社説

初の安保戦略/緊張関係を高めないか

 取り巻く安全保障環境の変化を考えれば分からないことはないが、隣国との緊張関係をさらに高めることにならないか、懸念を払拭(ふっしょく)できない。
 きのう閣議決定された、外交と安全保障政策の初の包括指針となる「国家安全保障戦略」と、今後10年程度の防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」、2014年度から5年間の予算の枠組みを定める「中期防衛力整備計画」(中期防)である。
 安保戦略は外交・安全保障の司令塔、国家安全保障会議(NSC)発足を機に策定した。防衛大綱、中期防の上位に据え、安倍晋三首相は「今後の安全保障のありようを決定する歴史的文書」と意義を強調する。
 基本理念に自衛隊の海外展開を図る「積極的平和主義」を掲げ、中国、北朝鮮の軍事力増強を脅威と位置付けて、領土、領海保全強化を打ち出した。長年、国是とされてきた武器輸出三原則の見直しを明記し、愛国心を養う必要性にも触れている。
 安保戦略に沿う新大綱は専守防衛、非軍事大国化、非核三原則、文民統制の原則を維持しつつも、従来の抑制的な安保政策からの転換を鮮明にした。
 陸海空の各自衛隊を機動的に運用する「統合機動防衛力の構築」を基本概念に明記。1995年以降掲げてきた「節度ある防衛力の整備」を「実効性の高い統合的な防衛力の整備」とし、自衛隊活動を支える防衛力の「質と量を必要かつ十分確保する」と改めた。
 日本周辺の安全確保に向けて、海や空の状況を常時監視できる体制整備にも言及した。
 中期防ではオスプレイや無人偵察機を導入。E2C早期警戒機の部隊を新たに編成し、離島防衛強化のため水陸両用部隊も創設する。予算は24兆円超を想定、3期ぶり増額の見通しだ。
 確かに、中国は不明朗な軍事力増強を続け、海洋進出も活発化させている。北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、安全保障面のリスクは高まっている。
 備えの必要性はあり、同盟強化に向けて米国も好意的に受け止めよう。ただ、沖縄県・尖閣諸島などをめぐり対立を深め、首脳会談を開けない状況下で、中国との新たな摩擦の種にならないか。
 力に頼るような政策には危うさが伴う。鎧(よろい)を厚くする対応が軍拡路線強化の口実を与え、対話の機会を一層遠ざけるならば、賢明な選択とは言いにくい。
 信頼関係の構築に勝る抑止力はない。ソフトパワーは装備の高度化を補完することにもなる。あらゆるチャンネルを通じて意思疎通を図るべきだ。
 大国同士による不測の事態を憂慮するASEAN諸国などとの連携を進めて、政策への理解を得ていく作業も欠かせない。
 新たな安保政策は国の形にも関わり、国民への丁寧な説明と国会での慎重な審議が要る。
 日本が大事にしてきた平和国家のイメージは無形の財産だ。国際社会の支持を後ろ盾に、緊張緩和につなげる「最高のカード」を損ねてはいけない。

2013年12月18日水曜日

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