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二話目投稿します。
ギルド職員の話なんて、需要あるのかな?
第一章【異世界の日常編】
俺のお仕事
 傭兵を見送って、次を呼ぶ。
 まだまだ列は途切れない。俺と同じ中級から上級者向けの斡旋窓口は二つある。
 もうひとつの席には、モンスターの知識とギルドの窓口経験を兼ね備えた、美人な女の子が座っている。
 これぞギルドの窓口と言った感じで、男だったら迷わずそちらに並びそうなもんだが、何故か俺の列の方が長い。

 これは別に俺が野郎共にモテるとかそんなおぞましい事では無い。断じて!
 ただ、ああやって一言を掛けるようになってから、利用者達の俺に対する態度が変わってきた気がする。
 後から上司であるギルド支部長に聞いたのだが、どうやら俺が送り出した者達の生存率がやたらと高いらしい。(成功率では無い、生存率である。)
 それが利用者達の中で口コミで広がって、俺の列に並べば生きて戻れる、みたいなジンクスになったと。
 ジンクスだけじゃなく、あの一言が欲しいって直接聞いてくる奴もいる。はっきりと生存率が上がるのなら、誰だってそれに飛びつくだろう。
 俺の一言の情報は、ギルドに張り出された情報からでは分からないのだ。まだ誰も知らないくらい新鮮でピンポイントな情報である。

 情報源は誰にも言っていない。そろそろ支部長あたりにはバレていそうだが、俺は静かに暮らしたいんだ。
 RPGでよくある、国の陰謀に巻き込まれたり、勇者とか魔王だとかの冒険に連れて行かれたり、戦争に駆り出されたりするのはごめんである。
 ここは紛れもない現実で、俺はこのファンタジー極まった世界で生きていかなきゃならない。ギルド利用者(お客様)には悪いが、冒険者や傭兵みたいに、毎日生死を賭けて生活したくはない。今の所金に困るような事も無いし。
 RPGだとか、ファンタジーだとか、この世界で生きてきた奴らには当たり前であり、聞いた事もない単語であろうそれらを俺が知っているのは何故か。それは、俺が転生者だからだ。
 俺は地球の日本という国で二十三年間生きてきた。気がついたら、このファンタジー溢れる世界に生まれ落ちていた。ぬるま湯のような世界から、一気に明日も知れぬ世界へ。


 二歳頃から記憶の混同が始まり、今はあの頃の記憶とこの世界での記憶は完全に同化している。前世の名前は思い出さない様にしている。今の俺はノアと言う。
 最初は戸惑ったが、明日も知れぬのは別に日本で生きてたって一緒だ。いつ事故に合うかなんて、誰も知らない。もしかしたら雷に打たれて死ぬかもしれない。有名人だろうが、金持ちだろうが、死ぬ時は死ぬ。
 なるべく長く、心穏やかに生きたいのなら、油断せずに、身の回りに注意を払う。無謀な事をせずに、堅実に生きる。
 俺はそう思ったし、そうやって生きていこうとしている。
 だから冒険者や傭兵なんかにはならず、今ギルド職員としてここにいる訳だ。

 先程色々と巻き込まれたくないと言ったが、自意識過剰だからでは無い。
 俺の持っている特殊な点がバレて、ギルドの上層部や国の中枢部の耳に入れば、必ず目を付けられると分かっているからだ。
 転生者である事もそうだが、「鑑定士」と言う先天的なスキル持ちであると言う事。
 もうひとつ、精霊の声が聞こえて、姿が見えると言う事。
 これが異世界では普通の事であればどんなによかっただろう。

 スキルと言うのは人によって練度が違うが、人生が二回目のせいか、俺のスキルはレベルがカンストしているのだ。MAXである。
 「鑑定士」と言うスキルは本来、物に対して使うスキルであり、人に向けて使っても装備品の鑑定がされるだけで、本人の鑑定などできるはずがないのだ。
 しかし俺が鑑定のスキルを発動させると、人間だろうが獣人だろうが、その者のレベルや、MPやHPと言ったゲームじみたものが数値化して見えてしまう。果ては、まだ本人も知らない、開花していない潜在能力まで分かってしまう。

 そして、精霊の姿なんてものは無いとされている。妖精と呼ばれる存在はいるし、場所や人によれば見えるし、使役できる。
 精霊はもっと格上の存在で、魔法使いの中でも、格の高い白魔法士や召喚士なんかだと、精霊魔法を使えるらしい。それでも、力の片鱗を少し借りる程度が精一杯だと聞いた時は驚いた。
 誰も見た事が無くて、大いなる力の存在のみが感じられている。この世界での精霊は、そんな認識らしい。
 俺には幼い頃から見えていて、何度も助けて貰っている。確かに誰にもみえていないようだったし、俺も安易に周りに話したりしなかったから、独り言の多い変人だと思われる事は無かったけれど。


「ようノア、なんか良い仕事紹介してくれよ。」

「アレックス。 お前、ちょっとは自分で探せよ。」

 アレックスは、例の一言を欲しがる奴の筆頭だ。最近では仕事そのものを選んでくれと言ってくる。彼は傭兵で、剣士としては中々のレベルである。潜在能力もまだまだ伸びしろがある。
 こうやって頼ってくれるのは悪い気はしないが、その分こいつの生死の一端を預かっていると思うと、全面的に喜べないのも確かだ。
 なんだかんだ言って、アレックスとは俺がギルド職員になって以来の付き合いだ。公私は分ける方だが、ついつい言葉使いも気安くなる。

「これなんかどうだ。 ランクは低いが、帰り道に何かに会うかもしれない。」

「何か、ね。 もちろん倒せば討伐の報酬はでるんだろ?」

「そうだろうね。 運良く狩れたら、良い素材も手に入ると思うよ。」

「なる程、それ受けるよ。」

 簡単に決めやがって。
 何かなんて不確かなモンスターの情報に不安は無いのか。俺を信じ切られても困る。そう目で訴えるが、アレックスはいつものように笑って請け合わない。
 以前聞いた時には、何かあったとしても、それを選んだのは俺自身だから、お前が責任を感じる必要は無いと言っていた。考えが甘いとも言われたな。だが嫌いじゃないとか言ってたが。

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃいませ。 ご無事でのお帰りをお待ちしております」

 マニュアル通りの言葉で締めくくり、アレックスを見送った。

 帰りに会うかもしれない何かとは、レッドベアーである。簡単に言うとすごくデカくて攻撃的な熊だ。
 アレックスなら一人でも倒せるモンスターであり、この辺りで出るモンスターの中では、良い素材が採れる。毛皮や牙、爪から肉。内臓も薬になるし、全身素材の塊で、売ればしばらくは金に困らない。
 あれだけの説明でも、アレックスなら、会うかもしれないモンスターがレッドベアーだと分かっただろう。
 レッドベアーの話は、俺の秘密の友達、仲の良い風の精霊が朝一で教えてくれた。

 レッドベアーは普段森の奥にいて、人の前には姿を現す事は希である。エサを求めてか、縄張りを追い出されたのか、アレックスに勧めた依頼先の村近くまで出てきているようだった。
 有害なモンスターは一々クエストを発注せずとも、討伐報酬が出る仕組みになっているし、森の奥に潜るとしたら他のモンスターにも警戒が必要だが、割と浅い所で狩れるのならば、これほど美味しい獲物はいない。
 レッドベアーは夜行性である。村での依頼を終えたアレックスが、夕方になり起き出したレッドベアーと帰り道で鉢合わせするだろという予想である。
 俺はこうして、精霊の伝えてくれるモンスターの情報と、ランクだけでは把握できない、本人の特性を「鑑定士」のスキルで見極めながら仕事の斡旋を行っているのだ。

2013/04/22 修正


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