対抗するとともに、「京都学派」と呼ばれる多くのユニークな研究者を指導した。
戦中世代(第8世代)
1916〜1935年生まれ。若年期で大戦を経験し、青年成人期に戦後復興を担い、壮年成人期に安定成長期をリードし、老齢期にバブル経済とその崩壊、そして長い低迷期の助言役となっている世代である。政治家では、田中角栄、中曽根康弘、竹下登、海部俊樹、石原慎太郎などが含まれる。経済人では、盛田昭夫、中内功、御手洗富士夫がいる。文学では、「第3の新人」と呼ばれた安岡章太郎、吉行淳之介、遠藤周作などがいる。また、三島由紀夫もこの世代に含まれる。思想・文化では、梅原猛や梅棹忠夫、吉本隆明の独創的な成果がある。自然科学では、ノーベル賞を獲得した小柴昌俊、南部陽一郎がいる。また、マンガ家の手塚治虫、指揮者の小沢征爾、建築家の黒川紀章もこの世代である。
戦後世代(第9世代)
1936〜1955年生まれ。終戦を10歳以下で迎え、若年期で戦後復興と高度経済成長を経験し、青年成人期で安定成長期を担い、壮年成人期でバブル経済と崩壊を主導し、老年期の現在は、長い経済低迷と政治的混乱の助言役となっている。政治家では、橋本龍太郎、小渕恵三、細川護熙、小泉純一郎、小沢一郎、田中真紀子、安倍晋三、菅直人、麻生太郎、谷垣禎一、渡辺喜美などである。経済人には出井伸之、丹羽宇一郎、柳井正がいる。文化人では、川勝平太、西部邁、ノーベル賞を獲得した白川英樹、野依良治、利根川進、益川敏英がいる。文学では、中上健次、村上春樹、マンガやアニメでは、宮崎駿、大友克洋、小林よしのりが含まれる。
成長世代(第10世代)
1956〜1975年生まれ。若年期に安定成長期を経験し、青年成人期でバブル経済とバブル崩壊を経験し、壮年成人期の現在は、長い経済低迷と政治的混乱にある社会の収拾と転換を指導的に努めている。政治家には、石破茂、石原伸晃、野田佳彦、野田聖子、橋下徹、高市早苗などが含まれる。経済人は、三木谷浩、新波剛史、堀江貴文などが含まれ、この世代が多くの企業トップに就きつつある。文学では、島田雅彦、よしもとばなな、東野圭吾などが知られている。
転換世代(第11世代)
1976〜1995年生まれ。若年期の15歳以下でバブル経済を経験し、15歳以上からバブル崩壊とその後の長い経済低迷を経験し、現在は、青年成人期にあり、社会の行動的な活動役を担っている。政治家としては小泉進次郎がいるが、まだ、評価が確立された知名人は少ない。
このように2005年までの日本を形成してきたのは、第1世代から第10世代までの10世代である。2006年以降は、これに新しい第11世代が加わっている。さらに現在では、若年期にこれから世代特徴が明確になる第12世代が加わり、青年成人期に第11世代の「転換世代」、壮年成人期に第10世代の「成長世代」、老齢成熟期に第9世代の「戦後世代」という世代配列となっている。この世代配列は、2006年から2025年まで続くことになる。
世代の日米比較
ここで、アメリカの世代論研究を見てみたい。アメリカの世代を見ることで、日本の世代論を相対的に理解することが出来る。
アメリカの1767年から現在までの世代分析がストラウス=ハウによってなされている。世代の起点や区分の長さは日本と微妙に異なるものの、日本とアメリカの同世代比較をしてみると興味深い点が幾つかある(図表5)。
図表5.江戸末期から現代までの11世代の日米比較

第1は、日本の明治維新でリーダーを担った1816〜1835年生まれの勝海舟、吉田松陰、西郷隆盛などの「改革世代」と、アメリカの南北戦争を戦った1822〜1842年生まれのグラント将軍などの「贅沢世代」が同世代として重なるということである。
1860年ごろ、日本はペリーの砲艦外交によって開国を迫られ、西洋列強による植民地化の危機を迎えていた。このとき、幕藩体制の枠組みを超えて、いかに自立していくかを模索していたのが改革世代であり、この世代が明治維新のリーダーとなっていった。
一方、同じころアメリカでは、独立戦争を経て、産業革命が推進され、保護貿易を求める北部と、奴隷制による綿花輸出・自由貿易を志向する南部が政治的に対立し、南北戦争へと突入する。この内戦を主導したのがグラント将軍などである。この世代が贅沢世代といわれるのは、『風とともに去りぬ』の映画で知られるように、南部では奴隷制によって綿花をイギリスへ輸出していたことが経済的繁栄の基礎となり、巨大な邸宅・贅沢な調度品とパーティー・豪華な衣装など、貴族的な白人文化社会の「金ぴか時代」(Gilded Age)を担ったからである。
そして、南北戦争で使われた多くの銃器が、明治維新の過程で内戦となった戊辰戦争で使われたのである。日本で欧米による植民地化の危機・内戦を乗り越えた世代と、アメリカで伝統的なアメリカの孤立外交・奴隷解放をめぐる内戦を戦った世代が、同世代なのである。
第2は、日本の1876〜1895年生まれの東条英機や山本五十六などの「戦争世代」と、アメリカのフランクリン・D・ルーズベルトやヘンリー・フォードなどの理念や理想に燃える「伝道師世代」、また、作家のフィッツジェラルドに代表される1883〜1900年生まれの「失われた世代(Lost Generation)」がほぼ同世代である。日本の戦争世代は、若年期で日清戦争を経験し、日露戦争の現場を担い、自信を持って、アジア太平洋戦争を指導し、日本を敗戦に導くことになった。戦後は一転して、吉田茂に代表される同世代の政治家によって、日米同盟を基軸に軽武装・経済優先路線へと転換をすすめた。辛勝ながら戦争に勝ち続け、自信をつけた日本の世代と、ルーズベルトのように理念に燃える世代がリードし、「貧乏くじ世代」といわれるロストジェネレーションが、太平洋戦争で戦うとは妙な巡り合わせである。
第3に、戦後においては、1916〜1935年生まれで、敗戦を若年成人期で体験した田中角栄や中曽根康弘などの「戦中世代」が、第2次世界大戦を勝利に導いた1901〜1924年生まれの「G.I(兵隊)」世代、冷戦とベトナム戦争を担った1925〜1942年生まれの「沈黙の世代」と同世代に位置している。敗戦体験を持つ田中角栄や中曽根康弘などの「戦中世代」は、日本の戦後復興と成長を指導した世代である。「アメリカには戦争で負けて経済で勝った」世代なのである。また、同じ戦争を戦いながら、冷戦とベトナム戦争で疲弊し、戦争の「ヒーロー世代」とも呼ばれるケネディ大統領やレーガン大統領が同世代にあたる。特に、中曽根首相とレーガン大統領の盟友関係はよく知られている。
日本の転換世代とアメリカのミレニアム世代
第4は、日本の1976〜1995年生まれの「転換世代」と、アメリカにおける1982年以降生まれの「ミレニアム世代」がほぼ同世代である。両世代とも、ほとんどの人が21世紀に成人(20歳)する世代である。両世代の対照的で対極的な価値観は興味深い。日本の転換世代は、バブル経済崩壊後の「失われた20年」に人格形成がなされたため、将来不安が強く、リスク回避的で内向的、かつ、家族形成意欲も強くない。アメリカのミレニアム世代は、クリントン政権下でアメリカ経済が情報経済革命によって復活している中で育ったため、将来に明るい見通しを持ち、外交的で、チャレンジ精神にあふれ、家族志向が強い。
世界史からみると、幕末に日米が出会ってアジア太平洋の歴史が形成され、日本が世界史に登場することになる。幕末から現代までの日米を同世代間で比較すると、世代間の共通体験が、グローバル経済と情報ネットワーク化の進展によって、次第に増えていることに気づく。日本文化とアメリカ文化の相互浸透には目をみはるものがある。
他方で、世代論からみれば、日米の時代体験は極めて対照的である。共通体験ながらまったく対照的な体験をしているからである。開国を迫り、日本を植民地化しようという野心を持つアメリカと、自立をめざす日本。欧米列強と肩を並べアジア太平洋でアメリカと覇権を争う日本と、その日本の覇権を封じ込めようとするアメリカ。第2次世界大戦の勝者と敗者、戦後の経済成長の勝者と敗者、そして、1990年代の経済成長における勝者と敗者など、すべてにおいて対照的である。その集約が、日米それぞれの第11世代の対照性に象徴されている。
日米は、自由と民主主義の価値観を共有するということがよくいわれている。しかし、現在の価値観は共有できても、世代比較からみれば、歴史的体験の違いから生まれる歴史観の共有は多くの対話を重ねなければ難しいことがわかる。
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