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前回は騎士団ばっかりで息苦しいとのご感想を頂いたので、今回は女性キャラ多めです。
キリがいいので投稿。
最後の方がダイジェストみたいなので、後日談含めてもっと書きたい。
第三章【騎士団編】
閃光のアリス

「それで、お兄さまも団員を率いて向かわれたのね」

 イズーが目を輝かせてこちらを見ている。
 新魔窟発見から数日がたっていた。
 イズーと話す機会があったので、どんな話が聞きたいか尋ねると、彼女は「お兄さまについてお願いします」と言った。
 俺がトリスタンに出会って日が浅いと知っていて、それでも、と。

 俺はトリスタンが騎士団で普段どんな風に過ごしているか話した。
 それだけでも喜んでいたが、新魔窟発見の時彼の指揮について話すと、更に嬉しそうにした。
 頬を染めて、手をぎゅっと握り締めている。
 猫耳は編み込まれた髪の毛に隠されて見えないが、ピンと立っているに違いない。

 当日、トリスタンは魔窟に到着すると、現場の指揮を一旦副団長のバルドに任せ、自分は周辺住民の避難を優先させたそうだ。
 そしてある程度周辺が落ち着いた後現場に向かい、これまで前線で戦っていた者と自分が率いて来た団員を交代させてた。
 そして魔導師が護衛を伴って城から到着すると、ひたすら補助に徹したらしい。
 こんな事態は初めて体験するだろうに、見事な指揮だと思う。

 ちょうど話終わった頃に、ノックの音が聞こえた。

「イズー」

 トリスタンご本人の登場である。
 何を話していたか聞かれたので、俺とイズーは二人で顔を見合わせた。

「「秘密」」

 思わずハモった俺達に、トリスタンが眉間に皺を寄せた。
 最近これが怒っているしぐさでは無いと分かった俺は、再びイズーと顔を合わせくすりと笑いあった。



 午前中は窓口前に立ち利用者の案内、午後は書類整理と言うのが俺の仕事の流れになっている。
 窓口のお姉さんやおばさま方とも言葉を交わす機会が増えた。
 案内係りの役割は、利用者に軽く話を聴いて、相談に乗ったり、窓口に案内したりする事だ。
 窓口の列を整理したりもする。

「……少しいいか」

「はい!」

 ちょうど列の整理が終わった所で、後ろから声を掛けられた。
 返事をして振り返ると、細身の男が立っていた。

「ついこの間、魔窟が新しく発見されたらしいが、そこはもう潜れるのか?」

「いいえ、まだです。 入口の魔法陣が安定するまで、しばらく様子を見ると国から言われておりますので」

「……そうか」

 男は少し考え込み、再び口を開いた。

「ならば、短期で割の良いクエストは無いか?少し金に困っているのだ」

「では、ギルドカードを拝見させてもらってもよろしいですか?」

「……ああ、構わない」

 何だか不思議な雰囲気の人だな。とりあえず、レベルと名前を確認させてもらおう。
 ふと窓口を見ると、お姉さん方がチラチラこっちを見ている。正しくは、この男の顔を見ている、だな。
 差し出されたギルドカードを受け取る時に、さり気なくスキルを発動させて男のステータスを見る。

「あれ……?あなた、おん」

 そこまで言った俺は、目の前の人にガバッと口を押さえられた。

「人に聞かれたくない相談があるんだ。 この案内係りをしばらくお借りしても?」

 目がハートになっている窓口のお姉さん方は、誰も反対せずに手を振っている。どうぞ、どうぞって。
 そのまま、ズルズルと引きずられて、人気の少ない廊下まで来た。

「何故分かった」

「ええと、アナタがおん、ああはい! もう口に出しません!」

 だから手で鼻も口も一緒に押さえるのは止めてほしい。この人は細身で長身で力が強くて、とても格好いいが、女性なのだ。ギルドカードに焼き付けられた情報には、性別男と登録されている。これは身分を偽装している事になる。

「今ギルドカードが無くなると困るんだ。 しばらくの間でいい。 見逃してくれないか」

 そう言われても、知ってしまった以上放置は出来ない。
 そのまま本当に困っているらしい、この人からギルドカードを奪うのもな。

「ギルドカードは一時的にお預り致します。 後程、事情をお聞かせ下さいますか」

 俺は持っていたギルドカードを懐にしまった。
 もしこの場で無理に取り返そうと暴れれば、この人が女だと言う事がギルドにおおやけになるだろう。
 悔しそうな顔をして、彼女は手を引いた。

「もし本当にお困りならば、手伝える事があるかもしれません」

 睨む様な目付きが、少しだけ緩んだ。俺は間髪入れずに、しっかりと釘を刺した。

「しかし、偽装の件はいずれ本部長に報告します。 それは覚悟して下さい」

「……ああ、分かっている」

 しっかりと芯の通った目でこちらを見て、彼女は頷いた。


 彼女と仕事終わりに会う約束をして、窓口前に戻ると、ちょうど手の空いたらしいお姉さん方三人に囲まれた。

「ねぇ、何の話してたの? あの人って閃光のニコルでしょう?」

「本当に格好いいわよね! スラッとしてて、顔もキレイだし!」

「ねー! 口調も粗野な所が無くて優しいし。 私この間、荷物代わりに運んでもらっちゃったの!」

 きゃーきゃーわーわー。
 女性の会話は、話題の移り変わりが激しくて付いて行けない。しかしある程度は耳に入れておく。
 彼女達とこれから上手く付き合って行く為には、こう言う輪に入る事も大事なんだと思う。多分。

「それで、どんな子がタイプとか聞いた?」

「キャー!アンナったら大胆。 ね、私達の事何か話してなかった?」

 やっと話が戻って来たと思ったんだが、残念ながらお姉さん方を喜ばせる答えを俺は持っていなかった。

「ええと、新しい魔窟について何か情報は無いかと聞かれていました。 ほら、俺、メンシス騎士団の人に知り合いがいるから」

「えー、残念。 ねぇ、今度彼が来たら、私の所にすぐ案内してね」

「ずるーい! 私も上級者向けの窓口係になりたい!」

「あ、そうだ、騎士団の人を今度紹介してよ!」

 お姉さん方の嵐のようなお喋りは、本部長が廊下を通りかかるまで続いた。気配を察知したお姉さん方は、サッと解散して行った。
 俺は何とか曖昧に誤魔化しつつ、その嵐を乗り切ったが、なんだか凄く疲れた。


 午後になって、ルークが資料室にやって来ると、俺は閃光のニコルについて知っている事がないか聞いてみた。

「ああ! 知ってる、知ってる!」

 何でも、ここ半年くらいで突然強くなったらしい。
 ギルドのお姉さん方に人気な事から、ルークも知ったそうだ。
 半年前に何があったのか気になって独自に調べようとしたが、ニコルがよく組んでいるパーティーメンバーのガードが堅くて、結局諦めたそうだ。

「特に何かした訳でもない、証拠が無いなら、こっちが訴えられちゃうしね」

 でも、とルークが続ける。

「そのパーティー、結構評判が悪いんだ。 ずっと尻尾を出さないかって、情報課でもマークしてる」

 パーティーランクはB。Aランクでは無いものの、パーティーを組んでからそれなりに長いグループらしい。
 通り名はトランプ。メンバーはニコルを入れて十人程度。元からあまり素行のよくない集団だったようだが、ここ半年、酷さが増しているそうだ。
 突然金の羽振りが良くなり、酒場を荒らして騒いだり、街中で喧嘩を始めたり。

「いきなり羽振りがよくなるって、魔窟でレアアイテムを掘り当てたとかか? 素行が悪いってのも、それならよくある事だろ?」

「そう思って情報課でも金の流れを調査したみたい。 でもギルドを通していないから、詳しい事は分からなかった。」

 トランプは手に入れたアイテムを独自のルートで捌いているらしい。

「なあ、その尻尾、掴んでみたくないか?」

「お? 悪い顔してるねー、ノアさん。 是非とも教えて貰えますか?」

 俺は懐からニコルのギルドカードを取り出した。
 まずは、彼女に事情を聞いてからだ。


「こちらはルーク。 ギルドの情報課の人間です。 彼にも色々手伝ってもらいますので、一緒に同行させます」

「情報課の人間と一緒にいられる所を見られるとまずい」

「変装してきて正解だね。 大丈夫、今の俺は情報課のルークに見えないから」

 フードで顔を隠したまま、ニコルが周囲を警戒している。
 ルークは普段のチャラさや派手さはどこへ行ったのか、全く違う雰囲気である。
 いつも流している髪をキッチリ結い上げ、メガネを掛けて服装を変えただけなのだが、本当に別人に見えるのだ。

「詐欺師になれるよ、ルーク」

「そりゃあ、元詐欺師ですから。 あ、今の内緒でお願いします」

 冗談か本当か分からない事を言いながら、ルークがウインクを飛ばした。今の見た目には全く似合わない仕草だ。
 俺達の後からニコルがゆっくり付いてくる。そのままソル達とよく行く酒場の二階に上がらせてもらった。
 ソル達には更に後から付いて来てもらい、一階で飲み食いしながら見張りをしてもらっている。

「さて、ここなら人目を気にせず話せます。 アナタは一体誰なんですか?」

 俺の問いに、彼女はチラリと窓の外を見た。そしてゆっくりとフードを外して語り出した。

「私の名前はアリス・ルルー。 ニコルの双子の姉だ」

 姉弟は、名前の通り田舎のルルーと言う村の出身である。
 二人は冒険者であった父に鍛えられ、森に囲まれた村で自給自足の生活をしつつ、時に自警団として働いていたそうだ。
 弟のニコルは、剣士としてあまり強くなかった。それでも、今は亡き父に憧れて冒険者になるのが夢で、村を出て王都に来たらしい。

「私は反対したんだ。 そんなに甘い世界じゃない。 私に勝つ事すら出来ないのに、冒険者なんてやっていける筈が無いと」

 王都に来たニコルは、トランプのパーティーと知り合い、冒険者として勉強をさせて貰っていたらしい。

「手紙には、心配するなと書いてあった。 それが一年前の話だ」

 しばらくするとトランプのリーダーから家族宛に手紙が届いた。王都に来るようにとだけ書かれていたそうだ。

「私は足の悪い母の変わりに、王都へ急いだ。 そして、トランプのリーダーに、ニコルが死んだと聞かされた」

 リーダーは、ニコルは借金を作って死んでしまったとアリスに言った。
 ある時、ニコルはソロで商人の護衛をする依頼を受けた。森に差し掛かった時、モンスターの襲撃を受けた。
 ニコルは商人を護衛するどころか、護衛対象を置いて逃げたらしい。
 商人は命辛々街に逃げ帰ったが、商品や売上全て森へ置いてきてしまった。
 逃げたニコルをトランプのメンバーが探した所、後日森で血溜まりと所持品だけが見つかった。
 きっとモンスターに襲われ、遺体は食われたのだろうと言う話になった。
 商人は、面倒を見ていたトランプのリーダーに借金の肩代わりをさせたらしい。

「とても私や村で弁償できる金額では無かった。自給自足の生活が精一杯の様な村だ」

 リーダーはアリスに、ニコルに成りすまして働くように言った。

「なんで、成りすましたのさー。 そんくらい、アリスさんも違法だって分かっていたんでしょ?」

「パーティーランクかな。 最初から始めるより、トランプと一緒にランクの高い依頼を受けた方が報酬もいい」

「リーダーもそう言っていた。 最初は、自分達もニコルが死んで悲しい。 しかし借金を肩代わりしたせいで、金が無いと言われて、私もそうしなければ、急がなければと思い込んでしまったのだ」

 幸か不幸か、アリスには冒険者としての才能があった。
 顔も瓜二つ、周囲も誰もアリスが女だと気が付かなかったので、順調に金を稼いで行った。

「しかし、ある程度私が一人で戦える様になると、リーダーは依頼を受けなくなった」

 もうそろそろ最初に提示された金額に達するだろうとアリスがリーダーに尋ねると、経費や利子があるから、まだまだ足りないと言われた。
 リーダーが金に困っている様に見えないので、もう少し待ってくれと言うと、恩を忘れたのかと怒鳴られたと言う。

「すぐに払えないと言うのならトランプのメンバーを連れて村に向かってもいい。 足りない分は体でも売るかと言うのだ」

 アリスはとうとう、顔を伏せてしまった。
 俺とルークは頷きあって、この人を助けようと決めた。

「ニコルの受けた護衛の依頼を詳しく調べよう」

「アリスさん、その商人の名前は何てーの?」

「レヴィと言う名だ」

「レヴィ。 トランプがアイテムを流している商人と同じ名前だ」

 大分胡散臭いな。

「ルーク」

「任せて!」

 その日はそこで解散した。アリスには、もしトランプのメンバーが接触してきてたら、金はもうすぐ用意できそうだと言って誤魔化すよう伝えた。


 次の日、ニコルが受けた依頼について資料室で調べると、リーダーが言ったのは全くの嘘である事が分かった。ニコルがソロで受けたのでは無く、トランプがパーティーで受けた依頼だったのだ。
 これは俺のただの憶測だが、トランプの連中はニコルを囮に逃げたのでは無いか。

「ノアさん! 分かった! トランプと商人はグルだよ!」

 やはりか。アリスは嵌められたのだ。
 リーダーはニコルからアリスの話を聞いていたのだろう。依頼は事故かもしれないが、アリスが使えると考えたリーダーと商人に利用されたのだ。
 俺達は本部長に事の次第を報告、アリスの保護を願い出た。
 本部長は願いを受け入れ、トランプについて本格的な調査が行われた。
 トランプは商人と組んで、ギルドの不利益になる事から、犯罪行為まで、色々とやらかしていたのが分かった。
 ギルドは調査内容を国に報告。アリスは自ら囮となって、トランプを問い詰め、役人が潜む前で様々な悪行を自白させた。

 アリスは本当の自分を取り戻した。
 これまでトランプに払った金は返ってこないだろうが、アリスの眼は輝きを失っていなかった。

「これで少しは、ニコルも報われるだろう」

 ギルドの窓口の前に、俺とアリスはいた。彼女は女性らしい服を着て、凛と立っていた。とても美しかった。

「弟さんのギルドカードは破棄させて頂きます」

「構わない。 ノアには感謝している。 もうそのギルドカードは、私には必要無い」

 一度破棄されたギルドカードは、よっぽどの事が無い限り再発行されない。

「これは、アリスさんのギルドカードです」

「え?」

「新たに発行しました。 本部長もご存知です」

 今回、アリスは脅されていたのだ。知らずにトランプに資金を渡していたとは言え、彼女自身は何も悪い事はしていない。
 と言うのは建て前で、アリスのソロランクAの才能を失うのは惜しい。それがギルドの判断である。

「勿論、ランクは初期からです。 依頼を受けるのも、受けないのも、アナタの自由です」

 俺が手渡したギルドカードをアリスがぐっと握った。

「ありがとう。 本当に、ありがとう」

 アリスの頬に、一滴の涙が流れた。

2013/04/23 修正


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