魔法ギルドに向かう馬車の中で、俺はルークに騎士団の事を聞いていた。
アリスが屋敷に訪れた時は、あまり詳しい事は聞けなかったからだ。
ルークは、騎士団の皆は元気にしていると言った。スミス隊長は王城に引き取られて、そのままどうなったか分からないという。
分かっていれば、おじさんが教えてくれただろうから、俺は深く追求しなかった。
次に、マロースとハンスだが、調査の結果、マロースは白であるとされた。
俺を襲撃した犯人もスミス隊長と繋がりがあり、ハンスを尾行したという男の証言は無効になった。
しかし、ハンスはソルをはじめ、見習い騎士達に対する暴力が今回の事で明るみになり、騎士団から除籍処分になったそうだ。
魔法ギルドは、二の郭のギルド本部の近くにある。
俺はここに足を踏み入れた事が何度かあった。
一般開放された本を閲覧しに訪れたのだ。
だが、実際の研究棟に足を踏み入れたことはない。
茶色いレンガ造りの壁には、様々な紋様のかかれたタペストリーが飾ってある。
受付から案内された研究室に辿り着く。
ドアは開いたままになっていて、小さく人の声が聞こえてくる。
「失礼します」
俺が声をかけると、銅色の髪の女性がこちらを振り向いて笑った。
「お待ちしてました! あなたがノアさんですね?」
「はい。 本日はよろしくお願いします。 こちらはギルドのルークと、護衛のクインシーです」
研究室は、黒魔術的な雰囲気の暗さは無く、明るく開放的に見えた。
「私はラヴァといいます。 今回のチームの主任を勤めさせて頂きます」
ラヴァと名乗った女性が中心となって、ギルドカードの実験を行うらしい。
他にも、助手として十人程が研究室の中にいた。
「さあ、実験の準備は出来ています。 こちらへどうぞ」
ラヴァが赤いセミロングの髪を翻して、俺を研究室の中央へ促がした。
そこには、ギルドの窓口でよく使っている水晶と、イスが二つ用意されている。
「まずは、ノアさんにいくつか質問させて頂きます」
ラヴァと俺は、水晶を挟んでイスに座った。スキルについて聞かれ、俺はそれに淡々と答えていく。
ラヴァが質問役で、助手が俺の言葉を書き取る方式で質問は進められた。
「では、ノアさんには、相手の年齢、体力、魔力、魔力の属性、職業、特殊な能力、スキルなどが、分かったり、数値化されて見えるのですね?」
「大まかに言うとそうです。 年齢と言っても、種族レベルと言うのが正しいのかな。 人族/二十三と見えるとします。 すると、その人は二十三歳でした」
ただし、獣人の場合はこれに当てはまらない。成長速度の違いからか、年齢は二十を超えていても、種族レベルが七だった事がある。
老人で試した事もあまりない。もしかしたら、体は大人でも、中身は未熟な場合は年齢と直結しない場合がある。
「分かりました。ではカードに記載される際には、種族レベルと表記しましょう。 獣人や年配の方のレベルについては、追々データを取る形でよろしいですか?」
「はい、構いません。 よろしくお願いします」
次は、魔力の属性についてだ。
ラヴァはわくわくした顔で俺の話を聞いている。
「適正のある属性が光って見えるんです」
属性は火・風・土・水・雷・光・闇と七種類ある。
例えば火に適正があるとする。だからといって、他の属性が使えないわけではない。
「あくまで、適正のある属性が分かるだけです」
「ええでも。 そこに絞って能力を鍛えれば、他の属性より伸びが良いわけよね? それって、すごい事だわ」
ラヴァの言う通りである。俺もそうやって、アルブスでは助言をしていた。
「この職業って、どういう事かしら?」
「すいません。 他に言い方が思いつかなくて。 例えば、ソルと言う騎士見習いの場合、俺の目には、まず戦士と表示されます」
戦士にはレベルがある。更に細かく言うと、これまで経験を積んできたものによって、剣士や魔術師と言った適正のある職業が表示される。
このレベルが上がると、剣士から騎士と言った具合に、上級職へと上がっていくようだった。
「へええ。 後で助手も含め、私達のデータをとる予定でいたの。 結果がとっても楽しみだわ」
ラヴァも助手達も、キラキラとした顔でこちらを見てくる。なんだか眩しい。
「特殊な能力は、固体や種族によって様々です。 特に表示されない人も中にはいます」
「これもデータが必要ね。 これまで見た中では、どんなものがあったの?」
「例えば、幸運とか、器用・聡明・怪力とか。 大体は、先天的な才能です。 たまに、後天的に増える事もあるようです。 身に付けているものに左右される場合もあります。 マジックアイテムを装備している時などですね」
先天的な才能なのか、アイテムによって底上げされたものなのか、それを見分けるのは簡単ではない。しかし、俺は鑑定士のスキルでそれを補っていた。
ラヴァが、俺の説明にうんうんと頷いた。
「では、そろそろ実際に水晶を使ってカードに焼付けを行ってみましょうか!」
ラヴァが水晶の上に、ギルドカードを差し出す。俺はそれを受け取り、魔力を込めて、いつも窓口でやっていたように、ラヴァの情報を呼び出した。
ラヴァ・カルブンクルス
登録/アルビオン本部
ソロランク/C
パーティーランク/B
「では、スキルを発動させてみて下さい」
俺は頷き、ラヴァの目を見てスキルを発動させた。カードには以下のように焼付けられた。
人族/二六
体力/七五 魔力/一二〇
属性/土・火
錬金術士/四
特殊/陽気 スキル/灼熱
「ふわー! すごいわ! 本当に数値化されてる!」
カードを見たラヴァが、興奮してはしゃいでいる。
助手達も次々にカードを手に取り、内容を見たり、紙にデータを写したりしている。
俺はと言うと、情報がデータとしてちゃんと表示された事に、驚きつつもほっとした。
しかし、俺の見えているステータスとは、内容に若干の違いがある。ようやく成功の感動から落ち着いたラヴァに俺は言った。
「ちょっといいですか? この、職業の錬金術士ってところなんですけど」
「はいはい! どうしました?」
俺は実際に発動して見えたステータスと、カードに焼き付けられた情報に違いがあると言った。情報は間違ってはいないが、省略されているのだ。
「さっき説明してくれたわね。 う~ん。 具体的にはどういう感じなのかしら。 ちょっと書いてみてもらっていいですか?」
助手から紙とペンを受け取り、実際に見えた通りに書いていく。
「俺には、魔道士/四八(魔女/三二・学士/二〇・鍛冶士/八・錬金術士/四)と言うように見えています。 鍛冶士や魔女は、他に適正のある職業だと思います」
「本当に、なんでも見えちゃうのね。 確かに、鍛冶を教わっていた事があるわ。 でも、その経験も今は生かして、マジックアイテムを作る仕事をしているの」
ラヴァは、昔の事を思い出しているのか、優しい顔で笑った。
しかしすぐに、もとの好奇心旺盛な目に戻る。
「これはつまり、選択よね! カードには、本人が選択してきた結果、現在メインである職業が表示されているみたい。 これは改良の余地ありね!」
「そうですね。 この魔道士のレベル。 これが上がると、錬金術士のレベルも上がると思います」
「ふむ、私はまだまだ成長できるって事ね! 具体的には、もっと勉強しろって事かしら」
俺は苦笑した。彼女の魔道士のレベルは、相当高い。
それでも、魔女ではなく、鍛冶士でもなく、その経験を生かして錬金術の技を磨いてきたのだ。
「経験から言うと、だいたい十位レベルが上がると、スキルが身に付く事があるようです」
「今のメモったわね! どれくらいかかるか分からないけど、錬金術のレベルを上げて、必ずスキルをゲットよ!」
助手に確認をとりながら、ラヴァが鼻息荒く気合を入れた。
「じゃあ、次はこの子達も見てあげて下さいな。 記録を取るの、私も手伝います」
「分かりました」
ラヴァが席を立って、助手のひとりの背を押した。
俺はそれから、何人ものステータスの焼付けを行った。
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