頑張って更新速度を上げたいです。
少し短めですが、このサブタイトルのお話はこれで終わりです。
少し前の事ですが、200万ユニークアクセス達成しました!
ありがとうございます!
「お前が昔から争い事を避けているのは、なんとなく感じていた。 だからギルド職員になったんだろう?」
俺が城から出て行く時、クリスは一言も反対しなかった。それは、どうでもいいと思っていたのではなくて、俺を理解していたからだったんだな。
「なのに、何故父上を庇って刺されたんだ」
いきなり話が飛躍した。
「ご令嬢、それでは自分の父が害されてもいいような口ぶりだが」
「そうだ。 ノア、お前が普通の生活を望んでいるのであれば、父上を見捨てるべきだった」
アリスが片眉を上げて真意を尋ねるが、クリスはあっさりと肯定した。
何を考えているんだ、実の父親を見捨てればよかったなんて。
「そんな、そんな事できない! クリスだって、あの場にいればそうしただろう?」
「私は父上の娘だ。 当然、そうする。 だが、お前はなんだ?」
クリスが突き放すように言った。
俺は、俺はただのギルド職員だ。孤児で、おじさんには好意で保護してもらっただけの。だが、クリスは俺の事を家族と言ってくれたのでは無かったのか。
「ノア。 犠牲もなく手に入る平和など、刹那の夢だ」
クリスは立ち上がり、窓の外を見ながら言った。その横顔は冷たく見える。
おじさんを助けなければ、俺はロトス帝国に出会う事は無かっただろう。俺のスキルについて知られていたとしても、直接皇女と俺が会わなければ、先王も白を切れたかもしれない。
俺は手を握り締めながら言った。
「おじさんを犠牲にすればよかったと言いたいのか」
「そうすれば、お前はただのギルド職員でいられた」
人間は無意識に自分を一番に考えてしまう生き物だと思う。しかし、家族と自分の幸せを天秤にかけて、そうして手に入れた平和の、なんて後味の悪い事か。
俺はそんな自分の在り方に耐えられないだろう。
立ち上がり、クリスに詰め寄る。
「俺は!おじさんを犠牲には出来ない。 そんな生き方は、したくない!」
「それがお前の本心か?」
「ああ」
こんなに大きな声を出したのは久しぶりかもしれない。
クリスの確認にも、俺は強く頷いた。
「そうか。 ……お前は甘いな、ノア」
甘い、か。
確かに。自分は巻き込まれたくない。それなのに犠牲も払いたくないとわがままを言っているんだ。二度目の人生だと言うのに、精神的に成長出来ていないな。
「だが、お前はそのままでいてくれ」
やっとこちらに向き直ったクリスが、儚く微笑んで言った。
「やっと、ノアの本心を聞けた気がするな。 そんな怖い顔もはじめて見た。 いや、真剣な顔か」
「え?」
言われて、自分の顔をぺたりと触った。そんな怖い顔をしていたのだろうか。
「ご令嬢はノアを試したのか」
「人聞きの悪い冒険者だな。 ノアが何を考えているのか知りたかっただけだ。 ちゃんと私達の事を家族だと思っているのか、とかな」
「確かに珍しいものを見た。笑顔以外の表情もできるんだな」
「そうだろう。 昔からこうだ。 ちょっかいを掛けても、苦笑いするばかり。 悪戯のし甲斐の無いやつだった」
「そう言えば、馬鹿な貴族に理不尽なめにあわされた時も、ノアは曖昧に笑っていたな」
それは、マロースと木刀で打ち合った時の事だろうか。馬鹿貴族って、アリスがはっきり言いすぎなんだと思うが。
「困っても、悲しい時も、笑ったまま眉を下げるだけだ。 そんな顔しているから、いいように周りに使われるんだ」
「器用だな。 いや、不器用と言うべきか。 ご令嬢が心配してここまで来たのも分かる気がするよ」
「なんだ、話の分かる冒険者だな。 名前は何と言ったっけ?」
「アリスだよ、ご令嬢」
「アリス、ご令嬢はよせ。 クリスと呼んで構わない」
ちょっと、待ってくれ。なんで意気投合してるんだよ。
俺はクリスと真面目に話していたはずだ。それなのに、表情の話になってから、俺は置いてけぼりになっている。
最初とは打って変わって、女性陣はこの短い間にトントン拍子に仲良くなったようだ。
「クリス、俺にも分かるように説明してくれ」
俺は、座っていたソファに、沈み込みながら言った。
「なんだ。賢いノアにも分からない事があるんだな」
「本当にな。 例えば女心とかな」
アリスが茶化して言うと、クリスもそれに乗って、二人で笑い出した。
クリスは、俺がクリス達の事を家族と思っているか知りたかったと言った。
確かにこれまで、そういう話はした事がなかった。クリスに家族だと思われていないと、俺は今日まで勝手に思い込んでいた。
だが違った。
関係を曖昧にして家族の縁を遠のけていたのは俺の方だったのだ。
アリスが試したと言ったが、あれは俺に本音を言わせる為に、わざと厳しい事を言ったクリスの言葉を指しているんだよな。
そこまではいい。
甘いままでいろって、どういう事だろう。
その後の表情やら女心やらも全く分からない。俺は降参と手を上げて、クリス達に聞いた。
「言った通りだよ」
「後は自分で考えるんだな」
男にも負けない力強さと、女の美しさを兼ね備えた二人は、まるで姉妹のように息を合わせて言うのだった。
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