外国から日本を訪れる旅行者が今年、初めて1千万人を突破する見通しとなった。円安に加え、タイとマレーシアに対する観光ビザ免除が後押しした。 大勢の外国人が日本に関心を持ち、来てくれるのはうれしい。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産となった和食をはじめ、日本の魅力を広く伝えたい。草の根交流を深める入り口にもなる。 政府観光局のまとめでは、今年1~11月に約950万人の外国人が日本を訪れた。前年比約24%も伸びており、年間では史上初の1千万人を突破する見通しだ。 京都を訪れる外国人観光客も増えているようだ。JR京都駅ビル内の京都総合観光案内所を今年1~9月に利用した外国人は約19万5千人で、前年比21%増えた。 円安による日本観光の割安感が追い風になったのは間違いない。格安航空会社(LCC)の国際路線が充実したことも大きい。 目立つのは、東南アジアの国々だ。前年比でタイは69%、ベトナムは54%、インドネシアは36%など、軒並み高い伸びを示した。東南アジア諸国連合(ASEAN)を重視する安倍晋三政権の外交方針も一役買ったといえよう。 訪日外国人の3分の2は韓国、台湾、中国(香港を含む)が占める。こうした近隣諸国との関係は観光客数に敏感に跳ね返る。 韓国の場合、竹島をめぐって世論が硬化すると来日客が減少する傾向がある。最近数カ月は、福島第1原発の汚染水問題への懸念から減る傾向にある。 尖閣諸島をめぐり対立が続く中国からの来日数は、夏まで減少が続いていた。団体旅行の復調で、ようやく増加に転じた。 政府が訪日を促進する「ビジットジャパン」運動を始めて10年。観光を成長戦略の柱と位置づける安倍政権は、30年までに年3千万人を目標に掲げるが、実現は容易ではない。1千万人達成は目標から3年遅れている。 伝統と現代性を兼ね備え、治安が良く、清潔な日本は、多くの外国人に魅力的に映るはずだ。多彩なイベントや旅行会社との提携、メディア向けPRなど、現地での誘客活動を充実させ、円安のチャンスを生かしたい。観光地の受け入れ環境を向上させることも重要だ。 ただ、領土や歴史認識をめぐって中国や韓国との関係改善が進んでいないのは気がかりだ。せっかく魅力をアピールしても、国民感情が悪化しては台無しになる。 物見遊山ではなく、人と人がふれあえる観光を大切にしたい。平和と友好の促進に、観光が果たす役割は決して小さくない。
[京都新聞 2013年12月16日掲載] |