2013年12月15日23時02分
■作家・真山仁さん
日米の宇宙開発競争をテーマにしたスパイ小説「売国」を週刊誌上で連載しています。特定秘密保護法案の動きを知って、この小説で法案を題材にしようと準備していたら、あっという間に成立してしまった。あぜんとしました。
安倍晋三首相は、第1次政権からの宿願だった国家安全保障会議(日本版NSC)を機能させるため、特定秘密保護法を急ごしらえで持ち出した。目的と手段が逆転した典型例です。
国家公務員の機密情報漏洩(ろうえい)を防ぐなら、すでに国家公務員法がある。スパイ対策なら、それに特化した法律にすべきでした。しかも条文に具体性が薄く、ときの権力者が思惑通りに解釈・運用できるスキがいくらでもあります。
マスコミを牽制(けんせい)する効果もあるでしょうが、官僚の萎縮効果は大きい。わたしは現実を相対化させたフィクションを書くため現役の官僚や検事にも取材しますが、これから情報は得にくくなるかもしれません。
こんな危険な法律に対し、私たちは書くことで「表現の自由」の意味を示していく以外にない。来年2月ごろ、「売国」の主人公の地検特捜部検事は公務員の機密漏洩事件に切り込む予定です。特定秘密保護法を取り上げる小説の第1号になるでしょう。法律ができても作家は同じ仕事が続けられるのか、という実験です。萎縮してゆるい小説を書いたり筆を折ったりしたら、それこそ敗北ですから。
おすすめコンテンツ
※Twitterのサービスが混み合っている時など、ツイートが表示されない場合もあります。
朝日新聞官邸クラブ
PR比べてお得!