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第一章【異世界の日常編】
俺の勝利
 そう言えば、もうすぐ二十歳になるな。
 朝起きて、鏡に映る自分の姿を見ながらぼんやりと思った。
 半分寝ぼけた顔には、彫りの深い顔立ちだった両親の面影がある。同時に日本人だった頃の俺にも少し似ていて不思議だった。
 髪の色と瞳は濃紺で、ここはやはり地球とは違うんだなと思う。

 この国では、だいたい十七歳になれば一人前と見られるようになる。成長も種族によって違うし、文化も様々入り交じっている為、大体でしかないが。
 成人式のようなものは無いが、俺は既に自他共に認める成人である。

 身支度を整え、ギルドの宿舎から、外に出る。
 俺はここに個室を借りて生活している。中には食堂があり、緊急時や夜番の為に年中無休でいつでも利用できるようになっている。とってもありがたい。

 今日の天気は曇り。
 宿舎裏手にある庭には、澄んだ空気が流れている。大きな木々が並び、中に入ると宿舎からは人の姿は見えなくなる。とても都合が良い。

「おはよう。 いい風が吹いてるな」

『ノア』

 人ならざるものの声が聞こえる。風の精霊の声だ。周りからすれば独り言に見えるので、俺は毎朝この場所に通って彼らと話していた。

「今日も聞かせてくれるか?お前達の噂を」



 精霊と朝の挨拶をすませた俺は、宿舎に戻って食堂で朝食をすませるとギルドに出社した。遅番との引き継ぎをすませ、いつもの窓口に座る。
 早朝でも窓口には多くの利用者がいる。
 この世界には魔窟というものが存在する。
 RPGだと、ダンジョン・地下迷宮とか言うやつだ。
 魔窟に潜るのは、基本的に朝から夕方。夜になると危険性が増すので、大体皆朝から依頼や情報を求めてギルドにやって来る。
 冒険者とか傭兵なんて言うと、ならず者のイメージを抱く人もいるだろうが、意外と早寝早起きで、規則正しい生活のやつらだ。
 中には、イメージそのもののやつだっているが。

 列に並ぶ利用者を捌いていると、昼になった。
 軽く飯を食って、少しだけアイテム鑑定所の部署に顔を出す。
 特に俺のスキルが必要なアイテムは持ち込まれていない様なので、再び窓口に戻る。

 そろそろ魔窟に潜るやつはいなくなり、旅人や村の依頼を持ってくる人達が増える時間帯である。
 利用者の数も減るので、窓口はひとつ機能していれば充分だ。
 もうひとつの窓口で交代を待っているイレイヌさん(二十八歳子持ち)に休憩お先でした、と声を掛けようとしたんだが、どうやら何か揉めている。
 例のイメージそのものであり、迷惑極まりない奴がやってきたようだ。

「ですから、あなた様のランクが基準に達しておりません。 誠に申し訳ありませんが、今のランクでは、契約を結ぶ事が出来ませんので、報酬についてお約束出来ません」

「規則ですからーって言うんだろ? 話にならねーなぁ。 おい、姉ちゃん、あんた戦闘した事あんのかよ。 何がランクだ。 おい、上司呼んでこい!」

 頭の悪いやつと言うのは、世界が変わっても、どこにでもいるらしい。
 俺は引きつった笑顔のイレイヌさんに小声で行って下さいと交代を促す。
 ごめんねと小さな声で謝って、イレイヌさんはギルド職員口から中へ入っていった。

「お待たせ致しました。 担当変わりました、ノアと申します」

 とにかく笑顔で低姿勢。相手がどんな野郎でもだ。
 最初はひたすらイレイヌさんについていちゃもんを付けていたが、しばらくすると鎮火したらしい。

「さっきのお嬢さんじゃ、話しにならなくてよ。 俺はつい最近まで騎士だったんだぜ? ランクなんかチマチマ上げてられるかよ。」

 機嫌よく話し始めるアホ。女と言うだけで差別しているが、ギルドが話の分からない人を窓口として雇う訳が無い。とりあえずアホの言葉は遮らず最後まで聞いてやる。
 それでもギルドの答えは変わらない。

「お話しは分かりました。 申し訳ありませんが、こちらのクエストの条件をクリアされるのは難しいかと思います。 騎士様でしたら、こちらのクエストの方が向いておられます。 報酬も悪くありませんよ」

 相手を持ち上げつつ、他に目を逸らす。
 報酬の言葉に少し興味を示したが、なかなかうんと言わない。

「ふぅーん。 でもこっちの方がアイテム良いの手に入るって聞いたんだけど?」

「魔窟はその分、危険でございます。 今からですと、帰る頃には夜になってしまいます。 そうしますと出現するモンスターも変わりますので、ソロですと危険性が増します」

「俺が弱いって言いたい訳?」

 アホ!ちげぇーよ!
 内心叫びながらも笑顔である。
 騎士の戦い方と狭くて暗い魔窟の潜り方を説明しても、こいつは納得しないのだろう。
 魔窟に潜る場合は、魔窟専門にしている冒険者が一日掛けて準備して挑むものだ。
 専門外の人間が挑戦する場合は、スカウト能力を持つ者などを雇う。まずソロで潜るやつはいない。
 荒立てない様に言葉を選ぶが、アホはヒートアップする一方だ。後もつかえているし、そろそろお引き取り願いたい。

「俺は、ウド・バルテン! 子爵だぞ。 メンシス騎士団にいたんだ。 冒険者なんかに出来る事が、俺に出来ない訳がないだろうが!」

「出来ないものは出来ません。 規則は規則です。 例外を作りますと、他の方にもご迷惑をお掛けしますので」

 こいつ、どんどん墓穴を掘って行きやがる。
 後継ぎ争いに負けた貴族の三男坊が、コネかなんかで騎士団に入ったものの厳しさに負けて傭兵になろうとギルド登録したが、ランクを上げるのが面倒くさくなったって所だろう。

「てめぇ、おい、貴族がどういうものか知らないらしいな。 これだから田舎の庶民は困る。 家名を名乗れよ」

 どうやら実家に脅しを掛けたいらしい。
 まあ脅される実家を持たない俺はひとつも困らないが、一応名乗ってやろう。

「ノア・イグニス・エセックスと申します」

「――え、エセックス? 獅子王エセックス伯爵家の?」

「ええ、そのエセックスです。 おじさんのお知り合いですか?」

「……か、帰る!」

 今日もエセックス伯爵の名前は効果覿面である。
 おじさんの養子にはなっていないが、半ば同じようなものだ。ただ後継ぎ争いには加わらないと言うだけで、後見人になってくれた時に、身内としてエセックスを名乗って良いと許可を貰っている。イグニスは両親の性だ。

「またのお越しをお待ちしておりまーす」

 俺は笑顔でアホを見送った。
2013/04/22 修正


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