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社説

ASEAN外交 平和主義で信頼関係深めよ 2013年12月17日

 日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国との特別首脳会議が東京で開かれ、一層の経済協力や、中国が東シナ海上空に設けた防空識別圏を念頭に置いた「飛行の自由」協力強化などを盛り込んだ共同声明を採択した。同会議は日本とASEANとの交流40周年の節目に合わせたもので、これまで双方が築き上げてきた平和的な信頼関係を礎に今後、さらに醸成、発展させていく外交努力を求めたい。

 これまで日本がASEAN外交の基盤としてきたのは、故福田赳夫元首相が1977年に発表した「福田ドクトリン」だ。この基本原則には(1)日本は軍事大国にならない(2)心と心の触れ合う相互信頼関係を築く(3)対等な立場でASEANに協力-との内容が盛り込まれている。

 当時は、日本の輸出攻勢と第2次大戦時のアジア侵略の記憶と相まって、74年にインドネシアで反日暴動が起きるなど、ASEANとの関係は緊張をはらんだものだった。日本は平和主義を原則とした経済、社会交流を柱にする外交によって、徐々に安定的な関係を築き上げてきた。

 それは、東西冷戦下で反共産主義の政治的色彩を帯びていた地域機構から脱し、ベトナムなどの加盟を経て、経済主体の共存共栄関係を目指すようになったASEANの歩みを支えたとも評価できよう。

 安倍晋三首相は就任1年足らずのうちに加盟10カ国を回り、これまで以上にASEAN重視の姿勢を示している。しかし、そこには安全保障でも共通の課題をテーブルに乗せようとの狙いもかいま見える。

 日本側の主張によって今回の共同声明に盛り込まれた「飛行の自由」協力強化は、明らかに中国包囲網づくりを意識したものだ。こうした「飛行の自由」に対する共通懸念を招いたのは、もちろん一方的な防空識別圏設定を行った中国の強硬姿勢に責任がある。会議参加国の総意として共同声明が出されたことは、緊張をもたらす中国の動きをけん制する上で意義はあろう。

 ただ今回、日中対立の構図がASEANに持ち込まれることに、各国が懸念を示していたのも事実だ。中国の動向を「安全保障への脅威」と表現した声明原案は、ASEAN側が了承せず修正を余儀なくされた。南シナ海での中国との領有権問題を抱えるベトナムのグエン・タン・ズン首相でさえ、今回の会議前に共同通信の取材に対し、防空識別圏問題をめぐる日中対立は「平和的対話」を通じて解決すべきとし、日中はともに「ASEANの重要なパートナー」だと表明していた。

 2015年に予定されているASEAN経済共同体の発足を前に、親日、親中国で加盟国が分断されるような政治的対立には巻き込まれたくない-というのがASEAN側の本音ではないか。

 日本はそうした意思をくみ取って「福田ドクトリン」の原点に立ち返り、決して軍事的緊張をもたらさずASEAN各国の団結と経済成長に寄与していくという平和主義の外交姿勢を明確にすべきだ。それが、中国の非協調的な姿勢との違いを際立たせ、これまで築いてきた信頼関係をさらに深化させるはずだ。


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