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お待たせしました~
こんなに書き始め迷ったの初めてです。

若干寄り道して二点程、短編書いてました。
「小さい悪魔」「小さい勇者」の読切短編です。
本編とは全然関係ないのですが、お暇な時にでも読んで頂けたら嬉しいです。
第三章【騎士団編】
異変
 王都のギルドで働き始めてから、七日。まだまだ研修期間という感じである。
 アルブスと違い、持ち寄られる依頼の数は桁違いに多い。窓口の人間が、書類整理をする時間は殆ど無い。
 俺は裏方に置かれ、ひたすら書類整理をこなした。
 基本的な事は、情報処理が専門のルークに教えて貰った。
 情報課は何でもやるんだなとルークに言うと、彼は何でもないように答えた。

「ま、いるもんでどうにか頑張ってんのよ」

 以前は窓口の人間と、事務員を雇ってどうにか回していたらしい。
 その事務員が年齢を理由に辞めてしまってからは、彼も手伝う様になったそうだ。

 今日も次から次へと、書類の山が窓口裏の資料室に運び込まれてくる。俺は手早く内容を確認して、大まかに分けられた書類を更に細かく分別していった。
 クラス別に分けられた依頼を見て、緊急性や重要度を見分けたり、本部長に指示を仰ぐものを取り除いたりする。
 最初は傾向が分からなかったが、今はルークに聞いた話と、資料室に残っている過去の事例を見て判断を下している。
 今の所、本部長からは何も言われていないので、大きな判断ミスは無いと思うが。

「こんにちは! 今日も頑張ってんね」

 ルークが大きな声と眩しい笑顔で資料室に突入して来た。
 ルークは三の郭と二の郭を行ったり来たりして、ギルドの本部と支部の情報の共有を行っている。

「ルーク、丁度いい所に」

「どーした?」

 俺は何枚かの依頼書をルークに渡した。

「ちょっと調べてもらいたい事があるんだ」

 その書類の束は、三の郭のある一部の地域から依頼されたここ何日かのものだ。
 クラスも内容も様々で、一見何の関係も無いように見えるが、俺はそう思わなかった。

「ここ何日かで、依頼の数がやけに増えていると思わないか?」

「確かに、少し多いね。 でも、たまたまって言う可能性は?」

 ルークの言う通り、そう思って過去の資料を見返してみた。すると、ある一定の間だけ特にに依頼の数が増える時期がある事に気が付いたのだ。
 簡単にまとめたグラフをルークに渡す。ルークの顔色が変わった。

「だいたい百日周期で依頼の数が増え始める。 そして十日ぐらいで治まっている」

「この表、すごく見やすいな」

 ルークは俺がまとめたグラフを見つめて頷いている。
 真剣になってくれたと思ったんだが、違うのか?今注目して欲しいのはそこじゃないんだが。
 俺が呆れた顔をしていると、それに気付いたルークが笑って言った。

「分かった、分かった! ちょっと調べてみる」

 三の郭に届ける書類を抱えたルークが、資料室を出て行くのを見送った俺は、少し不安に思いながら元の作業に戻った。

 次の日、昨日と同じようなテンションの高さで、ルークが資料室に訪れた。

「やっほー! 今日もやってるね!」

「待ってたよ、ルーク」

 昨日あれから、ルークは三の郭へ行き、地域住民に聞き込みをして回ったらしい。
 そして、幾つかの共通点を見付けて来た。

「すごいっしょ? 俺ってば出来る男!」

 確かに、俺には無い行動力だ。そう褒め称え、俺はルークに礼を言った。

「あーうん」

 正直に感心したら、ルークが静かになった。自画自賛しておいて、なんでお前が照れるんだ。言われ慣れてないとか何とか、そんな見た目とキャラで嘘だろう?
 不思議に思った俺に、ルークが苦笑いで言った。

「情報課は影の仕事が多いからねー。 結構嫌われてる部分もあるのよ」

 情報課の人間は、スパイのような仕事もする。表立ってその功績が認められる事はほぼ無い。そう言う事らしい。
 何時までも進まない空気を断つ為に、軽くせき払いをする。戻ったルークに、共通点を教えてくれと俺は言った。

「あいよ!」

 いつもの笑顔に戻ったルークが、報告する。
 聞き込みを行った結果、依頼するまでも無い事柄も含めて、地域一帯で不思議な事が多発しているらしい。
 幾つかの例を上げると、異音が聞こえる、ペットがいなくなる、物が無くなると言った危険性の低いものから、獣の声を聞いた、子供がいなくなった、突然地面が沈んで怪我人が出たなど、様々である。

 やはり何か異変が起きているのは間違いないようだ。
 俺の見せた依頼書から、ある程度目星を付けていたルークは、もっと限定して異変の中心を絞り込んだ。

 俺はその地域の地図を用意して、ルークが指し示した場所に赤い印を付ける。
 依頼書や、ルークの聞き込みを元に、異変が起きている場所にも印を付けた。
 ルークが指した場所を中心に異変が広がっているのが分かった。
 俺は更に、前の周期時に異変があった場所を青い点で印を付けてみた。

「あれ? 前回と中心地が違うねー」

「ああ。 この異変は移動しているらしい」

 前の異変の時の依頼内容は、失せものが中心だった。今回は、分かっているだけでも、子供がいなくなったり、怪我人が出たりと危険性が増している様な気がする。
 しかし、あと何日かすれば、調査しても何も分からなくなるだろう。

「俺、本部長に報告してみるよ!」

「頼んだ。 俺はもう少し、過去に同じような事が無かったか調べてみる」

 本部長からは、具体的な指示を貰えなかった。
 冒険者や学者を雇って、ギルドが調査依頼するのには国の許可が必要だそうだ。許可が降りても、人選に時間がかかるので、今回の異変は終わってしまっているだろう。
 ならば、地域の安全を守る為に騎士団に動いて貰うのはどうだろうか。
 そう提案してみたが、名誉ある騎士に、そんなあやふやで噂話のような調査をさせる訳にはいかないと言われた。

 トリスタンに直接頼むのはダメだ。ギルドから依頼も無いのに、騎士団を私兵の様に動かしては、彼が非難される。

 そろそろ終業時間だ。
 書類整理を任されてから、終業後も過去の資料を見る為に残っていた。
 俺とルークは、資料室で頭を悩ませていたが、いい案は出ないまま夜になった。

「今日はソル達と夕飯を食べる約束をしているんだ。 ルークも来るか?」

「よっしゃ! 行く行く!」

 少し外に出た方がいい。
 ずっとここに籠もっていても、気が焦るだけだ。
 俺はギルドを出た所で待ち合わせていたソル達三人組に、手を振る。

「お待たせ!」

「大丈夫っす。 そちらは?」

 ソル達にルークをギルドの仲間で世話になっていると紹介する。後は酒場に移動しながら、お互いに話した。
 誰とでもすぐに打ち解ける事ができるのは、立派な能力だと思う。ルークとフランはすでに意気投合して、肩を組み合いながら飲んでいた。

「なあ、メンシス騎士団は、三の郭の見回りもするのかい?」

「あん?やるやる。 正式な騎士団メンバーは、二の郭。 俺達見習いが三の郭な」

 ルークの質問に、フランが答える。

「まあ、治安維持と言いつつ、スリでも捕まえて手柄にしたいだけだけどなぁ」

「朝と夜の見回りが基本っすけど」

「昼間にいるのは、非番で暇してる奴らだ」

 上からフラン、ソル、最後はジェラードが言った。
 ルークはこちらを見て、パチンとウインクを飛ばした。
 うん?

「あ……。 そういう事か」

「ノアさん、どうしたんすか?」

 見習いの騎士が、自発的な見回りの途中で、異変の原因を発見すれば、どうだろう?
 彼らが応援を呼べば、騎士団も動けるし、国も調査せざるを得なくなる。
 何も無ければ、本当にただの偶然だとしても、誰も困らない。ただ、本当に何かあった場合、ソル達が危険ではないだろうか。

「少し、気になる事があるんだ」

 俺は慎重に言葉を選んで、ソル達に三の郭で起きている異変について話した。

「その辺はよく行くな。 結構ゴチャゴチャと入り組んでるよ」

「ああ、鍛冶職人が多い地域だな。 昔鉄が取れた名残みたいだ。地下は穴だらけだよ」

 なる程。確かルークの聞き込みの内容に、地面が崩れたとか、井戸水が濁ったとか言うのがあったな。
 子供が行方不明になったのも、地下の入り組んだ道に迷い込んでしまったのかもしれない。
 そういう土地だから、と言う理由で説明が付いてしまうのか。
 だから本部長も動かないのかもしれない。
 しかし、ルークはその土地柄を知ってなお、調べる価値があると言う。

「ノアの言う百日周期は、偶然じゃなくて本当だと思うんだよね、俺」

 ルークは、ソル達が明日非番だと言う事を知ると、異変の中心地を教えた。
 俺はトリスタンに話を通しておくから、もし何か見付けたら、逸らずに応援を呼ぶようにソル達に何度も念を押した。

 次の日、俺はメンシス騎士団の駐屯地にいた。
 今日は久しぶりの休日だが、ソル達が気になるので駐屯地にいる事にした。
 トリスタンには、全て話してある。
 無駄足になるかもしれない事を分かった上で、トリスタンは協力すると言ってくれた。
 何かあった時に、駐屯地まで応援を呼びにくるのは遠いので、副団長のバルドが少人数の団員を引き連れて二の郭の門付近に見回りに行ってくれている。

 兵舎の二階から、演習を眺めていると、ブレスレットが熱くなった。
 三の郭で何かあったのか。
 俺はしばらくそこにいたが、じっとしていられず兵舎を出た。その時、俺の目の前を馬が走り抜けた。
 そのまま演習場に乗り込むと、斥候の団員はトリスタンの方へ叫んだ。

「団長! 応援要請です!」

 トリスタンの行動は早かった。
 城に使者を飛ばし、自分は団員を率いて三の郭に向かった。
 帰ってきた時、トリスタン達は泥にまみれていた。
 重厚なマントも、輝く鎧も鈍く汚れていたが、彼らの表情は明るかった。

「ソル!」

 帰って来た団員の中にソルの顔を見付けた。

「ノアさん! 俺、俺、やったっス!」

「え?」

 酷く興奮した様子で、ソルが俺の手を取った。顔に少し擦り傷があるが、泥で本当の所は分からない。

「何をやったって?」

「スキルを習得したっス! それで、それで、俺、騎士になれるかもしれないって!」

 何があったのか分からないが、ソルはスキルを習得できたらしい。興奮しっぱなしのソルの後ろから、ルークが現れて、何があったか教えてくれた。
 異変の正体は、魔窟だった。それも、まだ発見されていない、新しい魔窟だ。
 魔窟がどうして出来るのか、解明されていない。ただ、今も新しい魔窟が発見される事はある。
 今回の魔窟は、昔の地下坑道と接触して、入り口が開いたり閉じたりを繰り返していた。
それがちょうど、百日周期だったのだ。
 坑道は出口が沢山あるので、異変の中心地がずれていたのだ。
 異変の中心地を見回っていたソル達は、封鎖が緩んだ坑道の出口を覗き込んだ。その時魔窟から現れたモンスターに遭遇し、戦闘になった。
 ジェラードが二の郭に走り、応援を呼んでいる間、ソルとフランは、坑道から溢れ始めたモンスターを抑える為必死に頑張った。
 ソルは応援が来るまでに、スキル「乱舞」を習得した。

 魔窟は、この世界では観光の名所の様な扱いだ。
 魔窟から持ち出された戦利品は、街を潤す。
 それを発見したソル達、被害を出さずに押さえた騎士団には、国から褒賞が与えられる事だろう。
 トリスタンが城に飛ばした使者から事情を知り、魔術師が派遣された。
 急いで駆け付けた魔術師は、特殊な魔法陣を敷いて魔窟の出入り口を安定させたそうだ。

 結果的に騎士団の役に立てて良かったが、こんな大事になるとは思っていなかった。
 トリスタンと目が合う。彼は、微かに笑っていた。初めて見る笑顔だった。

2013/04/23 修正


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