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エイプリールフールで驚かせてしまって、すいませんでした。
読めなかった方、興味ある方は、2013/04/02の活動報告にSS載せましたので、どうぞご覧下さい。
第三章【騎士団編】
到着
 紋章が掲げてある大きなゲートを馬車がくぐり抜け、俺たちは王都へ入った。
 しばらく進むと、立派な城壁が見え始める。
 商人達と違って、ほとんど並ばず、難なく入門を果たした。
 騎士団は、一応荷台のチェックと、人数の確認くらいでほぼ顔パスだ。
 俺もギルド職員なので、ギルドカードを門の兵士にチェックしてもらえれば、すぐに入門の許可が出た。

 ここはまだ三の郭である。
 王都は、城を中心として外に広がった造りをしている。

 昔は、城と城壁のみの小さな都市だった。
 それが時が経つにつれ、どんどん規模が大きくなり、外へ外へ広がっていったのだ。
 中心に向かえば向かう程、富み栄えた豊かな生活がある。

 三の郭はそこまで派手さは無いものの、市民の生活の場である。
 城で働く労働者も、三の郭に家があるのが普通である。
 城下で生まれた者の大半は、外の世界を知らずに、この箱庭の中だけで生きて、一生を終えていくのだと言う。

 再び城壁にぶち当たる。
 ニの郭に入る為、再び入門チェックを受ける。
 二の郭に入った瞬間、少しだけ空気が変わった気がした。
 すぐにその違和感は無くなった。王都には、古い結界が張り巡らされているらしい。もしかしたら、そのひとつが城壁にあるのかもしれない。

 実際、変わったのは空気だけでは無い。
 そこを歩く人々にも、三の郭とは違った雰囲気だ。
 身に付けている物のグレードが格段に上がっている。人を連れて歩く者も多い。大商人や、貴族なのだろう。
 二の郭からは、遠くに城を臨める。
 高い塔が連なり、とても荘厳で、堅実そうな外見をしている。
 メンシス騎士団の駐屯地は、二の郭内にある。
 兵舎に着き、馬車から降りると、遠征には来なかった他の騎士達が迎えてくれた。
 俺じゃなくて、トリスタン達をだけれど。
 俺はトリスタンが仕事をこなしているのをぼんやり眺めて待っていた。

 俺の働く事になっているギルド本部は、二の郭にある。
 宿舎は三の郭にあり、皆そちらから通っているそうだ。と言うのも、王都には本部と支部があり、支部は三の郭にあるからだ。
 俺も三の郭から通うものと思っていたのだが、トリスタンと話し合った結果、二の郭にあるトリスタンの屋敷に住まわせてもらう事となった。先王とそう言う話もしたのかもしれない。
 通勤の便利さや、治安の良さなんかは格段に上がる。
 騎士団の事も相談しやすいしな。
 監視しやすい。好意的に言えば守りやすいのだろうし、特に不満は無い。

 騎士団内の報告が終わった様だ。
 副団長が解散を告げる。
 俺はこちらを向いたトリスタンに向かって声を掛けた。

「トリスタン、お疲れさん」

「ああ。 今から屋敷に案内しよう」

 そう言えば、エセックスの城を出る時に、友達らしく名前を呼ぶように言われたのだ。
 確かにそういう設定だから、親しく見える様にしないとな。
 何だかお迎え組の騎士達がこちらを見てざわざわしているが、どうかしたのだろうか。

「俺、何か変な事言ったか?」

「ワハハ、そりゃあ団長の事を呼び捨てにするやつは中々いないからなぁ」

 豪快に笑ってみせたのは、副団長のバルドだ。
 一言で言うと熊っぽい。筋骨隆々、縦にも横にもデカい。これぞ戦士という見た目をしている。
 トリスタンだって、綺麗な顔に似合わず男らしい体型をしているのに、バルドと並ぶと普通に見えるのだから、本当に凄い。
 そんな二人の隣に並ぶと自分が大変貧相に感じる。仕方のない事ではあるが。
 バルドの家はシュテルン家に代々仕えているらしい。

「やっぱりまずいですか?」

「何、その内皆慣れる」

 トリスタンが事も無げに言う。それにバルドも頷く。

「遠征組はもう耐性がついた。 お前さんも、伯爵の縁者なら誰も文句は言わんさ」

「なら、いいんですけど……うわっ」

「気にするな、団長と仲良くしてやってくれ!」

 バルドは俺の肩をバンバン叩く。ちょっと、グラグラするんでやめて下さい。
 チラリと騎士達の様子を窺う。
 派手な顔した目立つ男を中心に、何人かの集団がこちらを見ていたが、目が合うことは無かった。

 今度はトリスタンを迎る馬車に同乗させてもらい、彼の屋敷へと向かう。
 シュテルン家の屋敷は、二の郭でも一等地にある。
 公爵家の領地は別にあるので、ここはシュテルン家が王都に登る時に利用する、別宅のひとつらしい。

「お屋敷には、シュテルン家の方がいらっしゃるのでは?俺がいきなりお邪魔して大丈夫なのでしょうか」

「構わない。 今は私しか住んでいない様なものだ」

 どういう意味だろう。
 屋敷を管理する使用人や、身の回りの世話をする使用人が何人かいる、としかトリスタンは話してくれなかった。

「着いたら話す。 言葉が元に戻っているぞ」

「はぁ。 分かったよ」

 トリスタンは口数が少ない上に、表情筋が死滅しているんじゃないかと言うくらい顔色が変わらない。
 他人の前で無くとも、友人でいろと言う意味だろうか?
 付き合いが短い俺には、まだ何を考えているか全く分からないな。

 屋敷の敷地に入っても玄関まで馬車で進む。
 本当に貴族の屋敷って凄いよな。

「お帰りなさいませ」

 執事、と思われるお爺さん、メイド服を着た女性三人が、ピシリと整列してトリスタンを迎える。
 頷くだけで、トリスタンは何も言わない。
 貴族って、こんなものなのだろうか。
 トリスタンは、執事に俺を紹介して、しばらくここに住む事、俺を世話する様に言い付けてくれた。
 執事は特に質問する事も無く、畏まりました、と一礼した。

 エセックスの城はおじさんの性格もあって、実用的で華美さは無かったから、貴族の屋敷は物珍しい。
 古いが清潔に磨かれた調度品の数々が、下品にならない程度に配置されている。
 スキルは使わないでおこう。何か触る度にびくびくしそうだ。

 俺は今、リビングと思われる広い部屋でソファに腰掛け、ひと息付いている。
 絵画なんかも自由に見てよいそうだが、あまり歩き回る気にもならない。
 メイドのいれてくれたお茶を飲み、慣れない雰囲気にビビる気分を落ち着かせようとしている。
 トリスタンは、自室に着替えに行った。
 何時までも甲冑姿ではいられないだろうしな。
 夜になり、若干冷えてきた暖炉に火がくべられる。
 石造りの屋敷は、年中冷えるので、暖炉が必ずある。
 揺れる火を見つめ、お茶のお代わりを飲んでいると、部屋着になったトリスタンが入ってきた。

「寒くないか」

「平気。 暖炉も良いものだね」

 トリスタンは小さく頷くと、俺の対面に腰掛けた。

「爺、あれの様子はどうだ」

「はい。 遠征にお出掛けの間、特に体調を崩される事もなく、健やかにお過ごしでした。」

「そうか」

 あれ、とは誰だろうか。
 この屋敷に住んでいる人だよな?

「ノア。 この屋敷には、私の妹が住んでいる」

「そうなのか。 挨拶はした方がいいよな?」

 そう言うと、側に控えていたメイドが顔色を変えた。

「そうだな。 妹は体が弱い。 体調の良いときに、会ってくれ」

「そうか、分かった。 風邪をうつしたりしないよう気を付けるよ」

 体が弱いのか。ならば心配だな。
 小さな油断が命取りになる。俺の母がそうだったように。
 トリスタンしか住んでいないようなものと言うのは、シュテルン家はもしかしたら、彼女を世間から隔離しているのかもしれない。
 メイドが動揺したから、そんな所だと思うが。
 トリスタンは、シュテルン家から見放された妹の面倒を見ているのだろうか。

「優しいお兄さんだな」

「そうか?」

「そう思う。 何か出来る事があれば言ってくれ」

「そうか……。 そうしよう」


 俺達はそのまま、ぽつりぽつりと会話した。
 口数は少ないし無表情だか、ゆっくりなら会話は繋がる。

 大広間に移動した。
 静かに食事を済ませた後、果実酒を頂きながら、トリスタンは静かに語る。

「私は公爵家だから、団長を任されているのだ」

 団内の事情は知らないが、トリスタンが家名のみで団長になったとは思えない。
 指揮をとっているのを見ていたが、素晴らしいものだった。
 そう伝えると、トリスタンは立ち上がり、寝ると言って出て行ってしまった。

 知った風な口をきくな、と言う事だろうか。

「ノア様、トリスタン様はご機嫌を損ねられた訳ではございません」

 執事がそっと声を掛けてきた。この人はトリスタンが何を考えているのか、今の行動で読み取れるのか。

「そうなんですか?」

「はい。 今のは、そうですな。 照れ隠しでしょう」

 照れ隠し。
 顔は全く変わらなかったが、褒められて嬉しかったと言う事だろうか。
 何を考えているか分からないと思っていたが、意外と分かりやすいのか?
 その後は、メイドに寝室に案内してもらい、眠りについた。

2013/05/04 修正


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