予定外に一話増えました。
まだ最初に考えていたプロットに追いつかないです。
更新頑張ります。
昨日は唐突すぎで、何も話せなかったな。
おじさんは何故俺を呼んだのだろう。
支部長にも許可を取ってあると言っていたが、普通に考えたらシフトに大穴空けてる事になるのだから、理由が気になる。
俺のスキルが支部長に知られた事が関係するのだろうけれど。それだけだろうか。
早朝、目が覚める。
外はひんやりとした空気が漂っていて、人気が無い。
久しぶりに、体を動かしてみようか。立て掛けてある木刀を手に取り、中庭に出た。
俺は真剣を持った事が無い。
ナイジェルに護身術の訓練を受けた時も、強要されなかった。
十二歳になった頃からだろうか。俺はナイジェルの勧めで、木刀を握った。
鑑定士のスキルを磨く事や、知識の吸収ばかりで勉強漬けの俺を見かねて、ナイジェルが外に引っ張り出して稽古を付けてくれたのだ。
転生したのだから、少しは経験が生かせるものだと思ったが、ゲームの様には行かなかった。
色々試してみたが、スキルが開花する事も無かった。
自分自身を鑑定士のスキルでみる事が出来ないが、持って産まれた剣の才能は低いのだと分かった。
大した努力もせずにと思われるかもしれない。
死にたく無いなら強くなれと。
皆が皆、そう思って強くなれるならば、天才なんて言葉があるのはどうしてだろう。
漫画の主人公の様にはなれなかった。俺は強くなるのを諦めた。
それでも、体を鍛えるのは戦うのとは別だろう。
もしもの時、敵から逃れられる可能性が少しでも広がるかもしれない。
そう思って、たまにこうして鍛錬もどきを行っている。
俺は真剣を握った事が無い。
いざという時、パニクって自分で自分を刺すのがオチだから。
中庭で木刀を振る。無心になって、ひたすら振る。
こういう精神統一は好きだ。
カツン。
廊下に響く硬質な足音。
俺は木刀を振るのを止めて、音の方を向いた。
「そなたは、この城の兵か?」
美丈夫、と言うのだろうか。一目で貴族だと分かる佇まいの男性が声を掛けてきた。
俺は胸に右手を当てて、軽くお辞儀する。
「いいえ。 私は縁あって、伯爵様に世話になっている者です。 ノア・イグニスと申します」
「そうか。 私はトリスタンと申す」
トリスタンと名乗った彼は、多分メンシス騎士団の人だ。
旅の間は甲冑を着ていたし、俺は最後尾で馬車の中だったから、顔は把握していないけれど。
「ノアよ。 手合わせをせぬか。 木刀で良い」
「……はい。 私では騎士様のお相手は勤まらないと思いますが、それでもよろしければ」
困った。貴族特有のお遊びだろうか。下手に断れない。
幸い、木刀でいいと言ってくれているし、適当に負けて逃げるか。
俺は断りを入れてから、一旦部屋に戻って、木刀をもう一本持って来た。
ナイジェル用のものがそのまま部屋に残っていたのだ。
「では、お手柔らかにお願い致します」
「ああ」
ただ静かに見合う。
先に動いたのは俺だ。技量も何も無い俺が、相手の隙を突くなんて出来ない。
簡単にいなされ、そこからは一方的に打ち込まれた。ひたすら押し切られない様に防いだ。
疲れが見え始めた俺の剣先がブレたのを見て、トリスタンが木刀を強く横にはらう。
俺の手から、見事に木刀が飛び、首筋にトリスタンの剣先が突きつけられる。
「ま、参りました」
俺は息も絶え絶えである。対してトリスタンは表情ひとつ変わらない。
「どう思った?」
どうにか息を整えて言う。
「はい、お強いですね。 さすが騎士様です。 剣先にブレが無く、ひとつひとつの攻撃が重い。 手加減されてなければ、直ぐ飛ばされていたでしょう」
素直に思った事を伝える。
しかしトリスタンは、それだけでは納得しなかった。
「では、ノアよ。 魔術も使えばどうなる?」
「結果は変わらないでしょう。 私程度の魔術では、トリスタン様の動きの前では無力です」
これも本当の事だ。
彼ぐらい実力のある人間の前で、魔力を使ったとしても、発動までの時間を考えれば、結局その前に叩かれて終わる。
「そなたが私で、私がエセックス卿だ」
「は?」
すぐには飲み込めなかった。
つまり、おじさんと自分の実力差の事を言いたいらしい。
「昨日、卿に会って早々、一騎打ちをしたのだ」
何やってんだあの人。
「一瞬で勝負は決した。 私の負けだ」
「エセックス卿は、この国の誰よりも経験がおありです」
トリスタンの凍える瞳がこちらを向く。
怒らせただろうか。さっきからヒヤヒヤする。
「正に。 我らには経験が足らない。 お飾りの騎士団よ」
珍しい人だな。清々しいくらい潔い。
おじさんは、貴族のお坊ちゃん達の鼻っ柱を折る為にやったんだろうな。
少なくとも、この人は経験不足の自覚がある。
「それでも強いと言えるか?」
「私にとったら、全ての人が強いと感じます。 トリスタン様がお強いと思った事に偽りはありません」
ハッキリと言うと、トリスタンの口元が、少し緩んだような気がした。
「そうか。……何でもよい。 他に思った事があれば正直に述べよ。 叱りはせぬ」
今ので終わる所だろ。お世辞じゃなく本当に強いと言ったのに。
逆鱗に触れて、叩き切られやしないか。様々な事を考えながら、俺はスキルを発動させた。
見事にキレイな数字が並んでいる。ひとつひとつの能力値が高く、隙が無い。
しかし、言い換えれば突出したものが無いのだ。
「トリスタン様が得意とされている魔術の属性は何でしょうか?」
「全てを限界まで高める様心がけているが。 強いて言えば、光だろうか」
「ならば、そちらをもっと伸ばしてみては如何でしょうか?光属性ならば、騎士団にも相応しい属性ではないかと存じますが」
トリスタンは自分の事をよく分かっていた。伸びしろは光属性こそにある。
家訓なのか騎士団の掟か知らないが、均等に鍛える方法をとったせいで、得意分野が伸び悩んでいるのだ。
彼は少しの間沈黙し、それから頷いた。
「参考にしよう。 有意義な時間だった。 また会おう」
「はい、ありがとうございました」
トリスタンは来た時と同じくカツン、カツンと規則正しい音を立てながら、城へと消えていった。
なんだか朝からドッと疲れた。
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