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従業員に「経営者目線を持て」という謎の要求

東洋経済オンライン 2013/12/17 08:00 日野 瑛太郎

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従業員に「経営者目線を持て」という謎の要求

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日本の会社には、奇妙な風習が多すぎる。そんな主張で一躍、月間50万PVの大人気になったブログがある――それが、「脱社畜ブログ」だ。この連載では、「脱社畜ブログ」管理人で、書籍『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』を刊行予定の筆者が、日本の会社の奇妙な風習を正面からぶった切っていく。第2回目は、ビジネス書などでよく言われる「従業員は経営者目線を持て」という言葉の意味について、冷静に考えてみたい。 こんにちは。「脱社畜ブログ」管理人の日野瑛太郎です。

 日本の会社で働いていると、上司や先輩から「経営者目線を持って仕事をしろ」と言われることがあります。経営者自ら、全社員に「経営者目線を持て」と呼びかけることも少なくありません。

 このように、日本の会社では社員が「経営者目線」を持つことは、とても重要なことと考えられています。「経営者目線」を持たない目線が低い社員は、日本の会社では基本的にダメ社員のレッテルを張られてしまいます。

 でも、これって実はおかしくはないでしょうか。

 単なる雇われにすぎない一従業員が、「経営者目線」を持って仕事をしなければならない理由って、何なのでしょうか。雇われは雇われとして、自分の仕事を淡々とこなすという姿勢では、なぜいけないのでしょうか。

 今日は、そんな「経営者目線」について、少し考えてみたいと思います。

■ 給料は安いほどいいし残業代も払われないほうがいい? 

 では試しに、実際に「経営者目線」に立って、いくつか物事を考えてみましょう。

 仮に、あなたが働きに見合わないぐらい安い給料しか会社からもらっていなかったとします。これは社員の立場から考えれば、「ふざけるな」という話になりますが、経営者の立場では、社員に払う給料の額は少なければ少ないほどいいということになります。

 そこで、「経営者目線」で考えると、薄給でも我慢して働くべきという結論になります。間違っても、給料を上げろなどと言ってはいけません。

 次に、残業代も会社から払われず、連日サービス残業を強いられているとします。これも社員の立場から考えれば、直ちに労基署に駆け込むなり弁護士に相談するなりして、残業代を取り返すという話になると思うのですが、経営者の立場では残業代はなるべく払いたくないということになります。

 そこで、「経営者目線」で考えると、我慢してサービス残業をするべきという結論になります。

 ほかにも、有給休暇だって取得しないほうが会社としたらうれしいでしょうし、休日出勤だってガンガンしてほしいということになるでしょう。

 このように、「経営者目線」を強調しすぎると、労働者にとって利益になることは、ことごとく否定されてしまいます。

 ある部分において、経営者の利益と従業員の利益は、明確に対立しています。それなのに、従業員に対して「経営者目線」を持てと言うことは、利益を放棄しろと言っているのと同じことです。

 そうやって過度に「経営者目線」を持った結果、待っているのは、「社畜」として会社の都合のいいように働かされてしまう未来です。

■ 「経営者目線」で働いても、給料は「従業員」

 忘れてはならないのは、どんなに「経営者目線」を持って働いたところで、しょせん雇われは雇われにすぎないということです。

 経営者顔負けの仕事をして、会社に莫大な利益をもたらしたとしても、もらえる給料はあくまで「従業員」としてのものです。少しぐらいは給料がアップしたり、昇進したりすることはあるかもしれませんが、それでも経営者が得るのと同じぐらい莫大なおカネを手にすることはできません。

 これは、ものすごくアホらしいことではないでしょうか。こんなまともな見返りもない状況で、「経営者目線」を持って働いても、自分が得することはありません。

 また、従業員が「経営者目線」を持って仕事をしなければならないとしたら、本当の経営者はいったい何の仕事をするのでしょうか。

 会社の立場で物事を考え、意思決定をするのは、経営者の仕事のはずです。それを雇われにすぎない従業員に求めるというのは、ある意味で経営者の「甘え」とも言えるのではないでしょうか。

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