強いとは思っていたが、まさか他国の騎士なんて。
支部長がアルフォンスさんの後を引き継ぐ。
「ギルドの一部の者のみが知っている話だ。 五大国の意向で、彼らはある調査を行っている」
ある調査って何だ。いや言わないで下さい。
「ギルドはそれを全面的にバックアップする様に国から仰せつかっている」
「だから、支部長はアルフォンスさんの正体を知っていた。 すぐに私の推薦を受け入れたのも」
「そうよ。 実力を知っていたから」
もしかして他国間の貸し借りとかの話しになるのか?
ちょっと考えたが、アルフォンスさんは、自ら望んで討伐に手を貸そうとしていた。
ワイバーン討伐も調査の一環なら、責任等の話にはならないと思うが。
一体どうして俺にその話をしたのだろう。
疑問符を浮かべた俺に、アルフォンスさんが説明する。
「簡単に言うと、刻印持ちを探しているんだ」
刻印持ちとは、簡単に言うとチートの代表である。
神の加護を受けているとしか言いようが無いくらい、優遇された者だ。
生まれつき、体のどこかに刻印がある事からそう呼ばれている。
ただし、刻印持ちが生まれる事はめったに無い。
確認されていないだけで、もっと存在しているのかもしれないが。
大昔、お伽話のような時代には、現在より多くの刻印持ちがいたらしいけれど。
俺の反応をじっと見ていたソフィアさんが、ここで初めて口を開いた。
「私は、ノアさんが刻印持ちなのでは無いかと思ったのです」
「え、おれ、私がですか?」
俺の反応を見て、ソフィアさんが頷く。
「ノアさんから魔力以外の力を感じた事があります。 刻印があるかどうか、体を調べさせて下さい!」
「へ?」
ソフィアさんがバッと立ち上がって、俺の方に詰め寄って来た。
いやいやいや、ちょっと待ってくれ。ここで脱げって?
「ソフィア、ノア君が困ってるよ。 俺が確かめる。 良いかな?」
「はあ、構いませんけど。 でも、」
「本人が気が付いていない場合もあるんだ。 まだ力が目覚めていない事だってある」
アルフォンスさんに促され、俺は会議室とは別の部屋で素っ裸にされた上、念入りに体をチェックされた。
「無いね」
「無いですか」
会議室に戻り、アルフォンスさんがソフィアさんに刻印が無かった事を伝えた。
「そんな、もう一度! 今度は私が見ます!」
手をわきわきさせるソフィアさんに、逃げ腰の俺。
結局、アルフォンスさんが説得して、女性の前で裸になるような恥ずかしい事にはならなかった。
ソフィアさん、見た目とのギャップが酷いんだが。
俺の疑いが晴れた所で、アルフォンスさんは、ワイバーン討伐の詳細を支部長に話していた。
まず、卵を乗せた馬車を囮にして、突っ込んでくるワイバーンを背後から魔法で襲った。
地面に落ちた所で、再び舞い上がるのをソフィアさんが阻止。
木の妖精を召喚して、ネット状のツタを絡ませる。
そこにアルフォンスさんと、Aランクパーティーの剣士が突っ込んで、翼を無力化。
後は猛毒を持つ爪と牙に気を付けながら、皆で囲い込み、時間を掛けて倒したそうだ。
暴れ狂うワイバーンも、目、尻尾、爪と削られれば、後は大きなトカゲみたいなもの、とアルフォンスさんが笑った。
絶対にそんなかわいいもんじゃない。
図体、四メートル以上もあるトカゲなんて怪獣だ。怪獣。
アルフォンスさんの話が終わった所で、支部長が職員に呼ばれて退出した。
三人になり、会議室は静まりかえる。
沈黙を破ったのはアルフォンスさんだ。
「驚かせてすまなかったね。 でも、ソフィアも必死なんだ。 勿論、僕も見つかって欲しいと思っている」
それだけ、その調査が大事なのか。刻印持ちを見つけ出す事が。
「私、ごめんなさい、ノアさん」
「あ、いえ」
俺に刻印が無いと分かってから、ソフィアさんはずっと気落ちして俯いていた。
ソフィアさんが必死な理由を分かってあげたいが、俺は聞かない。聞いたら戻れなくなりそうだから。
ワイバーン討伐から二週間。
俺は普通に窓口として働いていた。
俺のスキル「鑑定士」がどんなものか、あの後支部長には話す事になった。
なんでアルフォンスさんの前で問い詰めなかったか聞いたら、他国に優秀な人材の情報をわざわざやる必要は無いと言われた。
なんと言うか、徹底している。
昼休み。
今日は街で飯を食おうと、ギルドから出ると、そこにはアルフォンスさんとソフィアさんがいた。
彼らは二週間の内に、功績が認められ、Aランクパーティーになっていた。
「こんにちは」
「こんにちは、ノア君」
「今日出発されるんですね」
アルフォンスさん達は、また次の街に進むらしい。
調査とやらの先は長い。いつまでもここを拠点にはしていられないだろう。
俺は最後に、アルフォンスさんにどうしても聞きたい事があった。
『強いと思ったから』
支部長に推薦した理由を言った時に見せた、あの笑顔の訳を。
「ああ。 君なら沢山のギルド利用者を見てきている目があるし、僕達の成績を知っている」
「まあ、確かに」
「それに、君には魔力がある。 どの程度にせよ、戦う力を持っている。 その力をずっとギルド職員のまま終わらせるのかい?」
ドキリとした。
アルフォンスさんは、戦う者なら実力を感じる事も出来るだろうと言った。
「俺は弱いですよ」
自分で自分を笑った。
戦うってなんだ。力があれば戦わなければいけないのか?
自分を犠牲にしても?誰の為に?何のために?
俺はアルフォンスさんのように、国の為、皆を守る為に戦えるような人間じゃない。
「そうか。 分かった」
「はい」
ソフィアさんとも話しをして、俺達は別れた。
最後にアルフォンスさんが言った。
「名前、アルフォンスって偽名なんだ。 一応、内密な調査って事になってるから」
「え、」
「だから、次に会った時は、アルって呼んでくれ。 そっちの方が、本当の名前に近いから」
そう言って、アルフォンスさん一行は旅立っていった。
アルって名前に近くて、隣の国にすごく有名な王直属の騎士がいたような。
俺はそこまで思い出して、それ以上考えるのを止めた。
きっと彼らみたいな人間を人々は勇者と呼ぶんだろうな。
俺は頭の右側を無意識に手で押さえていた。
濃紺の髪に隠れて、そこに刻印があると知っているのは、俺と亡き母だけであった。
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