新しくアルフォンスの挿絵を、登場人物紹介にアップしました。おぎあつさん、ありがとうございます。
戦闘描写とか嫌いじゃないんですが、難しいですね。
「参りました」
アリスが肩で息をしながら、バルドに一礼した。
「いやぁ、久しぶりにヒヤリとしたよ。 強いな、君」
「あなたの剣はひと振りがとても重かった。 ただ速いだけの私とは比べ物にならない。 お相手ありがとうございました」
バルドが剣を肩で支え、マロース達がいる方を向いた。
「ハンス。 真剣を使って訓練なんて、何を考えてんだ?」
ハンスは未だに負けを認めたくないのか、顔を歪めて吐くように言った。
「スキルを使えば……! あんな女……!」
スキルや魔法を使っていないのは、アリスも同じである。
バルドが何か言う前に、マロースがハンスを冷たく見下ろして言った。
「騎士なら潔く負けを認めろ。 隊の恥晒しめ」
「……す、すいません、マロース隊長」
ハンスは慌てて姿勢を正したが、マロースはもうそちらを見ていなかった。
バルドは溜め息をついて、今度はマロースとスミスを交互に見て言った。
「お前達もだ。 なんで止めなかった」
「申し訳ありません!」
「フンッ。 本人同士の了解を得たので、問題無いと思いました」
マロースの悪びれない言葉に、いつも柔和な表情のスミス隊長が表情を引き吊らせた。
「そこの、」
マロースが、何故かこちらを向いた。視線が俺に集まり、嫌な汗が流れる。
「団長のご友人とやらは、訓練には参加しないのかい?」
「私は、ただのギルド職員なので……」
「ふぅん。 以前、そこの見習いに混じって木刀を振っているのを見たが。 僕の誘いには乗ってくれないのか?」
確かに、体を動かしたくてソル達に混じって木刀を振った事があった。
目的は体を鍛える為であって、剣技を磨くためでは無い。
だが、マロースにしたらそんな事は関係ないのだろう。
「ならば、私が相手に」
「アリス、いいから」
前に出ようとするアリスを止める。
せっかくバルドがアリスに勝って、騎士団の面目が保たれたのだ。マロースの実力は知らないが、仮にアリスが勝てば、ややこしい事になる。
「ノア君、やるのか?」
「まあ、せっかくの機会ですから」
上着を脱いだ俺に、バルドが声を掛けてきた。
俺はこれまで、見習い三人の注意を受けて、マロースとは単独で接触しないようにしていた。
あちらも、特に接触を図ってくる様な事は無かった。こうして直接話しをするのは初めての事である。
「武器は木刀でも構いませんか?」
「ああ、好きにするといい」
マロースは意外にも素直に木刀で試合する事を認めた。
バルドにも言ったが、せっかくの機会である。
マロースがどんな人間なのか、少しは分かるかもしれない。
少しばかり痛い思いをするのは我慢だ。
俺は木刀を正眼に構えた。
やる前から言うのも何だが、全く勝てる気がしないな。
マロースと目が合う。
俺はスキルで、マロースのステータスを読み取った。
「始め!」
バルドが合図して、試合が始まる。
間合いが詰まるのを嫌がる俺に、マロースが仕掛けて来る。
「どうした、掛かって来い!」
「うわっ」
マロースが右左に打ち込むのを避ける。
ナイジェルやトリスタンと比べれば、速くない。
マロースのステータスの印象は、魔術の素質が高いと言う事。
トリスタンより、身体の能力値は低かった。
先程から見ている限りだと、フランと同じ、アウロラ流だ。
「逃げてばかりじゃ、試合にならないぞ!」
マロースが俺の逃げ腰を笑いながら、どんどん打ち込んで来る。
マロースの攻撃を受け流しながら、あれ?と思う。あれ?俺でも受け流せている。
フランと手合わせして、体がアウロラ流の型が頭に入っているせいか?
マロースがただ油断して手加減しているせいかもしれない。
どっちにしろ長くは保たない。長くやればやる程、対人経験の浅い俺が不利になる。
マロースは幾つかの型を組み合わせ、最後に大きく突き放す技が好きなようだ。それを繰り出す為に、半歩後ろに下がる。
俺が反撃出来るとすれば、その時ぐらいだろう。
「……グッ」
「そろそろ終わりにしてやろう!」
避け損ねた木刀が逸れて太股を強く打った。めちゃくちゃ痛い!
しかし、よろめいている暇は無い。
マロースが後ろに半歩下がった。今だ!
よろつきかけた足を無理やり踏ん張って、強く前に踏み出した。
「シッ……!」
俺の繰り出した突きは、マロースの頬を掠めた。
マロースは驚愕の表情で、上体を仰け反らせている。
俺は手首を返して、体勢を元に戻そうとした。
その時振り上げた俺の木刀が、たまたまマロースの利き手に当たった。
木刀を取り落とす事は無かったが、マロースは白い肌を真っ赤にさせて怒りだした。
「お前ぇえ!」
力一杯振り下ろされた木刀を受け止めるが、うまく勢いが殺せず、俺は後ろに吹っ飛ばされた。
体勢を立て直す暇もなく、容赦無い打撃が連続して俺に襲い掛かる。
俺は、ほぼ膝立ちの状態で頭を守っていたが、ついに木刀を弾き飛ばされた。
「止め!」
鋭い声で、バルドが怒鳴る。
それでもマロースは無防備な俺に木刀を振りかざした。
バルドは、俺とマロースの間に体で割って入り、試合を止めた。
「マロース!」
バルドの太い声が耳朶を打つ。ハッとしたマロースは、それでも怒りに顔を紅潮させながら、尻餅を付いている俺を睨み付けていた。
「僕は認めないからな!」
そして、そう吐き捨てる様に言うと、速い足取りで兵舎へと去っていった。
慌てて取り巻き達もマロースを追いかける。
「認めないって、俺の負けだよな?」
地べたに座ったまま脱力している俺に、ソル達が駆け寄って来て言った。
「すごかったっス! マロース隊長に一撃入れるなんて!」
「ほんとほんと。 おい、大丈夫か?」
「今のは偶然だよ」
フランの手を取り、立ち上がる。
認めないって、あれを一撃入れたと認めないと言う意味か。
「怪我は大丈夫かい?」
スミス隊長がそう言って、足に触れた。
「まぐれでも何でも、一撃は一撃だ。 片付けはいいから、傷を冷やしてきな」
バルドがそう言い、訓練はお開きになった。
俺はソル達やアリスと共に、水場に移動した。
「完全に敵に回したな。 マロース達を」
「まぁ、いつかはこうなる気がしてたけどなー」
ジェラードが溜め息混じりに呟くと、フランが笑いながら言う。
「ソル達の忠告、無駄にしてしまって、ごめんな」
「よくも知らない部外者なのに、挑発に乗ってしまって申し訳ない」
俺とアリスが頭を下げると、ソルがぶんぶん頭を横に振った。
「いや! こちらこそ、巻き込んでしまってと言うか……」
「そうだな。 マロース隊が俺達にキツく当たるのは前からだし」
ソルが肩に触れる。
まさか、マロースにやられたのか?
視線で問う俺に、ソルは苦笑いで首を振った。
「やったのはハンスだけどな」
マロースは、徹底的な貴族主義者で、自分より格下の家には絶対に従わない人間らしい。
ソルは平民から、養子で貴族になった。
元から目を付けられていたが、騎士になると決まって、我慢がならなかったらしい。
見習い達は、騎士と共に街を見回りする時、ランダムに各隊に振り分けられる。
たまたまマロース達の隊に振り分けられたソルは、解散後にリンチにあったのだ。
後から別の隊に見回りに行っていたフランとジェラードが駆け付けて、なんとかその場はしのいだが、ソルは肩を痛めた。
「それ、他の隊長達は知ってるのか?」
「いいや。 直接やるのはマロースじゃなくて取り巻き達さ。 訴えた所でマロースが指示したっていう証拠は無い」
「けど……!」
俺は言葉を飲み込んだ。そんなの間違っている。
しかし、訴えた所でマロースが首謀者だと言う決定的な証拠は無いのだ。
嫌がらせは酷さを増し、我慢出来ない者は騎士団を去っていく。これまでもそうだったと、フランは言う。
「結局、辞めてしまったらそれまでだ。 実力がある者は上に行ける。 ソルみたいにな。もう少しの我慢だ」
ジェラードが言った。
ソルとフランは、新魔窟発見の時、前線で戦った。その実力が認められ、騎士になる事が決まっている。
「ごめん……ジェラード……」
「謝るな。 俺はいいんだ」
ジェラードは連絡係りとして二の郭門まで走り、その後は後方支援に回った。
彼の本当の得物は槍で、普段と同じようにただの見回りを装って現場に向かったので、剣しか持ち合わせていなかった。
無理をせず、ジェラードは自分の判断で下がった。言い換えれば、騎士になるチャンスを逃したのだ。
「全く味方がいない訳でもないさ。 スミス隊長なんかは色々配慮してくれるしな!」
フランは、この話は終わりだとばかりに、わざと明るく言った。
「とにかく、これまで以上に慎重に行動するべきだ。 ルークにも馬車の事故の事や、今日あった事を話しおいた方がいい」
「そうだな」
ジェラードに注意され、俺は頷いた。
単純にハンスやマロースの事をトリスタンに言った所で、問題は解決しないだろう。
フランが突然、思いついた!と声を上げた。
「なぁ、アリス。 しばらく王都にいるなら、ノアの護衛をしたらどうだ?」
「それは良い考えっス! アリスさん強いし!」
俺はその提案に驚いてアリスを見た。
「わかった。 そうしよう」
直ぐに頷くアリスに俺は頭を抱えた。
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