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重い…すごく悩みました。

次は閑話を挟んで次章に入ります。
次が王国編でしたね。章の名前変更しますね。
何がいいかな。
第二章【転換期編】
生きる意味
 衝撃で固まったままの俺を置き去りに、ユース様は言う。

「君はギルド職員として王都で冒険者や傭兵を育てつつ、騎士団にも顔を出してもらう」

 俺は王都のギルドに移り、これまで通り、窓口で働く。
 そして騎士団とも交流し、彼らを伸ばす手伝いをすると言う事か。
 ユース様が言うには、王都の支部には、協力者を用意するそうだ。
 もし他国に気取られても、国が俺の身柄を保護してくれるそうだ。
 反対に考えれば、監視付きの生活という事だが。
 そして騎士団だが、まず始めにメンシス騎士団で成果を上げてみせよと言われた。
 団長はシュテルン公爵家の跡取りらしい。
 国の為と、団長には話が付いているそうだ。
 俺は団長の友人として、彼の相談に乗る。スキルを使ってアドバイスをしろと言う事だ。

「シュテルン団長とは、君はもう会っている筈だ」

「早朝、中庭で話していただろう」

 トリスタン!
 彼が団長だったのか。
 ならば、俺は彼に試されていたのだろうか?

「ああ、彼はまだ何も知らなかったよ。 私が到着する前の話だ」

 接触済みであったから、説得はしやすかったがね、と事も無げにユース様は笑う。
 いつの間にか、包囲されている。俺に拒否権は与えられていない。

「では、私はそろそろ帰るとしよう」

「ノアと共に見送りましょう」

 ユース様がそう言って、外に出ると、俺達も共に展望室を後にした。
 扉の前に控えていた騎士が、ユース様の後ろに付き従う。

 竜騎士の視察団は、既に出発準備を整えて、ユース様を待ち構えていた。
 おじさんが別れの挨拶を言った。
 何も考えられなかったが、俺もどうにか挨拶の言葉を口にした。
 ユース様はそれに鷹揚に頷いた。

「ノア君。 君が王都に来るのを一足先に帰って待っているよ。 向こうに着いたら、たまには私の相談にも乗っておくれ」

 そう言って、ユース様は王都に帰って行った。

「おじさん、ユース様は、」

「先王陛下であらせられる」

 ユースティティア・アルビオン。先王の名である。
 おじさんとは本当に旧知の仲で、友人であると言うのは嘘では無いらしい。
 二年程前、息子に王の座を譲った後も、国の為に尽力されていると言う。

 公爵家のトリスタンに、すぐ約束を取り付けられる訳だ。

「ノア」

「はい、おじさん」

「お前なら、誰にも気付かれずに、この国を去る事が出来るだろう。 その先で、誰にも知られずに生きていく事も出来るかもしれない」

 おじさん、それは俺を買い被りすぎです。
 そんな度胸も行動力も俺は持っていない。

「そうしたとしても、私はお前が裏切ったとは思わん。 先にお前の自由を奪ってしまったのは私だからな」

 王都に行けと言われた時、逃げ出したいと思った。
 思っただけで、逃げ出す勇気すら俺は持っていない。

「しかし、それではお前の為にならないだろう」

「俺の為……?」

「そうだ」

 おじさんがこちらを真っ直ぐに見て言った。

「ノア、お前は何の為に生きている?」

 何の為に?

 死にたくないから、これまで危険から遠ざかろうと生きてきた。
 毎日、目に付く範囲の人達を守った気になって、見えない所は知らないふりをして、自分は安全圏で生きてきた。
 何の目標も無く。

「お前が何故、周りに一線を引いているのか知らないが、私はお前の事を家族だと思っている。 クリスだって、ヴェロニカやナイジェルだってそうだ」

 巻き込まれたくない。
 何故そう思う様になったのだろう。
 生きると言う事は、何かしら、しがらみを生む。
 それは、絆と言われたり、縁であったり、家族であったり様々だ。
 それを持たないで生きるとしたら、最初から一人で山の中にでも籠るしかない。
 俺はこの世界で生きているのに、いつまで前の世界に捕らわれているのだろうか。

「行っておいで。 それで、嫌になったら帰ってきたらいい。」

 おじさんは俺の肩を優しく叩いた。重くも温かかった。

 行きと同じように、王都に戻るメンシス騎士団に着いて、アルブスの街まで戻った。
 トリスタンとは、まだ少ししか話せていない。
 俺は、騎士団が休息や物資補給する間に、ギルドへ顔を出した。

「それでは、お世話になりました」

「王都への栄転だ。 おめでとう」

 支部長は素っ気なく言った。
 ムッスや、ユージン達は、俺との別れを悲しんでくれた。
 ムッスはもう鑑定士として一人前だ。ユージンやマリーを任せられる。
 アレックスには会えなかった。今度手紙でも送ろうと思う。
 宿舎で簡単に荷物をまとめる。家具は備え付けのものが殆どで、所持品は多くない。
処分しきれなかった物は、ユージンに頼んだ。

 本当に、ギルドと宿舎を行き来するだけの生活だったのが分かるな。
 それなりに楽しんでいるつもりであったのに、おじさんに言われた言葉を思い出すと、突然空虚な感じがする。

 王都へ向かう馬車の中で考えていた。
 次の暗黒期に、モンスターに攻め込まれて、人類側が守りきれなかったら。
 俺一人が出来る事は少ない。
 それでも、何もしないで死んでいくよりは、納得できる気がする。
 戦う覚悟も守る覚悟も、未だに出来ていない。
 しかし、この世界で生きる覚悟はしなければ。
 騎士団を強くする事が、俺が生きている意味に繋がるのなら、やってみようと思う

 改めて考えてみると、二つと無い能力を持って生まれて、おじさんの世話になって、先王に会って。
 俺の運命には作為を感じる。

 俺が記憶を持ったままこの世界に生まれた事に意味があるなら、誰か教えて欲しい。

2013/04/22 修正


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