2013-12-13
■[ネット][歴史]こうして小林多喜二は再び殺される
最初に、治安維持法の犠牲になった著名人のひとり、小林多喜二の年譜から、その最期の説明を紹介しよう。
多喜二?:年譜 - 白樺文学館 多喜二ライブラリー [TAKIJI LIBRARY]*1
1933年 (昭和8年) 2月20日、正午すぎ、赤坂福吉町で連絡中、今村恒夫とともに築地署特高に逮捕され、同署で警視庁特高の拷問により午後7時45分殺さる。検察当局は死因を心臓まひと発表。解剖を妨害し、22日の通夜、23日の告別式参会者を総検挙した。
小林多喜二の遺体は、墨と紅ガラで染めあげられたかのような姿になっていたと伝えられている。
拘留中なので小林多喜二は獄死ではない主張する人がいるだろうか。起訴される前に死んだから治安維持法の犠牲者ではないという人がいるだろうか。
前回、大屋雄裕教授*2が治安維持法の逮捕者数と送検者数を間違えているのではないかと指摘した。
治安維持法の犠牲者数について、大屋教授が忘れているか気づいていないこと - 法華狼の日記
@takehiroohya: ちなみに文化評論1976年臨時増刊号(日本共産党)によると、治安維持法で逮捕されて取調べ中に拷問・私刑によって死亡したのは194人だとのこと。 RT @hatenaidcall: id:hokke-ookamiさんから言及がありました URL
@takehiroohya: 絶対的な数として少ないとか無視していいとか言う気はないけど、逮捕者ー起訴者=6万3千人と比べるとごく少数であり、やはりほとんどは起訴されず釈放されたとしか言えないだろう(その前に拷問されてる可能性はもちろんある)。またしても数字の否認か、という感じ。
そもそも7万人という数字は送検者数であって逮捕者数ではないはずなのだ。
むろん、虐殺された死者数を額面どおり受け取るのも危険である。
拷問で虐殺されたり獄死した人が194人、獄中で病死した人が1503人、逮捕された人は数十万人におよびます(治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟調べ)。
この指摘に対して、大屋教授がが反応していたのだが、なぜか私のエントリへリンクをはっていない。そしてエントリへきちんと答えられているところがひとつもない。
@takehiroohya: 獄死するには起訴・入獄が前提になるわけだが。あと「一連の治安法規も含めた」。治安維持法の一番ヤバかったところとか、わかってないんだろうな。うんざり。 RT @JapanNewsFeeds 治安維持法の犠牲者数について、大屋教授が忘れているか気づいていないこと - 法華狼の日記
まず、「獄死するには起訴・入獄が前提になる」といわれても、何に対する反論のつもりかわからない。私自身が死者についてふれた文章は「虐殺された死者数を額面どおり受け取るのも危険である」であって、そもそも獄死に限定すらしてはいない。タイトルで明記したように、私は「犠牲者数」というもっと広い範囲を想定してエントリを書いた。「獄中で病死した人」も犠牲者にふくまれるだろうと主張したが、もちろん起訴された人数より少ないので、大屋教授の指摘は何の反論にもならない。
次に、「一連の治安法規も含めた」という部分にこだわられても、日本共産党は逮捕者数が数十万人を超えるという見解をとっている。冒頭で再掲したページに書かれてあることだが、エントリを最後まで読んでいなかったのだろうか。それに「一連の治安法規も含めた」という文章を重視するならば、同じページに書かれた「治安維持法の運用では、明治期制定の警察犯処罰令など、一連の治安法規も一体的に利用し現場では令状なしの捜索や取り調べ中の拷問・虐待が日常的に横行しました」という見解もふまえるべきだろう。
そして「治安維持法の一番ヤバかったところとか、わかってないんだろうな」と具体性のないことをいわれても意味がない。そもそも数字にふれていない私のエントリ*3に対して「またしても数字の否認か、という感じ」などとツイートしたのは大屋教授自身だった。その数字の話題に応じて私はエントリを書いたのに、「うんざり」と嘆息されるのは身勝手すぎる。
大屋教授は@flurry氏の質問に対して連続ツイートで回答しているのだが、私に対するツイートとの整合性が感じられない。
@takehiroohya: @flurry 1 こちらから。大正刑事訴訟法では司法警察権を検事が独占していましたから、検事の指示により警察が逮捕するので司法警察手続において「送検」の前後を区別する意義は本来ありません。私のtweetの「逮捕」はこの意味で使っています。
2013-12-13 21:39:44 via Janetter to @flurry
@takehiroohya: @flurry 2 治安維持法などで逮捕者数十万人というときの「逮捕」は、検事の請求により予審判事が勾引状を発給したものではなく事実上「つかまえた」ということをおそらく意味しています。ところでその根拠は行政警察権を濫用した場合も完全に違法だったこともあるようです。
2013-12-13 21:40:02 via Janetter to @flurry
@takehiroohya: @flurry 3 とにかく捕まえたという意味での「逮捕者」に対する割合は、法の逸脱・濫用による事例が多く母数が判然としないのですが、送検率25%・起訴率10%という見積りはありました。しかしこれは「送検者」7万・起訴7千という数字とは合致しません。
2013-12-13 21:40:21 via Janetter to @flurry
冒頭で再引用したツイートを見てのとおり、大屋教授は取調べ中に拷問死した194人について「逮捕されて」とツイートしていた。それでも資料の表現に不注意でひきずられただけというなら、つづいて「逮捕者ー起訴者=6万3千人と比べるとごく少数であり」と比較しているのはどう説明するのだろうか。
@takehiroohya: @flurry 5 こちら。法華狼氏は治安維持法について「虐殺された死者数を額面どおり受け取るのも危険」と書いていますが、死者は逮捕―起訴間か起訴―入獄期間に発生しているはずであるところ、前者は194人との推計であり、後者は起訴者7000人に含まれているはずです。
2013-12-13 21:41:01 via Janetter to @flurry
根拠と意図がよくわからない。私が紹介した獄中病死者が起訴中のものと、いったいどういう理屈で判断したのだろうか。
@takehiroohya: @flurry 6 逮捕―起訴間の死者は当然ながら起訴者(7000)に含まれていませんが、彼らが治安維持法の犠牲者であることに疑いはないでしょう。しかしそれを除いた6万数千人が同法で処罰されていないという状況は、その死者を数えても変わらないということです。
2013-12-13 21:41:24 via Janetter to @flurry
@takehiroohya: @flurry 7 なお上記の死者数についてはソースにより「つかまった」以降すべてを数えているように読めるものもあり、その場合には治安維持法自体による死者の数はより小さくなる可能性があります(それにしても相当の数だということを否定する趣旨ではありません)。
2013-12-13 21:42:11 via Janetter to @flurry
当時でも最終的に釈放せざるをえないような人々を多く逮捕した問題を、釈放したから数字としては小さいなどと主張するのであれば、それは転倒した論理だ。それとも大屋教授は、どれほど痛めつけられたとしても、殺されずに釈放されれば犠牲者に数えられないというのだろうか。
つい先日、12月5日にネルソン・マンデラ元大統領が亡くなられた。国家反逆罪で長期間の投獄をされるも、アパルトヘイト撤廃に先立って釈放された。釈放されたことが、反アパルトヘイト運動が弾圧されたことを否認する根拠になるとでもいうのだろうか。
@takehiroohya: @flurry 4 いずれにせよ司法警察手続の前に警察につかまり、あるいは違法に拷問を受け、説諭などの処理で解放された人数が相当数いることは間違いないでしょう。ただしその根拠は治安維持法ではなく、同法(だけ)にその責を帰すことは正しくありません。
2013-12-13 21:40:41 via Janetter to @flurry
@takehiroohya: @flurry 8 もちろんこれは治安維持法が悪法ではなかったとか戦前の制度に問題がなかったと言っているわけではなく、大きな問題は行政権の一般的濫用であって一つの法律だけを重視するのは適切でないと理解すべきです。
2013-12-13 21:42:39 via Janetter to @flurry
@takehiroohya: @flurry 9 別の言い方をすると、根拠法の問題とそれを駆使するシステムの問題は別であり、より重要なのは後者であり、それを無視して前者だけを論じることは不毛だ、ということになるでしょうか。
2013-12-13 21:43:04 via Janetter to @flurry
これが「治安維持法の一番ヤバかったところ」の意味だとすると、わざわざ大屋教授に教えてもらうまでもない。たぶん義務教育でも習いそうな範囲の話だ。運用も問題視されるべきだと考えるからこそ、起訴されていない数字も重視するべきと指摘しつづけた意味が、まだ理解できていなかったのか。
下記エントリで最初に批判したように、起訴された数字だけを語って「インパクトは社会内部で片寄っていた」と主張していたのは大屋教授であり、「国家権力の影響が起訴にとどまらない範囲へひろがることを想定せず」と批判したのが私だ。
もちろん治安維持法だけが問題だという主張をしたつもりもない。不毛な数字の話をつづけたのはいったい誰だというのか。
小林多喜二の『蟹工船』に、下記のようなくだりがある。
蟹工船は「工船」(工場船)であって、「航船」ではない。だから航海法は適用されなかった。二十年の間も繋(つな)ぎッ放しになって、沈没させることしかどうにもならないヨロヨロな「梅毒患者」のような船が、恥かしげもなく、上べだけの濃化粧(こいげしょう)をほどこされて、函館へ廻ってきた。日露戦争で、「名誉にも」ビッコにされ、魚のハラワタのように放って置かれた病院船や運送船が、幽霊よりも影のうすい姿を現わした。――少し蒸気を強くすると、パイプが破れて、吹いた。露国の監視船に追われて、スピードをかけると、(そんな時は何度もあった)船のどの部分もメリメリ鳴って、今にもその一つ、一つがバラバラに解(ほ)ぐれそうだった。中風患者のように身体をふるわした。
然し、それでも全くかまわない。何故(なぜ)なら、日本帝国のためどんなものでも立ち上るべき「秋(とき)」だったから。――それに、蟹工船は純然たる「工場」だった。然し工場法の適用もうけていない。それで、これ位都合のいい、勝手に出来るところはなかった。
利口な重役はこの仕事を「日本帝国のため」と結びつけてしまった。嘘(うそ)のような金が、そしてゴッソリ重役の懐(ふところ)に入ってくる。彼は然しそれをモット確実なものにするために「代議士」に出馬することを、自動車をドライヴしながら考えている。
かつて蟹工船は日本帝国そのものだった。そして残念ながら現代もたいして変わらないようだ。
*1:別の月や日についての記述を引用時に中略した。
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