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第一章
6話 リベンジオブラビット前編
 5人の仲間とは再会を約束して別れた。3人はもともと別の町が拠点でそちらに戻るという。2人はパーティに入らないかと誘ってくれたがおれはやることがあると言って断った。訓練場を出るとドレウィンが待っていた。

「俺を恨んでいるか?」

「いえ、感謝してますよ。おれの腐った性根を叩きなおしてくれた」

「そうか。そう言ってくれると心を鬼にしてお前を初心者講習会に連れて行った甲斐があったってものだ」

 連行するとき笑いながら連れて行かれた気がするが感謝してるのは本当なので言わないでおこう。

 ギルドホールに行くと何人かがこっちを見て笑った。「あれが野ウサギの……」などと聞こえてくる。心に刺さるがぐっとこらえ、依頼を探し、見つけた。

【野ウサギの肉×5の収集】

 依頼を受付のおっちゃんのところまで持っていく。

「これ……お願いします」

「行くのかね」

「ええ。今度は……負けません」

 スキルポイントは余ってるが使わないことにした。以前と同じ条件じゃないと負けた気がするからだ。油断しなければ勝てる。そういう思いがあった。以前と同じスキル、以前と同じ装備で勝負をする。皮の鎧は少々ぼろぼろになっているが。

 東門から町の外へ。門番の兵士にも「今度は野ウサギに負けて帰ってくるなよー」と言われそそくさと門を出る。くそう、どこまで噂広がってるんだよ。

 ゆっくりとやつらの領域に近づいていく。油断なく剣を構え、歩を進める。出た。そして襲い掛かってくる。十分引き付けて軽く剣を振るい仕留める。以前のようにがむしゃらに剣を振ったりはしない。自然体だ。野ウサギは解体せずにそのままアイテムに収納する。ゆっくりと進み、やつらを仕留めて行く。10匹、20匹。体力は万全だ。50匹を超えたところでレベルが上がった。まだだ。まだやれる。だがとたんにやつらが出てこなくなった。全滅した?まさかな。ゆっくりと変わらないペースで歩く。いた。前方に野ウサギだ。やつはこちらに気がつき……逃げ出した。アイテムから水筒を取り出し水を飲む。

「そうか、おれはやつらに勝ったのか……」

 なんとなくもやもやした感じだがそう思うことにした。狩った野ウサギは57匹。もう十分だろう。町に帰ることにしよう。その時もう1匹野ウサギが視界に入った。こっちには気がついていない。気配を殺して観察する。やつらは気配に敏感だ。近寄って剣で倒すのはおそらく無理だろう。そこで魔法の準備をする。【火矢】魔法が発動、火矢が発射され野ウサギに向かい、そしてかわされ、やつはそのまま逃げていった。

 また野ウサギを探す。数分後、いた。慎重に火矢を放つ。が、またかわされる。くそ、あいつら魔法を感知するのか?さらに草原をうろついて野ウサギを探す。あんなに大量に襲い掛かってきた野ウサギがこっちが探すとなるとなかなか見つからない。

 30分ほどたった頃やっと野ウサギが見つかった。今度は【火球】を試すことにする。火矢も火球も要領は同じだ。【火球】発動。火の玉が野ウサギに向かっていく。やつは寸前で気がつき回避を試しみるが火球が命中する。やった!

 そして野ウサギは死体も残さず消し飛んだ……

 火槍や小爆発は火球よりレベルが上だし威力もさらにありそうなので、火壁を試してみた。野ウサギは黒こげになり炭のようになった。食えそうなところは一切れも残っていない。もう打つ手はない。確かに今日は57匹もの野ウサギを狩った。だがそれは草を刈るような単純作業だった。レベルが上がり、やつらの本来の動きを取り戻したとたんこの体たらく。ここからが本当の勝負だ。

 そう、やつらとの戦いはこれからだ!やる気が出てきた。幸いポイントは21Pもある。やつらに有効なスキルを取得するのだ。訓練を通してスキルポイントを消費しなくても通常の修練でスキルを習得できるのもわかっている。弓でも習ってみるのもいいかもしれない。

 そんなことを考えていると町の門に到着した。

「おお、野ウサギ君。野ウサギは取れたかね」

 兵士がニヤニヤ笑いながら聞いてくる。おれのあだ名、野ウサギかよ。

「57匹だ」

「は?」

「57匹取れたと言っている」

「嘘だろ。おまえが外に出て3,4時間しかたってねーのに、そんなに取れるわけねーだろ」

 アイテムを操作して兵士の目の前に57匹の野ウサギをすべて出してやる。兵士は口をぱくぱくさせている。おれは再び野ウサギを収納してギルドに向かった。

 受付のおっちゃんに声をかける。

「早かったね。依頼は無事完了したかい?」

「ええ、かなりの収穫でしたよ」

 おっちゃんと素材受け取り用のカウンターに移動して野ウサギを全部ぶちまける。

「こ、これはすごいね、一体何匹いるんだい」

「57匹です」

 周りがこちらに注目してざわめく。「野ウサギの」「野ウサギが……」などと聞こえてくるが笑い声は出ない。ふふふ、驚いてるな。

「野ウサギハンターだ」 誰かがそうつぶやいた。
「野ウサギハンター!」「野ウサギハンター!!」「野ウサギハンター!!!」

 ギルドホールが盛り上がる。この瞬間、おれの称号は【野ウサギハンター】へと切り替わった。

 あとで知ったことだが、野ウサギは非常にめんどくさい獣だ。低レベルでは捕まえるのは困難。高レベルなら狩れるが、そんな高レベルの冒険者が報酬の安い野ウサギなどは積極的に狙わない。普通はどうするのかというと罠を使う。だが罠だとかかるのは日に数匹。1日で57匹はちょっとした偉業である。野ウサギに負けて帰ってきた初心者冒険者がみごとにリベンジを果たしてきたのだ。ギルドにいた冒険者たちはただ素直にその偉業をたたえるのであった。
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