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初めまして、初投稿ですが面白いと思ってもらえるよう頑張ります
『プロローグ』
【1】
 異界の門・最深部【THE NEW GATE】

 そこで二つの影が対峙していた。

 一つはモンスターの影。
 門を守るモンスター(ゲートキーパー)の名は【オリジン】
 VRMMORPG【THE NEW GATE】の最後にして、最強のモンスター。
 竜人型モンスターであり、人の体に竜の頭、羽、尾を足した姿をしている。
 全長およそ20m。その瞳は蒼穹のごとく蒼く染まり、額の角と全身を覆う鱗は金色に輝く。鍛え抜かれた武人のような体躯を覆うのはこれまた金色の鎧。その手に持った装飾の一切ない槍も金色。
 ともすれば醜悪ともとられかねないカラーリングだが、その体躯と圧倒的な威圧感から神々しさを感じることはあれど、嫌悪を抱くことはない。
 神獣と言っても過言ではない、まさに最強の名を持つにふさわしいモンスターといえる。

 もう一つは人の影。
 男の名は【シン】 本名:桐谷進也(きりたにしんや)
 VRMMORPG【THE NEW GATE】の中でも最古参にしてトップクラスの戦闘能力を持つプレイヤーの一人。
 身長は180cmを少し超える程度。どちらかというとすらりとした体格をしている。
 黒髪黒眼。端整とも醜悪ともいえない凡庸な顔からはオリジンを前にしているにもかかわらず緊張している様子は微塵も感じられない。
 首には黒い生地に赤いラインがジグザグに入った薄いマフラー。着ているのは同じく赤いラインの入った黒いロングコートとズボン。腕と足には深紅の手甲と具足を装備しているが、それ以外は防具らしい防具をつけていない。
 武器は右手に持っている黒い刀のみ。柄も鍔も刀身も黒い刀だが刃の部分のみ紅玉を摺り込んだように薄っすらと紅く煌めいている。

 シンが一歩を踏み出す。それに応じてオリジンも武器を構えた。
 手足以外は防具らしい防具をつけていないシンに対して、オリジンは全身鎧に槍と完全武装。はたから見れば無謀極まりない光景だ。オリジンの槍の一振りでシンが肉塊になる未来しか想像できない。

 シンがさらに一歩踏み出したところで、オリジンが槍による一撃を放った。その巨体からは想像もできない速度で繰り出される一撃は槍の大きさと相まって壁が迫ってきたようにも見えた。
 槍の一撃が石畳の床を穿つ。槍の突き刺さった場所は石畳が吹き飛んだだけでなく、下の地面まで大きく抉っていた。

 しかし、そこにシンの姿はない。

 シンはオリジンの足元にいた。
 攻撃の一瞬前、補助系武芸スキル【心眼】によって攻撃位置を予測し、さらに移動系武芸スキル【縮地】によって高速移動したのだ。

 自身の姿を見失ったオリジンの右足めがけ、シンは刀術系武芸スキル【弧月閃】を発動させる。
 スキルの発動とともに刀の刃にあたる部分が紅く輝きだす。刀の切れ味と攻撃速度がこの瞬間のみ1.5倍に増幅された刃を踏み込んだ勢いそのままに全力で叩きつけた。

「シッ!」

 気合一閃。
 鮮やかな紅い軌跡を残し、刃はオリジンの右足を覆っていた具足を両断した。
 斬撃はそのまま右足の半ば近くまでを断ち切り、流れ出した鮮血が金色の鱗を赤く染める。
 オリジンのHPゲージが1/50ほど減少する。最強モンスターに一撃で与えるダメージとしては驚くほど多い。


「■■■■■■■■■■■■■■――ッ!!」


 足を襲った痛みにオリジンが悲鳴を上げる。
 金属を擦り合わせたような甲高い声が部屋全体に響く。【心眼】による攻撃予測に即座に反応し、シンはその場から素早くかつ大きく飛び退いた。限界まで強化された脚力がシンの体を残像が残るほどの速度で移動させる。

 シンが移動した直後、残像を押しつぶすように槍の石突きが叩きつけられる。先ほどよりも威力は弱かったのだろう、砕けた石畳はさっきより少ない。それでも尋常な威力ではないことは言うまでもないことだが。

「速い。さすがラスボス」

 恐るべき槍の威力を見てもなお、感心するだけの余裕を見せるシン。最後の門の守り手(ゲートキーパー)、相手にとって不足なしと一層気合を込める。

 余裕のあるシンだが、それは決して油断ではない。

 視界の端にうつるHPゲージがなくなれば自分は死ぬ。それを理解してなお、シンはここへやってきた。

 デスゲームと化した【THE NEW GATE】をクリアするためにシンは今ここにいる。

 ともに戦う戦友はいなかったが、支えてくれた人はいた。
 シンが身に纏う装備のほとんどは自前で、もらったアイテムもボス戦では効果がないようなものばかりだったが、それでも自分にできるすべてだと仲間たちから託された。

 家族に会いたいと泣いた少女がいた。兄を失って途方に暮れていた少年がいた。負けてたまるかと逆境に挑む男がいた。困っている人を助けようと走り回っていた女がいた。
 誰もかれもが足掻いて、諦めて、挑んで、消えて、そして戦っていた。

 囚われた期間は一年。長いのか短いのか、シンにはわからない。

 今、シンの胸中を満たす言葉は一つ。

 『勝つ』

 ただそれのみ。

 オリジンを倒し、自分を支え、背中を押してくれた人たちをゲームから開放する。

 なればこそ、

「その首、俺が貰い受ける!!」

 こちらを睨むオリジンに向かって、シンは再度刀を構えた。


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