「キモかわいい」と人気の愛知県岡崎市の文化をPRするキャラクター「オカザえもん」が、6日に結果が発表された「ご当地キャラ総選挙」で2位に輝いた。一気に全国区になったが、生みの親の現代美術作家・斉(さい)と公平太(こうへいた)さん(40)は「何も感じない」と言う。その訳は――。
オカザえもんは、実は芸術作品だ。
名古屋市を中心に10日に開幕した芸術イベント「あいちトリエンナーレ2013」の会場に、今回から岡崎市が加わったのがきっかけで、昨年つくった。
市のPRキャラになったのは、その後。岡崎市の「岡」をかたどった顔や、長身の着ぐるみ姿が「気持ち悪い」とネットで評判に。逆にメディア露出が増え、人気が広まった。
「美術作家としては、今の人気を『うれしい』とかは何も感じない。応援にはとても感謝していますが、作品はつくった時点で終わってますから」
●美術を非美術へ
愛知県日進市出身で名古屋市在住。オカザえもんの発想は、古いパプアニューギニアのお面を意識した。
「何かを見るときは、自身の記憶と一緒に見ますよね。それなしで見られるようなビジュアルにしたかった。情報社会に生きるぼくらが、蓄積された記憶を一瞬忘れるような形。原始のパプアニューギニアで生まれたお面には、その力があると思った」
前回10年の「あいちトリエンナーレ」では、耳に「ラブ」、口に「ち」の字をあしらったウサギをモチーフにしたような「LOVEちくん」を発表した。
「当時、ある人に『非美術の領域を美術に反転させる』と評してもらった。ただ、やりたかったのは『美術の領域を非美術に投げる』こと。あのころは経験不足でできなかったことを、オカザえもんで再挑戦したかった。非美術の領域で、どれだけ力強いものがつくれるかという実験です」
●「売れない作家」
自身を「売れない作家」と呼ぶ。作品は、サッカーボールを壁に突き刺したものや、テングのお面をデッサンしたものなど。04年に「第8回岡本太郎記念現代芸術大賞」の特別賞になった作品は、「前年に出品した作品の落選通知書」そのものなどをモチーフにした。タイトルは「選外」。
「今も展覧会には1日1人くらいしか来ない。大学を卒業してから、ずっと自動車部品工場とか警備員のアルバイト。自分の生活と作品が乖離(かいり)していることに悩み、創っては展示してという繰り返しです」
創作の原点には、高校時代に見た、建設中の高速道路の高架橋脚がある。
「でかいし、美しい。完成されてないから意味のない状態なのに、すごく励まされた。『何で生きてるんだ』って言われたときに答えられないけど、美しく存在していることは、見た人の励みになるんじゃないかと思った」
●「中には誰も…」
オカザえもんは人気になったが、岡崎市が少しでも元気になればと、市内で販売されるキャラクター商品などは著作権料をとっていない。
ところで、オカザえもんの中には誰が入っているのだろうか。
「誰も入ってません。手品師に手品の種をあかせと言っているようなもの。それが美術のおもしろいところですね」(北上田剛)
《斉と 公平太さん》
1972年生まれ。名古屋造形芸術大(現・名古屋造形大)卒。「病気になったり、地上げで住むところがなくなったりした」という2009年、インターネットの無料姓名判断で、本名の斎藤公平から改名した。