ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第四章【魔法ギルド編】
魔法ギルド

 魔法ギルドに向かう馬車の中で、俺はルークに騎士団の事を聞いていた。
 アリスが屋敷に訪れた時は、あまり詳しい事は聞けなかったからだ。
 ルークは、騎士団の皆は元気にしていると言った。スミス隊長は王城に引き取られて、そのままどうなったか分からないという。
 分かっていれば、おじさんが教えてくれただろうから、俺は深く追求しなかった。
 次に、マロースとハンスだが、調査の結果、マロースは白であるとされた。
 俺を襲撃した犯人もスミス隊長と繋がりがあり、ハンスを尾行したという男の証言は無効になった。
 しかし、ハンスはソルをはじめ、見習い騎士達に対する暴力が今回の事で明るみになり、騎士団から除籍処分になったそうだ。



 魔法ギルドは、二の郭のギルド本部の近くにある。
 俺はここに足を踏み入れた事が何度かあった。
 一般開放された本を閲覧しに訪れたのだ。
 だが、実際の研究棟に足を踏み入れたことはない。
 茶色いレンガ造りの壁には、様々な紋様のかかれたタペストリーが飾ってある。
 受付から案内された研究室に辿り着く。
 ドアは開いたままになっていて、小さく人の声が聞こえてくる。

「失礼します」

 俺が声をかけると、銅色の髪の女性がこちらを振り向いて笑った。

「お待ちしてました! あなたがノアさんですね?」

「はい。 本日はよろしくお願いします。 こちらはギルドのルークと、護衛のクインシーです」

 研究室は、黒魔術的な雰囲気の暗さは無く、明るく開放的に見えた。

「私はラヴァといいます。 今回のチームの主任を勤めさせて頂きます」

 ラヴァと名乗った女性が中心となって、ギルドカードの実験を行うらしい。
 他にも、助手として十人程が研究室の中にいた。

「さあ、実験の準備は出来ています。 こちらへどうぞ」

 ラヴァが赤いセミロングの髪を翻して、俺を研究室の中央へ促がした。
 そこには、ギルドの窓口でよく使っている水晶と、イスが二つ用意されている。

「まずは、ノアさんにいくつか質問させて頂きます」

 ラヴァと俺は、水晶を挟んでイスに座った。スキルについて聞かれ、俺はそれに淡々と答えていく。
 ラヴァが質問役で、助手が俺の言葉を書き取る方式で質問は進められた。

「では、ノアさんには、相手の年齢、体力、魔力、魔力の属性、職業、特殊な能力、スキルなどが、分かったり、数値化されて見えるのですね?」

「大まかに言うとそうです。 年齢と言っても、種族レベルと言うのが正しいのかな。 人族/二十三と見えるとします。 すると、その人は二十三歳でした」

 ただし、獣人の場合はこれに当てはまらない。成長速度の違いからか、年齢は二十を超えていても、種族レベルが七だった事がある。
 老人で試した事もあまりない。もしかしたら、体は大人でも、中身は未熟な場合は年齢と直結しない場合がある。

「分かりました。ではカードに記載される際には、種族レベルと表記しましょう。 獣人や年配の方のレベルについては、追々データを取る形でよろしいですか?」

「はい、構いません。 よろしくお願いします」

 次は、魔力の属性についてだ。
 ラヴァはわくわくした顔で俺の話を聞いている。

「適正のある属性が光って見えるんです」

 属性は火・風・土・水・雷・光・闇と七種類ある。
 例えば火に適正があるとする。だからといって、他の属性が使えないわけではない。

「あくまで、適正のある属性が分かるだけです」

「ええでも。 そこに絞って能力を鍛えれば、他の属性より伸びが良いわけよね? それって、すごい事だわ」

 ラヴァの言う通りである。俺もそうやって、アルブスでは助言をしていた。

「この職業って、どういう事かしら?」

「すいません。 他に言い方が思いつかなくて。 例えば、ソルと言う騎士見習いの場合、俺の目には、まず戦士と表示されます」

 戦士にはレベルがある。更に細かく言うと、これまで経験を積んできたものによって、剣士や魔術師と言った適正のある職業が表示される。
 このレベルが上がると、剣士から騎士と言った具合に、上級職へと上がっていくようだった。

「へええ。 後で助手も含め、私達のデータをとる予定でいたの。 結果がとっても楽しみだわ」

 ラヴァも助手達も、キラキラとした顔でこちらを見てくる。なんだか眩しい。

「特殊な能力は、固体や種族によって様々です。 特に表示されない人も中にはいます」

「これもデータが必要ね。 これまで見た中では、どんなものがあったの?」

「例えば、幸運とか、器用・聡明・怪力とか。 大体は、先天的な才能です。 たまに、後天的に増える事もあるようです。 身に付けているものに左右される場合もあります。 マジックアイテムを装備している時などですね」

 先天的な才能なのか、アイテムによって底上げされたものなのか、それを見分けるのは簡単ではない。しかし、俺は鑑定士のスキルでそれを補っていた。
 ラヴァが、俺の説明にうんうんと頷いた。

「では、そろそろ実際に水晶を使ってカードに焼付けを行ってみましょうか!」


 ラヴァが水晶の上に、ギルドカードを差し出す。俺はそれを受け取り、魔力を込めて、いつも窓口でやっていたように、ラヴァの情報を呼び出した。

 ラヴァ・カルブンクルス
 登録/アルビオン本部
 ソロランク/C
 パーティーランク/B

「では、スキルを発動させてみて下さい」

 俺は頷き、ラヴァの目を見てスキルを発動させた。カードには以下のように焼付けられた。

 人族/二六
 体力/七五 魔力/一二〇
 属性/土・火
 錬金術士/四
 特殊/陽気 スキル/灼熱

「ふわー! すごいわ! 本当に数値化されてる!」

 カードを見たラヴァが、興奮してはしゃいでいる。
 助手達も次々にカードを手に取り、内容を見たり、紙にデータを写したりしている。
 俺はと言うと、情報がデータとしてちゃんと表示された事に、驚きつつもほっとした。
 しかし、俺の見えているステータスとは、内容に若干の違いがある。ようやく成功の感動から落ち着いたラヴァに俺は言った。

「ちょっといいですか? この、職業の錬金術士ってところなんですけど」

「はいはい! どうしました?」

 俺は実際に発動して見えたステータスと、カードに焼き付けられた情報に違いがあると言った。情報は間違ってはいないが、省略されているのだ。


「さっき説明してくれたわね。 う~ん。 具体的にはどういう感じなのかしら。 ちょっと書いてみてもらっていいですか?」

 助手から紙とペンを受け取り、実際に見えた通りに書いていく。

「俺には、魔道士/四八(魔女/三二・学士/二〇・鍛冶士/八・錬金術士/四)と言うように見えています。 鍛冶士や魔女は、他に適正のある職業だと思います」

「本当に、なんでも見えちゃうのね。 確かに、鍛冶を教わっていた事があるわ。 でも、その経験も今は生かして、マジックアイテムを作る仕事をしているの」

 ラヴァは、昔の事を思い出しているのか、優しい顔で笑った。
 しかしすぐに、もとの好奇心旺盛な目に戻る。

「これはつまり、選択よね! カードには、本人が選択してきた結果、現在メインである職業が表示されているみたい。 これは改良の余地ありね!」

「そうですね。 この魔道士のレベル。 これが上がると、錬金術士のレベルも上がると思います」

「ふむ、私はまだまだ成長できるって事ね! 具体的には、もっと勉強しろって事かしら」

 俺は苦笑した。彼女の魔道士のレベルは、相当高い。
 それでも、魔女ではなく、鍛冶士でもなく、その経験を生かして錬金術の技を磨いてきたのだ。

「経験から言うと、だいたい十位レベルが上がると、スキルが身に付く事があるようです」

「今のメモったわね! どれくらいかかるか分からないけど、錬金術のレベルを上げて、必ずスキルをゲットよ!」

 助手に確認をとりながら、ラヴァが鼻息荒く気合を入れた。

「じゃあ、次はこの子達も見てあげて下さいな。 記録を取るの、私も手伝います」

「分かりました」

 ラヴァが席を立って、助手のひとりの背を押した。
 俺はそれから、何人ものステータスの焼付けを行った。




+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。