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さくさく進めて、あと三話くらいで窓口の話まで持っていきます!

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第四章【魔法ギルド編】
護衛

 エセックスの屋敷に来て、一週間がたった。
 怪我した肩は、もうほとんど痛まない。少し引きつるような感覚を残しているだけで、以前と同じように動かせるまでに回復した。
 おじさんは長く領地を空けてはいられないので、今日の朝早くエセックスの城に向けて発った。クリスはしばらくここに残ると言っていたが、おじさんが反対した。
 最後に、また来ると言って、二人は帰って行った。
 今俺は、エセックスの屋敷で人を待っている。
 先王陛下が、身元の確かな者を護衛を付けてくれるそうだ。世間的には、おじさんが俺を心配して、護衛を雇ったと言う事になっている。
 なんだか身の回りが物々しくなって行くな。

「ノア様、護衛の方が到着されました」

「はい。 お通しして下さい」

 応接室にいた俺に、メイドが護衛の来訪を知らせる。
 ノックとほぼ同時に入ってきた男は、鋭い目つきをしていた。

「あんたが、ノア様?」

「は、はい。ノア・イグニスです。よろしくお願いします」

 長い銀の髪を垂らした男は、俺の側までやってくると、じっと俺を睨み付けた。
 いや、きっとこれは普通に見ているだけなんだ。目つきが鋭いせいで、睨まれているように見えるんだ。
 先王陛下が人選されたんだから、きっといい人なんだろう。そう思い込まなければ、この眼光の鋭さに耐えられない。
 怖い。街中で出会ってしまったら、絶対に目を合わさないように気をつけるタイプの人間だ。
 筋骨粒々ではないが、そのしなやかな動作はネコ科の動物を思わせる。

 ドサッと勢いよくソファに腰掛け足を組むと、男は言った。

「俺はセンオー様の命令であんたを護衛する、クインシー・キュー。 好きに呼べ。 それから、身を守る魔術も俺が教える事になっている。 何か質問は?」

 ギロリと見上げられ、その迫力に押される。このまま話すと俺が見下ろす形になる為、彼の向かい側のソファへ腰掛けた。
 魔術に関しては初耳だ。しかし、護衛も魔術の教師も同じ人に依頼した方が、確かに効率はいいな。

「では、クインシー先生とお呼びしてもよろしいですか?」

「馬鹿言え。 護衛対象に先生は無いだろ」

 好きに呼べって言ったくせに!

「では、普段はクインシーと呼ばせて頂きます。 魔術を教えて頂く時は、先生と呼ばせて下さい」

 この男、俺と同い年くらいの見た目であるが、身から発せられる迫力が普通じゃない。護衛をしてもらい、魔術も教えて貰うのだから、俺はこの人を信頼し、尊敬して行きたい。
 そんな関係、すぐに築けるものでは無いが、まずは形から入るのも大事だろう。

「それと、俺の事はノアと呼んで下さい。 護って頂くのはこちらですから」

 クインシーは、俺の言葉を聞いてクッと笑った。

「あんた、意外と頑固だな。 だが嫌いじゃない。 いいだろう、この依頼受けよう」

「え?」

 俺が不思議に思っていると、応接室の扉が開いて、ルークが入ってきた。

「はー、良かった良かった。 キューの旦那が引き受けてくれて。 まあ、俺はノアさんなら大丈夫だろうって信じてたけど!」

 やれやれと言った様子のルークは、俺の前に来ると、俺をじっと見た。その視線は肩の傷辺りをなぞって、俺の顔に戻ってくる。

「ごめんな、ノアさん。 あんたの事守れなかった」

「ルーク……」

「でも、次はきっと守るから。 キューの旦那がいれば百人力だしね」

 ルークも、先王陛下の命で、俺を助けてくれていた。
 俺の知らない所でも、きっと陰ながら守ってくれていたんだろう。
 それなのに、俺が怪我なんかしたから、責任を感じているのだ。

「俺、もっと気をつけるよ。 せめて、自分の身は自分で守れるようになりたい。 だから、クインシー先生、ルーク、これからもよろしくお願いします」

 俺がそう言うと、ルークにいつもの笑顔が戻る。
 やはり、ルークはこうでないと調子が狂う。

「よっしゃ!俺に出来る事なら任せてよ」

 クインシーもにやりと笑って言った。

「ああ、しっかり守ってやるよ」




「ところで、依頼がどうのって?」

 俺が疑問に思っていた事を聞くと、ルークが苦笑いで答えた。

「キューの旦那ってば、先王陛下に頼まれたって言うのに、今回の依頼ノアさん本人に会ってから受けるかどうか決めるって言ってたんだよ」

 この態度の大きさに加え、センオー陛下なんて敬う気ゼロの言い方。この男、お偉いさん方の前だからといって、身の振り方を改める気は無さそうに見える。
 先王陛下の依頼を断れる立場にいるならば、この人の地位は王国内で高いのだろうか。とてもそうは見えないが。

「ノアさん、よく普通に旦那と話せたね。 この目つきの悪さに、たいがいの人は萎縮しちゃうんだよな」

「うるせぇ。 これは生まれつきだ!」

 クインシーが吠えるように叫んだ。

「キューの旦那って、こんなに若く見えて、四十才越えてるんだよ。 本当、色んな意味で化け物だよね」

「勝手にべらべらとしゃべってんじゃねぇよ!」

 クインシーがルークのすねを蹴り飛ばそうとした。ルークはひらりと避ける。
 嘘だろう?
 そう言いたくなったが、声に出さないよう俺は耐えた。
 しかしエルフのように不老なのではないかと思うほど、クインシーの見た目は若々しかった。

「本当の事ですから。 お偉いさんに小僧とか言われて切れてたの、俺見ちゃったし」

「てめぇ」

 ルークの言い方だと、見た目で判断して、痛い目にあってきた人がたくさんいるんだろうな。
 クインシーが立ち上がろうとすると、ルークもさすがにこれ以上はまずいと思ったのか、はいはいと頷いた。
 本当に、クインシーって何者なんだろうか。後ろ盾は先王陛下だろうが、騎士には全く見えない。
 兵士と言うよりは、もっと荒くれ者の雰囲気。

「傭兵、か?」

「……お前、俺の事知ってんのか?」

 どうやら、当たりらしい。
 しかし、クインシーは、なにやら誤解しているのでは無いだろうか。
 先程とは違って、今度は確実に睨まれている気がする。

「いいえ。 しかし、騎士にも兵士にも見えなかったもので」

「ならば、ユース……センオーの言っていたスキルとやらを使ったのか」

 俺は慌てて首を振る。
 そうか、知られたくない事もこのスキルで分かってしまう。
 これまではスキルを使用しても、誰にも知られる事はなかった。これからは、こうして疑いの目を向けられる事があるんだろう。

「スキルは使っていません。 ただの推測ですよ」

「普通、ただの傭兵が、センオーの依頼を断れると思うか?」

 確かにそうだ。そこは全く考えていなかった。
 だが、クインシーの持つオーラが、荒っぽさと器用さを兼ね備えた、傭兵独特の雰囲気に似ていのだ。

「さっすがノアさん!見る目があるね!キューの旦那はね、」

「おい、おしゃべりはいい加減にやめろ」

 もういい。そう言ってクインシーが俺を睨むのをやめた。敵ではないと分かっていても、ひやりとする目だった。
 結局、どういう人物なのかはっきりした事は分からなかったが、ルークのおかげで、クインシーの事が少し知る事ができた。気がする。

「味方なら、これ程心強い人はいないから!ね?」

「ったく。 おい、魔法ギルドに行くんだろう。 そろそろ出るぞ」

 そうだった。
 俺はこれから魔法ギルドに行き、ギルドカードにステータスを焼き付ける実験を行う予定なのだ。
 エセックスの屋敷には、これでしばらく戻ってこないだろう。
 ここは一の郭で二の郭にあるギルドに毎日通うには向いていないし、おじさんもクリスもいないので、俺一人になる。
 俺は再び、二の郭にあるトリスタンの屋敷にお邪魔させてもらうのだ。
 ここ一週間の間お世話になった、執事やメイドにお礼を言って、俺はエセックスの屋敷を出た。

 


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