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【三重】

せめぎ合う景観と経営 菅島採石場の緑化復元問題

山肌がむき出しの菅島採石場。景観を損なうとの批判はあるが、操業の歴史は長い=鳥羽市で

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 伊勢志摩国立公園内にある鳥羽市の離島・菅島の採石場の緑化復元計画が、関係の官民三者で結んだ協定期限の本年度末までに終わらない可能性が確実となっている問題で、来年度以降の計画作りが難航している。市は次期計画でも従来の手法で未履行分の採石を進めて緑化可能な緩斜面を整形するよう訴える一方、採石業者と菅島町内会は斜面整形・緑化の新たな手法を求めているためだ。採石量拡大の思惑や所有権も絡み、協議は停滞気味だ。

 協定は二〇〇三年一月に締結した。現地で採石する鶴田石材(名古屋市)は長年の操業で断崖状になった現場をのり面と平段を交互に設けて階段状の斜面になるよう採石しながら、一四年三月末までに現地本来の自然に戻るよう自己負担で緑化する−との内容だ。

 しかし、山上から麓に向かって進めてきた採石が不況などによる需要減で進められず、斜面整形が遅れだした。市や鶴田によると九月末時点で、協定対象二地区のうち、大山地区の進捗(しんちょく)率は採石量換算で87・5%、東山地区が10%程度。完成したのり面で順次行う植栽の定着もいまひとつだ。

◆双方が譲歩案、100メートルの隔たり

 次期計画のこれまでの交渉で、大山地区に関し、市は当初、未実施の標高五〇メートル以下を採石し、緑化は従来と同じのり面で植栽する手法を要望。対して、鶴田・町内会側はより急勾配の採石を山上付近の標高一七〇メートルからやり直し、平段に植栽する手法を主張した。その後、双方で譲歩案を出したが、採石開始の標高に約百メートルの開きがある。東山地区の議論もこれからの状態だ。

◆経緯と負い目、見えぬ妥協点

 鶴田・町内会側が急勾配の採石手法で採石量の拡大を求めるのは、緑化費用の捻出や地元雇用の長期維持などが理由。

 現場は二地区とも登記上は市有地。市は要求を拒めそうだが、慎重になる事情がある。

 昭和初期に進出した鶴田と早くから契約したのは、周辺町村が合併して市が一九五四(昭和二十九)年に誕生する以前の菅島村。二地区が市有地になった後も町内会は入会権を根拠に一部を除いて権利を主張し、契約を更新してきた。市も同意書を出し、追認した経緯がある。

 市が要求を貫けば町内会の反発を招き、真の所有者を確認する訴訟に発展する恐れがある。町内会も無理強いすれば、自然破壊との批判を市内外から浴びかねない。鶴田は協定を期限内に履行できなかった負い目がある。

 市は「裁判沙汰になれば泥沼化する。三者が納得できる結論を出したい」、町内会は「新たな採石は平地も増え、跡地利用の可能性が広がる。十年前の協定より、今後の十年を考えて」、鶴田は「採石させてとお願いする立場。地権者の意向に従うだけ」。妥協点はまだ見えない。

◆視線

 鳥羽の美しい海上風景に山肌がむき出しの菅島採石場は異様に映る。協定期限内の緑化復元が不可能な事態となり、市民が鶴田に不満を募らせるのは当然だ。ただ鶴田は事業が低迷しても売買契約通り毎年、市には一定額を、町内会には実績を踏まえた額の代金を支払ってきた。その誠意は評価されていい。

 責任の所在を探る時期は終わった。次の緑化復元計画を未履行時の対応を含めて綿密に練り、一歩ずつでも確実に進むしかない。

 (片山健生)

 <菅島採石場> 鳥羽湾に浮かぶ菅島の南西部に位置し、広さ約130万平方メートル。うち、菅島町内会が市有地と認めるのは約40万平方メートル。菅島を含む志摩半島一帯は1946(昭和21)年に伊勢志摩国立公園に指定され、自然保護意識の高まりを受け、市、町内会、鶴田石材は2003年、14年3月末を期限とする緑化復元の協定を結んだ。対象の採石量は大山地区819万立方メートル、東山地区395万立方メートル。期限内の履行が困難となり、地元各種団体などが期限後の方針について意見を述べる検討協議会が12年4月に発足、10月に「緑化工完成のため採石事業の延期はやむなし」と市長に提言した。

 

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