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以前からご指摘受けていました字下げや「…。」について、先日まとめて修正しました。
また誤字脱字等ありましたら、ご指摘下さい。

ちょっと短いんですが……次話早めにアップします。
第三章【騎士団編】
狂信者 1
 俺は仕事終わりに馬車に揺られ、騎士団の駐屯地に向かっていた。

「……あれ、まだ着いてないよな」

 急に馬車が止まった。

「トムさん、どうしたんですか?」

「ああ、商隊の荷物で道が塞がっていてね」

 トムさんは、シュテルン家専属の御者だ。いつも俺の送り迎えをしてくれている。
 俺は小窓から顔を出して、前方を確認した。
 荷物が横倒しになっていて、しばらく通れそうも無い。
 トムさんは、回り道する為に馬首を方向転換させようとしたが、すぐ後ろに別の馬車が詰めてきしまった。
 その時、馬が突然暴れ出した。

「どう、どう! こら、落ち着け!」

「うわ、わ、わ」

 荷台が激しく揺れ、俺は荷台の床にへばりついた。
 トムさんがなだめているが、馬は言う事をきかない。

「あ、君! 危ないから下がって!」

「大丈夫だ! よしよし、落ち着け!」

 聞いた事のある声が響き、しばらくして馬は落ち着きを取り戻した。俺は馬車を降りて、声の主を確認する。

「やっぱり、アリスさん!」

「ノアじゃないか。 大丈夫だったか?」

 俺は頷いた。
 なぜ彼女がここに?
 あの事件の後、とにかく一度実家に戻ると言っていたはずなのに。

「お知り合いの冒険者ですか? いや、助かりました」

 俺は馬車の中で何があったのか分からなかったので、トムさんが説明してくれた。
 足元に突然何かが転がって来て、馬は驚いてしまったようだ。
 トムさんが馬をなだめ様としていた所に、アリスさんが来て、あっという間に大人しくさせてしまったらしい。

「そうだったんですか。 アリスさん、ありがとうございました」

「馬の世話は昔からしていたから、大した事じゃない。 それよりノア、私の事はアリスと呼んでくれ」

「はい、分かりました」

「かしこまった話し方も止めてくれないか? 私の方こそ、君に返しきれない恩がある」

 あれは俺だけの力で解決した訳ではないし、最終的に頑張ったのは彼女である。そう伝えたが、アリスの言い分は変わらなかった。
 結構頑固だよな。

「これが転がって来たみたいだ」

 アリスが馬の足元から拾い上げたのは、商隊の積み荷の一部のようだった。

「先程積み荷が崩れた時、私もすぐ側にいたんだ。 危うく下敷きになる所だった」

 危ないな。
 きっと持ち前の反射神経で回避したに違いない。無事で何よりだ。
 しかし、何で突然荷物が転がって来たんだ?
 荷物を取りに来た商人の部下が、申し訳なさそうに頭を下げた。
 商品を放り投げたりはしない。しかし、確かに自分達の荷物であるし、道を塞いでしまった事も重ねて申し訳ないと謝られた。
 アリスさんが事故に巻き込まれかけた後、商人から話を聞いたそうだが、詳しい事は分からなかった。
 積み荷を縛る紐は、強度や緩みを何度も確認しているはずなのだが、と本人達も首を傾げていたと言う。

「悪い人達では無いみたいなんだけどなぁ」

「ああ。 その時も、とても丁寧に謝ってもらったよ」


 特に怪我人はいなかったようだ。
 俺はアリスに、何となく王都にいる理由を聞いてみた。

「実は、旅費を盗られてな。 一文無しになったんだ」

「盗られたって、一体どうして?」

 アリスは旅の準備を整え、門に向かっていた。
 彼女は道端に倒れ込んだ少女に気をとられ、手持ちの荷物を地面に置いて介抱に向かったらしい。
 その隙に荷物を足の速い少年に盗まれたと話した。

「その倒れていた少女もグルだったよ。 追いかける気にならなくて、諦めたんだ」

 幸い、ギルドカードや必要最低限大事な物は身に付けていたらしいが、現金化していた旅費や消耗品を失ったそうだ。
 何というか、運が悪い。
 弟を亡くしたり、詐欺にあったり、旅費を盗まれて帰れなくなったり。

「人が善いと言うか、不運と言うか……」

 苦笑いした俺に、少し恥ずかしそうな、諦めたような顔でアリスさんは言った。

「昔からよく言われる」


 そうこう話している内に、とりあえず積み荷は道の脇に寄せられ、馬車が通れる道が出来た。

「あれ、ノアじゃん!」

「ノアさん、こんにちはっス!」
 後ろから声を掛けてきたのは、いつもの見習い三人組だった。見回りからの帰りらしい。
 彼らがいるなら、歩いて駐屯地まで向かおう。アリスも騎士団を見学してみたいと言う。
 俺はトムさんに、先に行って下さいと頼んだ。
 フランが早速アリスに声を掛けている。と言うか、挨拶もそこそこに肩に手を回して、叩き落とされた。

「馴れ馴れしい」

「何だよ堅い野郎だな。 ノアの友達なら俺の友達だろ?」

「フラン、アリスは女性だ!」

 そう言うと、フランだけで無く、他の二人も驚いていた。
 確かに顔は中性的だし、旅装束で体のラインは見えないが。
 一度知ると女性にしか見えないので忘れそうになるが、半年の間誰にも女性である事を悟られなかったのだ。パッと見た感じだけだと、彼女は男性の冒険者に見える様だ。
 謝り倒すフランと、気にするなと言うアリスを連れて、俺達は駐屯地に向かって歩き出した。
2013/06/15 修正


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