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第四章【魔法ギルド編】
魔法ギルド 2

「それでは今日もお願いしますね!」

 翌日。
 朝日の差し込む、魔法ギルドの研究室に俺はいた。
 ラヴァ、そして助手達も同じくそろっている。
 クインシーは俺達がいる研究室の中央付近を通り越し、窓側で適当なイスに腰掛け、中庭を眺めている。

 そう言えばクインシーは昨日、室内に入ってこなかった。
 後でルークに聞いた所、彼は魔法ギルド中を見て回っていたらしい。

「今日は、ギルドや魔法ギルドの方にも実験に参加して頂きます」

 そう言われて、俺はまわりを見たが、昨日いたメンバー以外はこの部屋にはいない。俺の言いたい事が伝わったらしい。
 ラヴァはひとつ頷いて、まあ座ってと言った。

「昨日のデータを簡単にまとめてみました。 聞きたい事がいくつかあるの」

 ラヴァがうきうきした顔で続ける。

「それが終わったら、大部屋に場所を移して実験です」

なるほど。

「まずは、上から"体力"の項目ね。 これって、増えたり減ったりするものなの?」

「えっと、魔力もそうなんですけど。 この数値は、現在その人が持っている素質の最大値になります」

 ほうほうと、頷いて、ラヴァがメモを取る。

「その人が成長すれば数値は増えます。 体が衰えれば、数値は減ると思います。 そう言う意味での質問ならイエスです」

「私、もっと持続的なものだと思っていたの。 体力なり、魔力なり、使えば減って、それが反映されるものだとばかり……」

 確かに。
 俺も最初はそう思った。だがそこまで都合のいい仕様ではないらしい。
 生き物の体は、体力と魔力だけで現在の状態を測れるものではないのだろう。

「そうすれば、魔術の発動に掛かる魔力の数値も分かったかも! それだけで魔法ギルドにとってはすばらしい財産になったでしょうね」

 ラヴァが残念そうに言った。

「ギルドカードには反映されなかったので、昨日は後回しにしていたんですが……」

 俺は昨日は言えなかった事を切り出した。言うべきかどうか迷っていたのが正直なところだ。
 実は、ラヴァが言う反映型の残量を俺は見ることができる。簡単に言うと、ゲームなどでおなじみのHPバーみたいなものだ。
 このバーは、誰しも長さは一定である。この項目だけは、数値化されていない。ダメージを受けた時の減り方は様々のようだ。
 無くなれば当然、それは死を意味する。

「命の残量と言うべきでしょうか。 たいていの人は、一日眠ればバーの長さは元に戻ります」

「命の残量……」

 ラヴァは小さく呟いて、しばし沈黙した。
 しかしすぐに質問をぶつけてくる。考え込むのは後回しにしたらしい。

「戻らない場合って、何か心当たりはあるのかしら」

「分かりやすいのは怪我とかですね。毒とか、病とか、あとは呪いなんかも。 体にダメージが残っていれば、バーは完全に回復しません」

「当たり前の事だけれど、ダメージの受け方も固体差があるのよね。 ……魔術にかかる魔力やダメージを数値化するのは無理そうね」

 ラヴァから、他にもいくつか質問を受けたが、『命のバー』が、カードに反映されるようにするかは、ひとまず保留という事になった。
 俺が分かるのは、今見ている対象の常態だけである。一度ギルドカードにその常態を記録したところで、その後、ゲームのように自分の体力や魔力の残量を確認できる訳ではない。
常に対象の常態が反映されるような機能は付加できないだろう。

「次は、スキルの習得についてね。 これから何人もの記録を調べていけば、スキル習得の条件は分かってくると思うの」

「そうですね。 今はなんとなくの傾向しか、俺も分かっていません。 データを分析できれば、スキル習得への最短ルートが分かると思います」

 人々にとってスキルとは、何かを極めたときに、突然備わるというものだった。
 これからは、ある程度狙ってスキルを身に付ける事ができるようになるだろう。
 もちろん、個人差や、才能なんかは当たり前にあるものだが、今までのように、ただ漠然と鍛え続けて、結局習得できないという事にはならないだろう。

「それよ、最短ルート! あなたの持つ、アビリティースコアのスキルを習得できそうな人を探す。 もしくは育てる。 これは重要な事よ」

 ラヴァが力を込めて言った。
 これは先王陛下から言われた大事な任務のひとつのようだった。
 確かに、このスキルを使ったサービスが皆に王都に知れわたれば、たくさんの人間がギルドに押しかけるだろう。それは王都の人間だけに留まらず、いずれは他の街からも人がやってくるかもしれない。

 よく考えたら俺休めないんじゃないか?

「探しましょう。 全力で協力します」

 俺は力強く頷いた。俺と同じスキルの持ち主が現れれば、目立つ事もなくなる筈だ。
 それを見たラヴァは、安心したように、よかったと言った。
 なんでも、断られると思っていたらしい。

「あなたが協力的なのは分かっています。 でも、誰だって特殊なスキルは自分のものにしておきたいでしょう?」

 俺が戦士であったら、政治家や商人であったら、また違ったかもしれない。相手を知り、対策を練り、金儲けに走ろうと思えば、いくらでも使い道はあるんだろう。
 だが俺はそうじゃない。
 広くこのスキルを生かしたいのだ。ならば、独占する意味はない。

「とにかく今は、ノアさんがこれまでやってきた事がスキル習得の最短ルートだと仮定するわね」

 俺は小さく頷いた。
 これまでやってきた事をラヴァに話す。
 だがあまり参考にはならないかもしれない。
 俺は遺伝で鑑定士のスキルを持っていたし、勉強はハーフエルフのヴェロニカに付いて教わったのだ。
 それ以外で、このスキルに関係するような特別な事をした覚えは、俺には無い。
 もちろん精霊の話はできないし、同じ体験をするのは無理だろう。
 少しでも何かないかとラヴァや助手に聞かれ、魔術や剣術の話もしたが、 そちらの方面で俺が習得しているスキルはないので、目安にはならなかった。

「アビリティースコアを習得するのに、鑑定士関係の才能を伸ばさないといけないのだとしたら、やっぱり鑑定士を育てる事が一番の最短ルートなのかしら」

 結局俺達は、一番無難そうで、漠然とした答えに辿り着いた。

「ノアさんがこれまで出会った中で、一番レベルの高い鑑定士ってどなた?」

「……父です」

 父は、生きていた当時を含め、これまで会ってきた誰よりも商人として確かな目を持っていた。記憶の中で美化されている部分はあるかもしれない。
 しかし、数値は嘘は付かないだろう。

「えっと、エセックス辺境伯ではないわよね?」

「ああ、はい。 違います。 俺の本当の父です。 もう亡くなりましたが」

「……そう。 言いにくい事を聞いてしまったらごめんなさい。 実父様の事を詳しく教えてもらえるかしら」

 俺は大丈夫だと言うかわりにひとつ笑うと、手渡された紙に、父のステータスを覚えている限り書き出した。
 鑑定士のレベルは確か、四十五だった。

「これはこれまでの経験からですが、鑑定士のスキルを習得するには、最低でもレベルを二十まで育てる必要があるようです」

「候補を探す時の基準にしますね! 私のステータスを参考に、魔道士の上位職が錬金術士だとして、鑑定士の上位職が分かれば、それがスキル習得の鍵になりそうね」

 ラヴァは柔軟な考えで、とりあえずの答えを出した。
 いくつかの条件に当てはまる鑑定士を募集して、選別する事に決めて、この話は一旦終了させた。


 昼休憩を挟んで、俺は協力者がいる大部屋に移動した。
 午後はただひたすらステータスをギルドカードに焼付ける作業を行う。
 助手達が、俺の右側でデータを取る。
 その反対側にクインシーは座り、俺が作業するのじっと見つめていた。
 と、言っても目つきが大変悪いので、睨みつけられているようにしか感じない。
 最初こそ、妙な緊張感の名スキルを発動させていたが、そのうちそんな視線すら気にならなくなった。
 スキルを発動させるには、それなりに集中力が必要だし、こんな大勢のステータスを連続で見るのは初めてだったので、視線など気にしている場合では無くなったのだ。

「はい!お疲れ様でした! 今日はこの方で最後です」

 ラヴァのその一言に、俺はホッと溜息を吐いた。
 窓の外を見れば、いつの間にか西日が差している。気がつかない内に、時間が経っていたようだ。
 最後の一人を見終えると、集中力を使い果たしてへとへと俺に、ラヴァが笑顔で言った。

「明日も同じように作業をして頂きます。疲れたでしょうけど、ノアさんには慣れてもらわないといけないの。今日はゆっくり休んでね」

 優しい笑顔が憎いと思ったのは初めてだった。




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