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第二章【転換期編】
仲間とは
 ギルドの窓口係になったばかりの頃の話だ。
 この街で強いと言われていた傭兵が死んだらしいと、ギルド内で誰かが話していたのを聞いた。
 知っている人だった。
 詳しい話を聞いてしまえば後悔すると分かっていたのに、調べてしまった。俺が送り出したクエストだ。
 分かっていたつもりだった。
 いくら一言付け加えたって、誰もが危機から逃れられる訳では無い。
 俺のせいだと考えるのだっておかしい。何様だ。

 それでも、その日一人になって泣いた。二、三日食べては、吐いた。
 何時までたっても慣れない。異世界に住んでれば慣れるのか?慣れていいのか?
 それでも、俺は生きる為に四日目からは肉も食べたし、仕事は何とかこなした。

 例えば、石に躓くとする。誰だって不注意である事だ。しかし、わざわざモンスターの前に行って、石に躓くはめになるのはごめんだ。
 それでも、俺は躓きそうになっている人を無視できない。
 危ないと声を掛けるし、間に合わずに怪我をしたら手を差し伸べたくなる。とっさに、普通に。
 これは、俺が日本人だったからだろうか?
 俺は手で顔を押さえながら、指の隙間から見ているのだ。
 ギルド職員の窓口係として。

 久しぶりに、ユージンの仲間達がギルドにやって来た。
 まだこの街にいたんだな。しばらく見ていないと思っていたら、怪我をして休養していた様だ。
 イレイヌさんの窓口で、ずっと文句を言っている。ギルドのエントランス中に響く大声だ。

「あんたがあいつと組めって言ったから、組んだんだぜ?」

「担当は致しましたが、それから先の事は、メンバー内での問題です。 いかなる場合においても、ギルドは責任を負いません」

 ギルドにパーティーを組みたいと申し出れば、こちらで斡旋を行う。
 仮登録のようなもので、一時的にパーティーを組み、上手く行けばそのままパーティー登録できる。
 ギルドは斡旋はするが、その後のパーティー内のいざこざには一切責任を負わないと、仮登録の時に説明している。
 手に入った報酬の配分や相性なんかは、本人同士の問題なのだから、当たり前である。
 二人はユージンの代わりに、スカウト能力を持ったメンバーを探していたのだろう。
 同じくメンバーを探していた獣人と組み、魔窟に潜ったが、途中で獣人が逃げた為、怪我をしたらしい。

「ちょっと蹴っ飛ばした位で、あいつ逃げやがって!」

「俺達がいなけりゃ、ゴブリン数匹に手こずるくせに」

 本当に懲りないな、あいつら。
 いまギルド内でそんな事を言ったら、本当にこの街でパーティーなんか組めなくなるぞ。

「もー痛くてよぉ。 お姉さん、看病してよ」

 バン!

 び、びっくりした。
 イレイヌさんがカウンターを両手で叩いた音だった。

「お言葉ですが、自業自得ですわ」

 ギルドのエントランスが静まり返る。

「仲間を大切にされない方達と、誰も組みたがりません。 貴方達を危険から守る存在を蔑ろにして死にかけたのに、そんな事もお分かりにならないのですか?」

 本当にな。
 きっと、ユージンが酷い怪我をするまでパーティーを解散しなかったのは、同じ村の出身で、二人に死んで欲しくない、仲間だと言う意識があったからだろう。
 二人はイレイヌさんの迫力に負けて、口を開けたままだ。

「それと、私はお姉さんで無く、立派な奥さまです。 分かったらとっとと出て行って下さいます?」

 小僧共が舐めてんじゃねーぞって副音声が聞こえて来た。おっかない。
 可愛いお姉さんに言われたのが余程ショックだったのか、もにょもにょと口を動かした後、二人は回れ右してギルドを出て行った。
 こんなギルド二度と来るか、みたいな事を言ってたな。
 来なくて結構だ。
 イレイヌさんをチラリと見る。やってしまった、と言う顔をしている。
 ギルド内で全部を聞いていた人達は、イレイヌさんに拍手している。
 ちょっと気まずそうにしている奴らは、まだこれから変われる余地があるな。

 イレイヌさんが落ち着きを取り戻し、ギルド内の空気も、元に戻った。
 もうすぐお昼が近い。列が途切れ、書類整理が進む時間帯だ。
 イレイヌさんのお子さんの苦労話を聞いたり、支部長の愚痴を言ったり。
 座りっぱなしで痛む腰をどうにか誤魔化して、ゆったりとした時間を過ごした。
 遅番との交代の時間となり、俺は椅子から立ち上がり大きく伸びをする。
 陽は沈み、窓の外は星空が広がっていた。
 ギルド内は魔力の込められた石のおかげで明るい。

 引き継ぎをすまし、お疲れ様でした、職員に声を掛けると、ギルドを出た。
 イレイヌさんは、夕方までのシフトだ。彼女は俺と違って、家庭があるので、今頃は家族でご飯でも食べているのだろう。

「ノア、久しぶり」

 ぼんやり、ギルド宿舎へ歩いていると、急に現実に引き戻された。

「アレックス、久しぶりだな」

「うん。 なあ、もう仕事終わっただろ? 今日、飲みに行かないか?」

 アレックスとは何度か飲みに行った事がある。
 今日は誰かと食べたい気分だったから、俺はすぐ頷いた。

「俺さ、もっと強くなってると思ってた」

 しばらく飲んで食べて空腹を満たすと、アレックスが語り出した。
 例の闘技大会に出場すると、街を出る前に本人から聞いていた。
 大会に出場できる参加資格は、この国の出身である事と、ギルドに登録している事。
 ソロの出場者は、トーナメント制で駒を進める。
 相手を故意に殺害するのは無しだ。
 王国も、優秀な冒険者や傭兵に死なれるのは困る。
 参ったと言わせたら勝ち。相手を殺したら負けである。相手を殺してしまうのは、とても不名誉な事とされている。
 剣士だろうが魔法使いだろうが、特に規制は無い。
 得意、不得意はあれど、どちらも使う者が多い為、差別化は無理だ。
 己の持てる力を全て使い、全力で闘う。
 それでも、死者、負傷者が毎年出る。大会前には同意書を書かされるらしい。死んでも文句無しだ。
 普段はモンスターに使う力を、人に向けると言うのは、どんな感じなんだろうな。
 相手が敵だと思えば、同じなんだろうか。

 アレックスは、準々決勝で敗退したと言った。
 俺からすれば、すごい事の様に思う。何百人と参加する中で、そこまで勝ち進んで行けたのだ。


「俺が負けた相手さ、本当に強くて。 格の違いってやつ? 手加減されてるの分かった。 いつの間にか空を見てて、参ったって言うしか無かった」

「そうか……」

 結局、アレックスが当たった相手が優勝したそうだ。
 本当に強い人間に当たって、無事に帰って来れたのだ。
 しかし、アレックスにしたら喜べないんだろうな。

「俺の兄貴が、騎士だって話したろ? 昔から優秀な兄貴で、尊敬してたけど、ずっとコンプレックスだった」

「言ってたな。 今は王子の近衛をやってるんだっけ?」

「そう。 最近調子良いし、優勝したら王様に拝謁できて、お言葉を賜って。 兄貴を見返してやりたかったんだろうな、俺」

 いつも元気なアレックスが、こんな弱った姿を見せるのは珍しい。
 兄弟の話は本人達の問題だし、戦闘に関しても、俺に言える事は少ない。

「アレックス」

「んー?」

「お前は強くなれるよ。 まだまだ伸びる。 月並みな事しか言えないが、チャンスはまた来る。 次、頑張れよ」

 アレックスはしばらく黙っていた。
 その後いきなり笑い出して、こう言った。

「ははっ。 ノアがそう言うなら、何か大丈夫な気がして来た。 俺、まだ強くなれるよな?」

「ああ」

 俺が頷くと、アレックスも頷いた。
 それからはいつものアレックスに戻った。
 俺達は散々飲み明かして、笑って別れた。

2013/04/22 誤字修正


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