まとめ
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7/30 バニかわ村への取材を許可された我々は道中カメラや機材を取り上げられ、分厚いアイマスク、そしてヘッドホンをさせられて車に乗せられた。車は長く走り続ける、覚えないように遠回りの道を選んでいるのだろう。バニかわ村に着いた時には真上にあった太陽が山の向こうに隠れようとしていた…
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バニかわ村の代表だと言う村民と握手を交わす。「村長さんですか?」「いいえ、この村に村長はいません。皆が同じようにバニーちゃんを愛す平等な村、それがバニーちゃん可愛い村、通称バニかわ村です」その笑顔はバニーちゃんへの慈愛に溢れ、今までの過剰な警戒など想像できない牧歌的な村であった
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村はかわいい村の名前に違わず穏やかでゆったりした雰囲気の場所だ。代表に紹介された時、最初は皆が好奇心と奇異の目で我々を見ていたがすぐに警戒心を解いてくれた。村民同士庭先で話をしていたので、その会話に我々も混ぜてもらった。
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取材班が声をかけた。その時の村民をここではA,B,Cと呼ぶ。「こんにちは」ABC「バニーちゃんかわいい!」「ええっ?」A「あ、すみません…!ここではバニーちゃんかわいいは普通の挨拶なんですよ」B「というか、外の人が来るのは初めてで…そんなに驚かれるなんて!」異文化交流と言うやつか
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「バニーちゃんかわいい、は出会った時の挨拶?」C「いいえ、目覚める時も、眠る時も…生への感謝も、全てバニーちゃんかわいい、です」なるほど…バニかわ村におけるバニーちゃんの存在の大きさと、村民の愛を知るには十分過ぎる挨拶である。「バニーちゃんかわいい!」と我々も言ってみた。
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なんだか照れくさいが、その様子を見ていた周りの村民もワッと歓声を上げ、我々を祝福してくれた。どうやら仲間として受け入れられたようだ。「バニーちゃんかわいい!バニーちゃん天使!」その夜はバニーちゃんかわいいコールで夜がふけて行った…
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7/31 バニかわ村で朝を迎えた。夜中も遠くで微かに太鼓の音が聞こえ、少し寝苦しかった。朝食がチャーハンというのも厳しい。村民の家に泊めてもらったが家具は全て兎モチーフであり、全体的にピンクで可愛らしい。ほとんどの家がそうであるらしい。さて、今日はバニかわ村の中を案内してもらう。
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どうやら取材班全員が同じように睡眠不足な様で、足取りは重い。「どうされました?」「いえ…昨日太鼓のような音が聞こえて…それで…夜中にドーンドーンって音が聞こえるんですが…あれはなんの音でしょう?」我々の質問に案内役の女性は苦い顔をした。何かまずい事を聞いただろうか…?
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「あれは…まぁ、この村特有の儀式のようなものです」「儀式?」牧歌的なこの村に似つかわしくない言葉にギョッとしながらも、好奇心をくすぐられた。「儀式というのは、バニーちゃんに関わるのですよね?」「ええ、もちろん」案内役の女性、ここではDと呼ぶ、彼女はその音の原因を語り始めた。
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「バニーちゃんかわいい村には派閥というのがありまして」「派閥?」「派閥…というか、どういったバニーちゃんが好きか、という嗜好で住む場所が分かれているのです」彼女が指さす先に立て看板があり、「バニーちゃんかわいそかわいい地区」と書いてある。地区分けがされているとは知らなかった。
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「それで…音の出所ですが」「はい、バニーちゃんを語る上で外す事の出来ない存在が「かぶらぎこてつ」です」「かぶらぎ…こてつ…?」どうやら人物名のようだが思い当たる節は無い。バニーちゃんかわいいを語る村民の口からバニーちゃん以外の名前が出るとは思わず、聞きいってしまった。
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「その、かぶらぎ…こてつさんですか?その人がどうされたんですか?バニーちゃんかわいい村の村民さんですか?」我々の立て続けの質問にDの表情は複雑そうなものになった。まるで、嬉しいような、悲しいような、そう、この顔は、まるで娘の彼氏の事を語る父親の様な顔であった。
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「かぶらぎこてつは、バニーちゃんのバディであり、親友であり、親子であり、恋人であり…我々の敵、そして味方です」「敵で…味方…?」
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「そう、時に我々の憎悪を、時に称賛を、羨望を、そしてなによりバニーちゃんからの…愛を一真に受けるのが…彼です。そしてあなた達が泊まられたこの地区はこてつさん裏山に近い…私もここの地区に今住んでいますが…ここの住人の儀式が”壁殴りの儀式”です」「壁を…?」
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しかしこの地区一帯には壁の無い家が多い。建築途中かと思っていたが違うのか…?「この壁は昨日の夜破壊されました」「ええっ」「昨日の晩、バニーちゃんかわいい村回覧で”バニーちゃんこてつさんちにお泊まりす!夕飯はナポリタン!!!”って回ってきたせいです」「それで壁を…」
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どうやら件のかぶらぎこてつという人物とバニーちゃんがイチャイチャすると嫉妬の嵐が吹き荒れ、壁を殴りまくるのが裏山地区の人たちらしい。壁を壊す程の力とは…想像するだけで冷や汗が流れた。しかしかぶらぎこてつを語る彼女の目は嫉妬と、愛情に溢れていた…どうやら深い事情があるようだ…
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バニかわ村には様々な地区がある。「バニーちゃんかわいそかわいい地区」「バニーちゃん天使地区」「バニーちゃん妖精地区」…細かく分かれた地区があるが、そのどこの住人も「バニーちゃんかわいいですね!」と挨拶をしてくる。我々も「バニーちゃんかわいい!」に慣れ、それが当たり前になっていた。
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夜は村の真ん中にある「バニーちゃん天使の像」を囲んで語らう村民の輪に混ぜてもらった。隣に座った村民Eは緑のトラとピンクのうさぎを大事そうに手に持っている。「それは?」「えっこれは、バニーちゃんと虎徹さんです…!」照れくさそうに笑う彼女の言葉を我々はすぐには理解出来なかった。
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「こてつ…とはかぶらぎこてつさんですよね?それがこの緑のトラとどんな関係が?」ニコニコと笑う彼女はそれ以上語らない。後で聞くと彼女は「コテバニちゃんかわいい地区」の住人であるらしい。コテバニ…とは…?こて…こてつ…?ばに…は、ばにーだと思われるがそれ以上は聞き出せなかった。
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バニーちゃんかわいい村における「かぶらぎこてつ」の存在感を感じながら、村民への取材は続く。「バニーちゃんかわいいいいいい」「そうですよねばにーちゃんかわいいいい」「バニーちゃんってわたがしみたい」「あーわかる!!」うふふふ!と笑い合う村民は幸せそうだ…
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しかし実際取材して、本当に「バニーちゃんかわいい」にかける熱意と愛以外特別なことなど無いと思われた。バニーちゃんのかわいさを広めたいならもっと人を受け入れてはどうか?という事をフィギュアーツをいじりまわしている代表者のそばに行き提案してみた。しかし私はそれをとても後悔した
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「外?外にバニーちゃんかわいいを広める?あなた正気ですか?」「いえ、実際この村を気にいったので、この村の良さを外に紹介したいと思いまして…良ければ、私の雑誌に…」「…バニーちゃんかわいいは…容易に外に漏らすものではない…」フィギュアーツをそっとうさぎのぬいぐるみの上に置いた。
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「あなた達はバニーちゃんかわいいの挨拶を受け入れた大切な客人だから、このまま楽しんで帰ってほしいのです…あまりここの者達を刺激してはいけない」どういうことだろうか、この穏やかな村民達がどうしたというのだろう。私は自分のすぐ後ろでその話を聞いていた者がいるのに気付いていなかった。
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「かわいい村をどうするって?」「うあっ」「外に紹介するっていいました?そんなことすればこの村がどうなるか…!!」「恐ろしい!!」そこに集まった村民達が一気にどよめく。気付けば周りを村民に取り囲まれており、取材に使うマイクやカメラも全て取り上げられ縛りあげられた。
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カメラからは全てのテープが抜き取られ、音声データも破棄された。たった2日とはいえ、我々が集めたバニかわ村の情報が無に帰したのだ。「なんてことを!」テープを裂きながら代表者が冷めた目でこちらを見やる。「取材なんてやはり許可しなければ良かった…ここはかわいい族の理想郷…」
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