重い…すごく悩みました。
次は閑話を挟んで次章に入ります。
次が王国編でしたね。章の名前変更しますね。
何がいいかな。
衝撃で固まったままの俺を置き去りに、ユース様は言う。
「君はギルド職員として王都で冒険者や傭兵を育てつつ、騎士団にも顔を出してもらう」
俺は王都のギルドに移り、これまで通り、窓口で働く。
そして騎士団とも交流し、彼らを伸ばす手伝いをすると言う事か。
ユース様が言うには、王都の支部には、協力者を用意するそうだ。
もし他国に気取られても、国が俺の身柄を保護してくれるそうだ。
反対に考えれば、監視付きの生活という事だが。
そして騎士団だが、まず始めにメンシス騎士団で成果を上げてみせよと言われた。
団長はシュテルン公爵家の跡取りらしい。
国の為と、団長には話が付いているそうだ。
俺は団長の友人として、彼の相談に乗る。スキルを使ってアドバイスをしろと言う事だ。
「シュテルン団長とは、君はもう会っている筈だ」
「早朝、中庭で話していただろう」
トリスタン!
彼が団長だったのか。
ならば、俺は彼に試されていたのだろうか?
「ああ、彼はまだ何も知らなかったよ。 私が到着する前の話だ」
接触済みであったから、説得はしやすかったがね、と事も無げにユース様は笑う。
いつの間にか、包囲されている。俺に拒否権は与えられていない。
「では、私はそろそろ帰るとしよう」
「ノアと共に見送りましょう」
ユース様がそう言って、外に出ると、俺達も共に展望室を後にした。
扉の前に控えていた騎士が、ユース様の後ろに付き従う。
竜騎士の視察団は、既に出発準備を整えて、ユース様を待ち構えていた。
おじさんが別れの挨拶を言った。
何も考えられなかったが、俺もどうにか挨拶の言葉を口にした。
ユース様はそれに鷹揚に頷いた。
「ノア君。 君が王都に来るのを一足先に帰って待っているよ。 向こうに着いたら、たまには私の相談にも乗っておくれ」
そう言って、ユース様は王都に帰って行った。
「おじさん、ユース様は、」
「先王陛下であらせられる」
ユースティティア・アルビオン。先王の名である。
おじさんとは本当に旧知の仲で、友人であると言うのは嘘では無いらしい。
二年程前、息子に王の座を譲った後も、国の為に尽力されていると言う。
公爵家のトリスタンに、すぐ約束を取り付けられる訳だ。
「ノア」
「はい、おじさん」
「お前なら、誰にも気付かれずに、この国を去る事が出来るだろう。 その先で、誰にも知られずに生きていく事も出来るかもしれない」
おじさん、それは俺を買い被りすぎです。
そんな度胸も行動力も俺は持っていない。
「そうしたとしても、私はお前が裏切ったとは思わん。 先にお前の自由を奪ってしまったのは私だからな」
王都に行けと言われた時、逃げ出したいと思った。
思っただけで、逃げ出す勇気すら俺は持っていない。
「しかし、それではお前の為にならないだろう」
「俺の為……?」
「そうだ」
おじさんがこちらを真っ直ぐに見て言った。
「ノア、お前は何の為に生きている?」
何の為に?
死にたくないから、これまで危険から遠ざかろうと生きてきた。
毎日、目に付く範囲の人達を守った気になって、見えない所は知らないふりをして、自分は安全圏で生きてきた。
何の目標も無く。
「お前が何故、周りに一線を引いているのか知らないが、私はお前の事を家族だと思っている。 クリスだって、ヴェロニカやナイジェルだってそうだ」
巻き込まれたくない。
何故そう思う様になったのだろう。
生きると言う事は、何かしら、しがらみを生む。
それは、絆と言われたり、縁であったり、家族であったり様々だ。
それを持たないで生きるとしたら、最初から一人で山の中にでも籠るしかない。
俺はこの世界で生きているのに、いつまで前の世界に捕らわれているのだろうか。
「行っておいで。 それで、嫌になったら帰ってきたらいい。」
おじさんは俺の肩を優しく叩いた。重くも温かかった。
行きと同じように、王都に戻るメンシス騎士団に着いて、アルブスの街まで戻った。
トリスタンとは、まだ少ししか話せていない。
俺は、騎士団が休息や物資補給する間に、ギルドへ顔を出した。
「それでは、お世話になりました」
「王都への栄転だ。 おめでとう」
支部長は素っ気なく言った。
ムッスや、ユージン達は、俺との別れを悲しんでくれた。
ムッスはもう鑑定士として一人前だ。ユージンやマリーを任せられる。
アレックスには会えなかった。今度手紙でも送ろうと思う。
宿舎で簡単に荷物をまとめる。家具は備え付けのものが殆どで、所持品は多くない。
処分しきれなかった物は、ユージンに頼んだ。
本当に、ギルドと宿舎を行き来するだけの生活だったのが分かるな。
それなりに楽しんでいるつもりであったのに、おじさんに言われた言葉を思い出すと、突然空虚な感じがする。
王都へ向かう馬車の中で考えていた。
次の暗黒期に、モンスターに攻め込まれて、人類側が守りきれなかったら。
俺一人が出来る事は少ない。
それでも、何もしないで死んでいくよりは、納得できる気がする。
戦う覚悟も守る覚悟も、未だに出来ていない。
しかし、この世界で生きる覚悟はしなければ。
騎士団を強くする事が、俺が生きている意味に繋がるのなら、やってみようと思う
改めて考えてみると、二つと無い能力を持って生まれて、おじさんの世話になって、先王に会って。
俺の運命には作為を感じる。
俺が記憶を持ったままこの世界に生まれた事に意味があるなら、誰か教えて欲しい。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。