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【社説】

フィンランドの教育現場(2) 人に投資、現場を信じる

 教育大国と呼ばれるフィンランドの転機は一九九〇年代のバブル崩壊後に訪れた。財政難で教育予算も大幅な削減が求められた。だが当時の教育相は「教育の力で不況を切り抜けたい。むしろ予算を増やして人に投資すべきだ」と、大胆な教育改革を打ち出した。

 教育の権限は国から地方へと移され、予算執行は自治体に任された。学習内容も国は大綱によって最低限の目標を示すだけで、具体的なカリキュラムや授業配分は自治体や学校が決める。現場の裁量は広がる一方、教師にはより高い質が求められるようになった。

 教職の人気は高い。大学の養成課程には意欲ある学生が集まり、みな修士号を取る。「教職に就いてからも指導法の研究は欠かさない」とコトカ市の中学校教師タイナさん(36)。「教師は競争を勉強の動機づけにしないのです」

 子どもたちは「勉強は自分のためにするもの」と教えられる。金曜日の小学校では、ある子は国語の書き取りに、ある子は計算問題に取り組んでいた=写真。「週内に十分に達成できなかったことを、それぞれが考えて補習している」と担任が教えてくれた。

 義務教育は日本と同じ九年。最後に到達度をはかる学力テストがあるが、それは公教育を競わせるためのものではない。学力差のある子らが同じ教室で学びながら、一人一人が目標にどう近づくのかが大切にされる。詰め込みや点数競争にさらされない子どもたちの姿はのびのびとしてみえた。

 学校や教師の「責任とやる気」にかけたフィンランドの改革は、国際的な学習到達度調査の上位国となることで成果を収めたようにみえる。だが課題がないわけではない。一部の自治体では、人件費抑制のために教師が交代で休まされるようなことも起き、学習環境の悪化が心配されている。

 「よりよい公教育を目指し、学校や教師は努力してくれる」。来日したキウル教育相は学校現場への信頼を口にし、「それでも」と言葉を継いだ。「私たちの改革はまだ道半ばです」 (佐藤直子)

 

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